小説&まんが投稿
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:Ga-Row 〜The space they called 'Street Artists' are〜 作者:nakoso

第24回 TOMO / つまる人間

 陽射しの強い午前の公園はどこか寂しげだった。いつも見受けられる子供たちの遊ぶ姿や、世間話に興じる親たちの姿がない。
「こんな公園、珍しいね」
 直射日光から逃げるように木陰のベンチで、智はとなりのミナに零したが、
「こういう日もあるでしょ」
 しかしミナは冷めたもので、組んだ膝で頬杖をついて、彼の言葉をあっさり終わらせた。
「それより、本気なの?」
 公園がどうとかいう話よりも、その興味は別方向に向かっているようだ。
「本気だよ」
「一澄に言ったら、すんごい驚くんじゃない?」
「驚くだろね」
「まだ言ってないわけだ?」
「言ってない」
「言わないの?」
「言うよ、もちろん」
 告げた直後の一澄の表情を予想してみる。
 まず、驚く。
 その次は――――
「ま、そろそろかなぁとか思ってたけどさ」
 智の思考はミナの声で止まった。



  <Twenty-Four : TOMO / つまる人間 >



「察しがいいことで」
「長い付き合いじゃない」
 小さく笑うと、ミナは脇に置いていたピーチティーの缶を手に取った。
「だからね、またどっか行っちゃうかなって予感はしてたの」
 ひと口だけ飲んでまた置く。
「反対するわけじゃないんだけど――――――――聞いていい?」
「何?」
「この街に飽きた?」
「そんなこと」
 智は苦笑して首を横に振った。
「他の街も見て見たいってだけだよ」
「『ひとつの場所に留まりたくない。いろんな空気を吸ってみたい』」
 智の聞き覚えのある科白で、ミナは彼に視線を流した。
「東季がよく言ってた科白」
「聞いたことあるよ」
「トモを見てるとね、時折東季のことを思い出すのよ――忘れてるわけじゃなくて、トモが東季とダブって見えるの。カメラ片手に出歩いて、せっせとファイルを作って。それを誇らしげに見せてくれた」
 時折、ミナは過去に想いを馳せる。こうして、寂しそうな笑顔と一緒に。
「それで、今でも考えるのよ。どうして東季は死ななきゃいけなかったんだろ?」
「俺が守り切れてれば」
「トモのせいなんかじゃない。きっとみんな未熟で、発展途上だったからよ。その渦中に東季がいちゃったってだけ」
「けど、死ぬ理由にはならないよ」
「そうね」
 ため息に乗って消え入りそうな声が流れた。
 ふと思い返してみる。
「俺の目標、東季だってことは前に言った?」
「そんなの聞いたことないって」
 素っ頓狂な声でミナの目が大きくなった。
「東季の写真って、たった1枚なのにストーリー構成みたいなものを感じさせるんだよ。そんな力、俺にはまだない。まだ、『瞬間』そのものしか撮れない。1枚でその前後の時間をイメージしてもらえるような、そんな写真を撮りたいし、そんな写真を撮ることができた東季は、俺の目標なんだ」
「いつだったか、街歩きはセンス磨きだって言ってたね」
「そう。感性を磨きたいから、いろんな空気を吸いたい」
「で、この街から出てくと」
「もう2度と帰ってこないみたいに言うことないでしょ」
「いつ帰ってくる予定?」
「それはわからない。ここは居心地いいから、また戻ってくるのは確実だけど」
 智が肩をすくめると、ミナは仰け反るように背伸びした。
「寂しくなるなぁ」
「そう言うなって」
「私がトモのことを狙ってるって知ってた?」
「それから必死で逃げてるって気付いてた?」
 やや強めの風が2人を過ぎる。
 顔を合わせてから、2人は同時に吹き出した。
「隠してたわけじゃないんだけど」
「だろうね。秋哉が引いてたくらいだから」
「だから嫌われてんだ?」
「がっついてる女は苦手なんだって」
 智は脇のレモンティーの缶を取って、喉に流し込んだ。雫で湿った缶はまるでこの陽気で汗をかいているようだ。
「それに、狙ってるって言っても恋愛話じゃないだろ?」
「一緒にいたいっていう面では同じよ」
 失礼な、とミナが鼻を鳴らす。
「トモのことをもっと知ってみたいの。不思議なのよ、その性格、人柄。何を見て、何に触れてくればそんな人間になるんだろって。例えるなら、心地良い不協和音。三原色を混ぜたらまったく新しい色になった、みたいな」
「せめて個性って言おうよ」
「個性ってだけなら、我楼メンバー全員が持ってるじゃない? トモの場合は異色なのよ。どこをつかんでも、トモ全体を捉えきれないの」
「そうかな?」
 缶から水滴が落ちた。智の膝、デニムパンツにひんやりとした点が小さく広がった。
「一澄のどこが気に入ったの?」
「一澄っていう個体」
「そうじゃなくて」
 間髪入れず裏手で突っ込まれ、智は一澄のイメージを探した。
「……やわらかいとこ」
「やっぱり人間性か」
「俺が惹かれるのはいつだって人間性だよ」
「知ってる。私じゃ無理だってことも」
「いつかあきらめてくれると思ったのに」
「トモなら違うものを見つけられるかもって思ったのよ。今までの男と違う何かを得られるんじゃないかって。刺激物が目の前にあるのに、目を逸らして歩ける?」
「俺は刺激物か」
 智はもうひと口飲んで、缶がベンチに付けた黒い輪と、それを横切る1匹のアリを眺めた。
「人間っておもしろい刺激物じゃない? 時間の流れで徐々に性格変わったり、何かを学んでたり。中身がずっと同じだということがほとんどない。常に変動する刺激物なんて他にある?」
「ずっと同じってこともあるけどね」
 アリが横断し終えるのを見届けて、缶を輪の上に乗せる。
「そういうの、つまらない人間って呼ぶのよ」
 つんと鼻を上げたミナは言いのけた。
「手厳しいね」
「時間に流されてるだけの人間なんて、何の魅力も感じないわ」
「すでに自分のスタイルを確立してる人は?」
「新しいものを取り込んでる人がいいの。自分のスタイルなんて、死ぬ間際に確立してれば、私は十分。自分を組み立て続けられる人って、一緒にいて飽きないもの」
 浮かべた微笑を智に向けて付け加える。
「だから、トモは飽きない」
「ありがとう――」
 言ってから、智は自分の返事に不自然さを感じた。
「――って言うのもおかしいかな」
「全然。褒めてるんだもの」
「じゃ、気のせいだ」
 ミナが不思議そうな顔をした。
「なんでもないよ」
「あっそ」
 顔を振って応えれば、彼女はあっさり話を流して、
「何はともあれ」
 やおら缶を掲げた。
「何?」
「トモも持ちなさいよ」
 言われるまま、彼女に倣って智も缶を掲げる。
 空咳をひとつ、ミナは口を開いた。
「トモの旅立ちを祝すとともに、再会の日を約束して」
「何それ」
「いいから」
 と、目の前に突き出された缶とミナを見て、合点がいった。
 2つの缶がぶつかる。
 2人の声が重なる。
『乾杯っ!』



← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 小説&まんが投稿屋 トップページ
アクセス: 10315