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作品名:Ga-Row 〜The space they called 'Street Artists' are〜 作者:nakoso

第27回 HINA / Ga-Rowへようこそ!

「へぇ〜」
 土曜日の15時OPENというスケジュールが功を奏したのか、予想以上に我楼は賑わっていた。波止場には出店が軒を連ね、ぎゅうぎゅうとまでは言わなくとも、行き交う人々の足を止める。見たところ、訪れている客層は10代が中心のようだった。
「人って集まるもんだねー」
 そんな様をきょろきょろと眺め回したヒナは、ふと足下に視線を止めた。アスファルトに踊るポップな字体。
「『WELCOME to Ga-Row!!』」
 となりで同じく見下ろしていた一澄が読み上げた。



  <Twenty-Seven : HINA / Ga-Rowへようこそ! >



「気分はもう祭だー」
 ヒナは両腕を振り上げた。
「あ」
「どうしたの、一澄?」
「トモ発見」
 一澄が指差した方に目をやる。人の群れの隙間にトモの横顔があった。
「トモー!」
 大きく手を振ったヒナの声に気付いて、トモが手を振って応えた。
「ようこそ〜」
 人々の肩をすり抜け2人の元へたどり着いた彼は、そう言うと左手に束で持っていた小冊子を差し出した。
「はい、パンフ。タイムテーブルとかプロフィールとか、コメントとかも書いてあるから読んでみてよ」
「あたしのも載ってる?」
「ヒナだって書いたんだから、もちろん」
「どれどれ」
 受け取ったパンフレットを早速めくるヒナ。
「人、集まってるんだね」
 興奮気味な一澄の声に、トモは心の底から嬉しそうに、
「予想以上だよ。ここまで人が来るとは思ってなかったから。このままだと夕方にはかなりの人が集まってくれるんじゃないかな」
「夕方になると何があるの?」
 タイムテーブルをめくった一澄の目と、手が止まる。
「秋哉のプレイと、イベント一番の見せ所」
「『HECTION!」のライヴ、あったの?」
「え?」
 ページに釘付けのまま、一澄が聞いた。あらぬ方向からの質問にトモはきょとんとなる。
「『HECTION!』?」
 すっかり耳に馴染んだおかしな響きに、ヒナは一澄の手元を覗き込んだ。
「ほんとだー。A館のライヴでオープニングやってるねー」
「2人とも『HECTION!」知ってたの?」
 目を丸くしたトモに、2人そろって首肯。
「ごめん。そうと知ってたら教えたんだけどね」
「ねー、一澄。好きだってこと言ってなかったの?」
「んー、秋哉さんに言ったのは憶えてる」
「『HECTION!』なんてマニアックなバンド、よく知ってるね?」
 感心を含んだ語調でトモは2人を交互に見た。
 ヒナが勢い良く手を上げる。
「一澄から教えてもらったー」
「ネットで見つけた」
 小さく手を上げた一澄が、次いで質問する。
「『HECTION!』って我楼と関係あったの?」
 ちょうどヒナも同じことを考えていた。
「俺も今日それを知ったんだけど、せのえのバンドなんだよ」
「せのえ?」
 ヒナは頭をひねった。どこかで聞いたことがある名前だが、ヒナの記憶には薄い。
「我楼を創立した人?」
「あ〜」
 一澄の声音に手を叩く。通りで聞き覚えがあるはずだ。
「そう。あの人、音楽もやってたんだよ」
「オープニングと同時に来ればよかったー」
 トモの声など届かないくらい、一澄は目に見えて肩を落とした。
「もう2時間早ければ聴けたのにー」
 17時を指す腕時計が、ヒナには憎らしく思えた。
「今まで何してた?」
「ウィンドウショッピング」
「カメラに慣れることも兼ねて」
「慣れた?」
 ヒナに付け加えた一澄は尋ねられて肩をすくめた。
「マニュアルなんて持ったことないから、慣れるにはまだ時間かかりそう」
「じきに慣れるよ」
「優しいんだか突き放してんだか」
 やれやれ、とヒナは首を振る。
「こればかりは感覚でつかんでもらうしかないから」
「トモはこれから時間空くの?」
 これまたずいぶんと控えめに一澄が聞いた。
「もうじきパンフ配りが終わるから、そうしたら秋哉のステージまで空きができるよ」
「秋哉は今、どこで何してんの?」
「どこかしらにいるんじゃない? ここ数日、口利いてくれてないから」
「どして?」
 秋哉がトモに口を利かないなんて想像もできない。ヒナは当然のように疑問符を浮かべた。
「あ、そっか」
 納得して不満面な一澄と、ただにこやかに笑むトモ。ヒナはしばらく疑問符をもてあそんだ後、あきらめて放っぽり出した。
「あたしは仲間外れか」
「秋哉に聞きな」
 ぽん。すねたヒナの頭にトモの手が乗っかった。
「今なら、きっとどこかでヒマ潰してるだろうし」
「んぁ〜〜〜〜」
 苦いものを噛んだように眉間にしわを寄せたヒナは頭を掻いた。
「なんだか気まずい」
 ぽつりと零すや、すぐにトモが吹き出す。
「細かいこと気にしないヒナから、そんな言葉が出るなんて珍しい」
「うるさいっ」
 牙を剥く。
 掻いて跳ねたヒナの髪を撫でながら、一澄がぽつり。
「好きなまま別れるから」
「うるさいっっ」
 さらに牙を剥いた。



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