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作品名:Ga-Row 〜The space they called 'Street Artists' are〜 作者:nakoso

第20回 HINA / ヒナの独白

「んあっ」
 1台だけ回っている洗濯機の前で、のけぞるように背伸びした。



  < Twenty : HINA / ヒナの独白 >



 壁画が予定より全然早く仕上がって、目の前に映ったのは持て余す暇。それを消化するひとつの手段として、まずは洗濯。
 ここのコインランドリーはいつも通り、人気なんて皆無に等しい。
 むしろ、そのもの。
 クッションという概念を知らない横長のイスに腰を落ち着けて、あたしはため息を落とした。
 足下でだれてるボストンバッグには、まだ半分、洗濯物が残ってる。一澄に出会ってから、2回に分けて洗濯するということを覚えたんだよね。
 みすぎ、いずみ――――唇だけ動かしてみる。
 あ。一澄って、苗字と名前の母音がおんなじだ。
 ん〜、新発見。
 そんな一澄と、こんなにも人気のないランドリーで会ったんだよね。
もし、あの時に話しかけたりしなかったら、一澄が応えてくれなかったら――――今みたいに親しげな仲になんて、なってなかったよ。
 そんできっと壁画の方も滞ったまま、ワタワタしてて、時間に余裕なんて持てなかったんだろなぁ。
 一澄は一緒にいるだけで、あたしの創作意欲を刺激してくれる、そんなヤツ。
 不思議な雰囲気を持ってると思う。
 たとえるなら。
 そうだね。たとえるなら。
 音楽とか映像、芸術はエンターテインメントっていう枠組みにある。じゃあ、エンターテインメントっていうのはどういうものかっていうと、ひとつの空間を創り出すものなんじゃないかなって。それがあるから、空間がそれに影響されて空気ができる。
 それかな。
 一澄には、エンターテインメントみたいな雰囲気がある。一澄がいるだけで空気が出来上がる。
 少なくとも、あたしはたしかな居心地の良さを感じる。秋哉とかトモ、ミナと一緒にいる時とは違う空間にいるんだ。
 何か媒体を必要としないでも相手を落ち着かせられる、一澄のそんなところが気に入ったんじゃないかな、あたしは。
 だからそばにいたかったんだろね。何としてでも一緒にいながら、壁画を描きたかったんだと思う。
 一澄そのものがエンターテインメントだなんて、なんだかおかしな話だけど、ん〜、そうとしか言い表せないかなぁ。
 あたし自身、そんな人と出会うのなんて初めてだから、いい言葉が見つかんないや。
 けどね。
 一澄があたしの中にある本能を突き動かしたっていうことは事実なんだ。秋哉に限らず、今まで付き合った男たちとはてんでできなかったのに、一澄にはキスできたんだよ。
 ……ん。とゆーことは。
「あー、ファーストキスだ」
 天井の角を見上げ呟いた。
 なんとなく、前にミナに言われた言葉がわかったんだ。
 キスは大切なコミュニケーション。
 一澄とキスしてみて、なんとなくだけど、実感した。
 おんなじように秋哉にもできないもんかなぁ。
 キスできれば、安心してくれるかね。
 泣いちゃうほど、心を痛ませることなんてなくなるかね。
 好きだからさ。
 秋哉を悲しませたくなんかないのさ。
 キスで解決できるくらいなら、いくらでもキスしてあげたい。
 どうして、秋哉にはできないのかねぇ。一澄にはできたのに。
 2人の違いって? 人間性?
 2人とも別々の人間なんだから、それが違うのは当たり前。
 そうじゃなくて。
 一澄にあって、秋哉にはないもの。
 そう考えちゃうと、やっぱり、さっきの『存在感』みたいなものに行き着くんよ。
 一澄は空気を創る。
 秋哉も空気を創れるけど、音楽を媒体として、だよね。秋哉自身が、っていうわけじゃあない。
「なんだか抽象的だぁ」
 足を伸ばして前屈してみる。指が爪先に届いた。
 秋哉が好き。
 一澄も好き。
 同じ『好き』なのにキスひとつで違う。
 一澄にキスしたことを秋哉が知ったらどうするんだろ?
 嫉妬する?
「……また、泣いちゃうかもね」
 痛みに耐えるように。
 その痛みはきっと、あたしが思う以上に痛いはずだよ。
 心の傷と体の傷。
 たとえば、ちょっとしたかすり傷――体だったら、ほとんど痛くないし、すぐに治る。
 それに引き換え、心のかすり傷はとんでもなく痛い。しかもすぐに治らない。治ったと思ったら、実は応急処置だったよ、ってことなんてざら。傷口はすぐに開く。血なんて出ないけど、涙が出る。
 ……あ。洗濯終わったみたい。
 じゃ、次の洗濯に移ろっかなー。最初の洗濯物を乾燥機に放り込んで、ボストンバッグから引っ張り出した洗濯物を洗濯機に入れる。
 回る乾燥機と洗濯機は、まるであたしの心の中みたいだ。
 ぐるんぐるんぐるん。
 ぐるんぐるんぐるん。
 回り終えれば、あたしもさっぱりするんかな。Tシャツが真っ白になるみたいに、あたしも真っ白になるんかな。
 それとも他の洗濯物の色落ちのせいで、どっか染みでもできちゃうんかな。
 ぐるぐる回ってさ、それでできた染みって、何色なんだろ。
 ……ん――――。
 きっとそれはいろんな色で、そうやってあたしはいろんな色に染まってく。
 いろんな色がいろんな色と混じり合って――――――――
 あたしは、そうやってあたし色に染まってく。
 トモだったら、こんなあたしになんて言う?
 秋哉の心を傷付け続けてるあたしに、なんて言う?
 トモだったら助けてくれるかもね。
 そんな気がするんだ。だってトモは、あたしのことをわかってくれてる。
 ねぇ? トモ。
 今のあたしには、トモが必要なんだよ。
 トモじゃなきゃ止められない。
 あたしがあたし色に染まってくのを止められるのは。























 ――――――――――――気付けば、あたしは泣いていた。













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