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作品名:Ga-Row 〜The space they called 'Street Artists' are〜 作者:nakoso

第29回 TOMO / 人それぞれの、その人perfume

 C館の3階はバースペースになっていた。智自身、ここに昇るのは久しぶりだ。
 テーブルとソファ、スツールがレイアウトされたスペースには暖色系のライトがおとなしく灯っていた。客入りは半分ほど。
「いらっしゃい」
 階段を上ったすぐ脇の、バーカウンターの中でミナが手を振った。
「ミナさん、かっこい〜〜〜」
 並んでカウンター席に着くや、バーテン姿の彼女に一澄が感激。調子に乗ったミナは一澄の顎を指先で撫でた。
「こらこらこら」
 ヒナが慌ててミナの手を押しのける。
「どうしてヒナが怒るのよ」
 ミナの不満顔にヒナはさらりと。
「智を怒らせたらあたしでも手に負えないから」
「俺はそんなに短気じゃないよ」
「うそぉ〜?」
 にやけるヒナの額をはたくと気持ち良く音がした。



  <Twenty-Nine : TOMO / 人それぞれの、その人perfume >



 3人それぞれ飲み物を頼むと、実に慣れた手つきでミナは3つのグラスにカクテルを注いでみせた。細く長い指でコースターを滑らせ、グラスを乗せる。
「ありがと」
 トモは礼を言って、目の前に出されたジントニックを口に付けた。
「ミナさんって、いつからバーテンやってるんですか?」
 羨望の眼差しで一澄が尋ねる。
「仕事でし始めたのは大学入ってから。カクテル作りは高校からやってたんだけどね」
「誰かからの影響ですか?」
「おじいちゃん」
「おじいちゃん!?」
 どうやらヒナも知らなかったらしい。一澄以上に目を丸くした。
「多趣味なおじいちゃんだったのよ。私がシェイカーに興味示した途端に教えてくれちゃったりして。そのおかげで、、こうしてバーテンしてるんだけどね」
「おじいちゃんもバーテンダー?」
 ヒナの素朴な疑問にミナの首は横に揺れた。
「あくまで趣味。家でしか作らなかったのよ」
 と、彼女は智を見て、
「トモは何度か作ってもらったこと、あるよね?」
 微笑んだ。
 東季に連れられ、八幡家へ行った時のことを思い出す。
『多趣味なじいちゃんでさ、カメラもじいちゃんの影響なんだ』
 誇らしげに、東季は笑っていた。
「かっこいいおじいちゃんですねぇ」
 しんみり言う一澄が妙におかしかった。
「そうそう」
 ぽんっ。ヒナが手を合わせる。
「1階の照明オブジェ、ミナのだよね? きれいだったよー」
「え? そうだったの?」
「多面体のガラスの箱に電球を閉じ込めたやつがあったでしょ? あれがそう」
「あー、あれ」
 本人の代わりに智が説明してやると、一澄が数度頷いた。
「ヒナ。壁の絵、かなり好評よ。お客さんみんな言ってる。やるじゃな〜い」
「え、ほんと? や〜、なんだか照れちゃうね〜」
「スペースを囲うのにいい壁になってるんじゃない? ヒナの絵、私は好きよ」
 ミナの賛辞に次いで一澄も頷く。
「うん、私も好きだよ」
「みんな、ほめすぎだよー」
 目に見えて落ち着きを失ったヒナが、照れ隠しにトモの背中をべしべし叩いた。
「痛い痛い」
 顔をしかめる智。
「一澄はこういうイベント、初めてなんだっけ?」
 それを横目に、ミナが尋ねた。グラスに口を付けていた一澄は頷いて、
「うん。さっきアートライヴ見たんだけど、すっごい楽しかったです」
 満面の笑顔を浮かべた。
「あの6人がArtact(アルタクト)?」
 ヒナが、ミナと智の顔を見比べる。
「そうだよ」
「元はストリート系だったのよね。続けてるうちにライヴとしてのパフォーマンスを思い付いて、アートライヴを始めたの」
『へえ〜〜』
 ヒナと一澄が声をそろえた。
「あたし、名前は聞いたことあったけど、ライブパフォーマンスを見るのは初めてだー」
「両方とも初めて」
「時々、C館でパフォーマンスしてるよ。いつも音楽かけながら、今回みたいに」
 と智が言ったところでヒナが手を叩いた。
「そう! 音楽と一体になってたのがすごい! ただ絵を描いてるだけじゃないんだもんねー」
「変則的なライヴみたいだった」
 一澄の感想で思わず吹き出す。
「変則的って」
「ライヴっていう形でも、ちょっと変わってるってこと」
「たしかにね。ああいうパフォーマンスは、まだそんなに多くないんじゃない? 音楽をBGMとしてじゃなく、しっかり一体となってるっていう点で言えば、むしろ少ない方よ」
 一澄に同意したミナを、ヒナが感心して見上げた。
「ミナ、評論家みたい」
「だてに長生きしてないわよ」
 大仰なまでに胸を張るミナ。
「ああいうパフォーマンスしてる人って、さっきの人たちだけじゃないんだ?」
 一澄が独り言のように、誰にともなく呟いた。
「探せば、わりといるんじゃない?」
 客の中に知り合いがいたらしい、奥にあるテーブル席に手を振りながら、ミナは答えた。
「我楼のストリートアーティストって、みんな発展型だと思うよ。既存の芸術手法を自分なりに消化・発展させて自己を表現するヤツらの集まり。ま、今となっては新しい芸術スタイルを発掘することがむずかしいと思うけど」
 ふぅん――智が言うと一澄は鼻を鳴らした。
 はーい――ヒナがぴんっと手を伸ばす。
「あたしなんて、ストリートじゃ古典的なウォールペイントだよ。けど自分を表現するには一番扱いやすいんだよねー。建物がある限り壁はなくならないし、壁がある限りキャンパスはなくならないんだから」
「新しい芸術スタイルなんて、ヒナには関係ないのよねー?」
「おうっ」
 にっこり微笑んだミナへ、びしっとヒナの親指が立った。
「あたしが描く絵はあたしにしか描けないからねー♪」
 彼女は無邪気に言ってのけた。
「表現方法も技法も、他の人と同じでも『あたしらしさ』があるからね。トモの作品に『トモの匂い』が残るように、表現する人の匂いがするから芸術って好きー」
 芸術は非生産的だ――智の鼓膜が幻聴に震える。
 芸術そのものが人それぞれの生産物であるとしても、その人にとっては意味を成さないことなのだろうか?
 人は物を生み出せる――――――
 そこに『くだる』も『くだらない』もあるのだろうか?
「……『くだらない』っていうのは『ムダ』なものなのかな?」
 零れた智の呟きは、かろうじて一澄が拾えるくらい小さかった。
「『ムダ』とか考えることが『ムダ』なんじゃない?」
 無意識な呟きを、よもや聞かれると思ってもみなかった智は驚いて一澄を見た。
「少なくとも、我楼に『ムダ』なんて言葉は似合わないよ。みんな、すべてを活かす方法を知ってる」
 一澄が笑う。
 ヒナとミナはこちらの話に気付いていないようだ。
「えっ? Artactにミナの元カレいんの!?」
「そうよ。ほら、前に言った居心地のいいって男」
「うっわ〜〜〜。もっとじっくり見とくんだった〜〜〜〜ぁ」
 気付くどころが、まったく聞いていない。
「トモなんて『ムダ』からかけ離れてるとこにいると思うよ? 行動すべてがトモの何かにつながると感じたから、この街を出るのだって反対するのやめたんだから」
 なんてね――彼女の笑顔がはにかんだ。
「どんなこと考えてたのかわからないけど、トモの口から『ムダ』なんて言葉出さないで。ちょっとつらいから」
 ね?――――恋人の目元が優しく細まった。
 想いが、トモの中で交錯する。
 愛しい彼女。その愛しい言葉。
 とりあえず、彼女に言うことは。
「ん、ごめんね」
 それと、笑顔。
 あとひとつ。
「――――――ありがと」



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