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作品名:Ga-Row 〜The space they called 'Street Artists' are〜 作者:nakoso

第33回 HINA / アート天然素材

 日が暮れる頃には我楼に設置された照明が存分に効果を発揮していた。鉄パイプで組まれた人型オブジェが、様々なポーズで頭部の白熱灯を光らせる。我楼全館の壁にはそれぞれ、ブラックライトで『Here is ARTful life!!』の文字が浮かび上がった。



  <Thirty-Three : HINA / アート天然素材 >



「――里央ー!」
 一澄と並んでA館の前に到着したヒナは、見知った顔を見つけて手を振った。
 A館の入り口ゲートで受付の女と仲良く話していた夏見里央は、ヒナを見つけると顔を輝かせた。
「ヒナだー!」
 ハスキーな声で叫ぶが先か、ヒナに駆け寄って思い切り抱きつく。
「うおっと」
 危うく倒れそうになった体を、慌てた一澄が支えてくれた。
「C館見たよ! すんごいクール!」
 里央は詫びれもせずにハイテンション。
「いや〜、そう言われると照れちゃうんだよねー」
「けど、うれしいでしょ?」
「そりゃね〜〜」
 にひっと笑って、ぽんっと手を叩く。
「これがさっきの夏見里央。DJやってるってゆー」
 一澄に向き直ったヒナが紹介すると、彼女は得意の笑顔で挨拶した。
「御杉一澄です。写真、見させてもらいました。きれいな写真ですね」
「ありがと♪ 初対面だから今回はいいけど、敬語は使わなくていいよ」
 ヒナから体を離した里央は右手を差し出して、一澄と握手した。
「あなたが一澄さんね。ヒナから話は聞いてるよ。あのふんわりの代名詞、トモの彼女さん」
「ふんわり?」
 眉を上げた一澄に里央は手を動かしながら答えた。
「トモって雰囲気がふんわりしてない? つかみどころがないって言うか、何かでくくれない雰囲気」
 何かを伝えようとする時、手も一緒に動かすのが里央の癖だ。煩わしいわけではないが、どうしても慌ただしく見えてしまう。
 ま、もっとも。ヒナ自身、決して落ち着いているわけではないが。
「いろんなことしてる人だからかな」
 うん、うん――ふんわりという表現に一澄も同感を示した。
「写真とか映像とかって本来、柔軟な性質があるものね。アートそのものが柔軟性持ってるけど、どうしても自分風にアレンジしちゃう。自己表現のツールだからそうなるのも当然だけど、トモの場合、自分の柔軟性を試してるように思えるのよ」
 絶えず手を動かしつつさらさらと述べる里央は、ヒナは半開きの口で聞いた。
「へ〜え」
「……ちょっと、ヒナ?」
「へ?」
 唇開きっぱなしのヒナを里央が鋭く睨んだ。
「あんたもストリートアーティストなら、アートについて考えたりするでしょ。アーティストとしてトモがどんな人間か、考えたりもするでしょ」
 ぽんぽん頭を叩く彼女の手を払いのけ、ヒナは唇を尖らせた。
「そんな難しいこと考えないよー。あたしは絵が好きなだけだし、好きだからやってるだけだから、アートがどうとか…うわっ」
 反論の途中で里央が勢い良く抱きついた。
「うん、それでこそヒナよね。私の好きなヒナよねー!」
 歓喜あふれる里央の笑顔を、ヒナは慣れているからいいが――横目で捕らえた一澄は、明らかに圧倒されている。
「一澄〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
 手を差し伸べて助けを仰いでも、身を引いた一澄は笑顔で手を振った。
「邪魔するのは野暮じゃない?」
 仕方なく自力で里央を引き剥がした。
 全力で。
「つれないな〜」
 いたずらな笑顔でぼやいた里央は、お? とヒナの背後を見やった。その視線を追ってヒナと一澄が振り返る。
「おう。こんなとこで何やってんだ?」
 秋哉とサトがノコノコと歩いてくるところだった。
 びくんっ――心臓が膨らんで気道が縮まったような感覚。意味のわからない緊張感がヒナの背に忍び寄った。
「どこ行ってたの?」
 いつものように、一澄が尋ねる。
「メシ食ってまったりしてた」
 いつものように、秋哉は答える。
 わずかに変わった空気を鋭敏に察したらしい、里央はヒナの顔を覗き込むと、にかっと笑った。
「何それ」
 言ってからはっとして、ヒナは口を手で押さえた。聞けば誰でもわかりそうなまでに震えている。ぽんっ――ヒナの頭に手を乗せた里央が、文字盤が見えるよう腕時計を秋哉に突きつけた。
「そろそろ時間でしょ? アクトの時は余裕を持って行動しなさいよ」
「すんげー余裕」
「あんたじゃなくて時間」
 呆れた口調で里央は即座に切り返した。
「わーかってるっての」
 うるさそうに秋哉は眉をひそめた。
「前のアクトが時間押してんだろ? それ聞いてっから大丈夫だって。ちゃんと時間に余裕持って動いてるよ、俺は」
「秋哉さんのDJ、楽しみにしてるよ」
 一澄の満面の笑顔に、秋哉の眉が上がる。
「トモは? 一緒にいねぇの?」
「忙しいみたい」
「慌ただしい彼氏持ったなー。ヤツの彼女も大変だわ」
 軽い口調でも、秋哉の表情はどこかぎこちない。何も知らないヒナは疑問を持った。
「――じゃ、そろそろ行っか?」
 ずっと無口・無表情を一貫していたサトが小さく秋哉に応える。
「ん」
「がんばってねー」
 努めて自然に、ヒナは手を振った。
「ま、いつも通りやってくるさ」
 秋哉にとって、Ga-RowでのDJアクトも普段のアクトも変わらないらしい。リラックスしてけろっとした顔が、むしろ彼らしかった。
 入り口ゲートに吸い込まれていく2人の姿を、ヒナはずっと目で追った。緊張感はまだ尾を引いていた。
「――秋哉と何かあった?」
 やたらと勘が鋭く、まだ頭に手を乗せたままの里央がやさしく聞いた。ヒナが何も言わずに唇を結んでいると、彼女は鼻から息を吐いて、
「言いたくないなら詮索なんてしないけど、後悔してるんじゃないの? いつだってクリエイティヴなヒナが足踏みしてるだけなんて、なんだかヒナらしくないな」
「……どして、そんなにあたしのことわかるの?」
「あんたの場合、わかりやすいんだよ。それだけ意識と無意識が近い位置にあるってことだろうし、アーティストにとって大事なことなんだけど。だから感情的なものがすぐに表情に出ちゃうのよね。――じゃない、一澄ちゃん?」
 同意を求めた先で、こくり、一澄は頷いた。
「他の人より、よっぽどわかりやすい」
 なんだか妙に恥ずかしい。
「え、そんなに?」
 一澄と里央、2人の顔を交互に見比べると互いに顔を合わせ、
『うん』
 同時に肯定した。
「何も、声までそろえなくてもいーじゃない」
 息の合ったリアクションに戸惑うヒナを横目に、
「一澄ちゃん。あんた、なかなかナイスな人だよ」
 再び握手する里央と一澄。
「里央さんこそ。ヒナから、変わったキャラだって聞いてたけど、おもしろい人なんだね」
「へー、そー」
 不自然なまでに破顔した里央の視線が、上からヒナに突き刺さる。
「あんたの方が変わってるって」
「そんなことない」
「かわいーからいいけど」
「あー、そー」
 抱きついた里央に、もう身を任せることにした。



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