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作品名:Ga-Row 〜The space they called 'Street Artists' are〜 作者:nakoso

第39回 Characters MIX / HANA-bing テクノ!

 あらかじめ録音しておいた自分の声には違和感がある。
『花火とテクノのコラボレーションです――』
 メッセージが流れてから沸いた歓声は、一気に膨らみ上がった。



  <Thirty-Nine : Characters MIX / HANA-bing テクノ! >



 A館すべてのライトが一斉に落ちて、秋哉の手元を照らすライトスタンドだけが闇に浮かんだ。
 観客の期待感を否応なく肌で感じる。花火とテクノの組み合わせなんて、秋哉も初めてだ。不安がないわけがない。だがそれ以上に。
 やるしかない。
 短くなったタバコを、秋哉は灰皿に押し付けた。


  ☆ ★ ☆ ★ ☆

 冷ややかで綺麗な満月に、一澄の心は奪われた。スピーカーが、重いベースラインに震える。星々が瞬くような涼やかなメロディーに続いて、ハイハットが高鳴る。
 浮遊感を4つ打ちが支える。
 夜空の下――――――海の上。唐突に、何かが光った。ひと筋の線が空に打ち上がる。
 高く高く舞い上がった光の筋は。
 シンバルの音と同時に夜空に弾けた。
 濃い群青のキャンパスに花が咲く。
「おおっ!」
 となりでヒナが声を上げた。

  ★ ☆ ★ ☆ ★
 どぉんっ!
 腹の下を打つ爆発音に智は腕時計を見た。だいぶ遅れてはいるが、問題はないだろう。
 明仁と玖美が驚いた顔をしていたが、里央はそれ以上に慌てふためいた。
「何!? 何っ!?」
 疑問が浮かんで智の口を突いた。
「え? 里央は知らないの?」
 顔の前で手を振って、里央は早口で答えた。
「知らない知らない。え、何を?」
 もう支離滅裂。
「里央が言ってた、目玉イベント」
「そういうのがあるよってことしか知らない」
 意外――というよりも、冷静に考えればすぐにわかることだった。花火を打ち上げることを知るのは、演出係と秋哉だけ。他言しないようにしているのだから、係でない里央が知るはずもない。
「花火だよ」
『ほんとっ?』
 里央と玖美が同時に聞くもんだから、たじろいだ。
「見に、外に出ませんか?」
 目を輝かせる2人に圧倒されつつ、智は明仁に伺った。肩をすくめた彼は2人を見て苦笑を浮かべ、
「いいよ」
「決まりっ」
 何故か里央が人差し指を立てた。


  ☆ ★ ☆ ★ ☆

 小節の節目に鳴り響くシンバルと同調した花火で、ヒナはすっかり興奮していた。
 秋哉のプレイするトラックのメロディーが軽快に疾駆。合わせて花火も打ち上がる。
 メロディーの押さえる音符の要所要所を彩る花火は、アートライヴを彷彿とさせた。
 メロディーが夜空に花火を咲かせている錯覚。
 自然と体がリズムを取り始める。
「すごいすごいっ!」
 興奮のあまり、ヒナは大声で一澄の肩を叩いた。
「痛い痛いっ!」
 一澄の悲鳴にも興奮が入り混じる。
 ヒナと一澄だけじゃない。バースペースのみんなが――それこそバーテンダーまでもが――皆一様に花火を見上げ、花開く度に声を上げた。
 ガラス張りの壁――いや、夜空そのものがスクリーン。
 こんな演出を考える人間と、こんな演出をやってのけてしまえる人間が。
「とんでもなーいっ!」
 スクリーンに花火が重なった。


  ★ ☆ ★ ☆ ★

 ――すっげ!
 レコードを変えながら、秋哉は声を出して笑っていた。初めて行なう、花火演出のアクト。
 あらかじめ曲目を決めて本番に臨んだとは言え、こうも完璧にメロディーと合うなんて。
 突き上がるテンションを抑えきれない。
 フロアを見れば、躍って波打つ観客の影。
 ヘッドホンを耳からずらせば、大音量のトラックと大歓声。
 ――大っっ成功だろ、こりゃ!
 気持ち良すぎる。
 大きく両腕を開いた秋哉も、観客に混ざって歓声を上げた。


  ☆ ★ ☆ ★ ☆

 花火は空にだけでなく、海の上にもその姿を映した。
 波止場に行き交っていた雑踏は息を潜め、人々は立ち止まって空を見上げる。花火が夜空にカラーを散らす力強い低音と人々のため息。C館の入り口を出てすぐ脇の壁で、智たちは火薬の美を眺めた。
 どんっ。どんっ。
 連打する花火太鼓に、里央と玖美がはしゃぐ。花火の光をカラフルに受ける明仁の横顔が、ぼそりと呟いた。
「綺麗だな」
「ええ」
 智は微笑んだ。


  ★ ☆ ★ ☆ ★

 DJブースの隅に置いた腕時計を、秋哉は横目で睨んだ。このコラボアクトに用意された時間はわずか10分。短くねぇか? 不服を感じて聞いた時、火薬の量にも都合があるんだよ、とトモに怒られた。ぽんぽん打ってたら我楼が破産する、と。
 残り3分ちょい。
 こうなったら、思いっきり楽しんでやる。
 レコードを回し、メロディーを重ねて。
 アクトのクライマックスに備える。


  ☆ ★ ☆ ★ ☆

 大玉・中玉・小玉。大小、形それぞれの花火が音楽に乗って舞い散る光景なんて、一澄にとって初めての体験だった。興奮しながら、心の底から楽しんでいる自分がいた。となりのヒナもハイテンションだが、一澄もまたハイテンション。
 こんなの見せられて、ここまで魅せられて、楽しくないはずがないっ。
 シンバルとメロディーにシンクロした3発の花火が大満開。バースペースが拍手と歓声でいっぱいになる。
 言葉にならない声でヒナとはしゃいで、手を叩き合った。
「おっと」
 危うくイスから落ちそうになったり。
「大丈夫?」
 上気した声で、ヒナが心配してくれた。
「あはははは!」
 もう、何もかもが楽しい。
 テンションは天井知らず。
 スピーカーのメロディーはさらに盛り上がる。
 花火がまた上がった。
「たまやー!」
 ヒナが両手を突き上げて、花火に呼応した。


  ★ ☆ ★ ☆ ★ 

「トモ」
 智よりも5センチほど低いところにある里央の目は、彼女の昂ぶりに輝く。
「こんな演出するなんて、クールなことしてくれるじゃない」
 拳を智の肩に突き当てた。
「A館は今頃、すごい盛り上がりだろうね」
「A館が? どうして?」
「これ、秋哉のプレイとリンクしてんの」
 智が指差した空に花火が開いて、目と口を丸くした里央の顔を照らした。
「本気で!?」
「クールでしょ?」
 彼女の口癖を真似る。
「A館にいるべきだったっっ」
 Shit! ――本気で悔しがる里央の肩を叩いてやると、キッと睨まれた。
「楽しんでる」
「そんなことないよ」
「にまって笑った」
 バレたか。


  ☆ ★ ☆ ★ ☆

 4つ打ちが消えて、メロディーが不意に変わった。サンバに似た軽やかな旋律。卓上でレコードを力いっぱい回転させたスクラッチ音がかぶる。
 秋哉のプレイを熟知するヒナはクライマックスを察知した。
 ハイハットを連打する硬い音がフェイドイン――
『Ga-Row da fiesta!!!!!!!!』
 男女入り交えたシャウトで4つ打ちとパーカッションが震動――ひと際でかい花火が乱舞――メロディーが一気に活気付いた。
 バーカウンターが嬌声で沸く。
 ボルテージ最高潮でトラックが駆ける。
 花火連発――夜空が煌々と焼ける。
 ――ドンッ♪ ドンッ♪ ドンッ♪ ドンッ♪
 イスから飛び降りたヒナは躍り出した。体の奥から熱い。
 盛り上がりに盛り上がるトラックに、花火が勢いを増す。
 連発の連発――乱発。
 気付けばとなりで躍っていた、一澄と満面の笑顔を交わす。愉楽がヒナの頭を突き抜けた。
 ――ドンッ♪ ドンッ♪ ドンッ♪ ドンッ♪
 時折入るスクラッチにテンションが拍車をかけ。
 ――ドンッ♪ ドンッ♪ ドンッ♪――――
 突如4つ打ちが消える。花火が止む。
 フィルター効果をかけたスクラッチがめちゃくちゃに掻き鳴って――

 トモの視界で打ち上がった1発は、高く高く空を目指し――

 恍惚感に秋哉が両腕を突き上げる――

 一澄が息をするのも忘れた時――

 最も大きい花火が、シンバルと一緒に弾けた――――――――!






 ありがとう、秋哉。
 胸の中で、ヒナはそっと呟いた。









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