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作品名:Ga-Row 〜The space they called 'Street Artists' are〜 作者:nakoso

第19回 TOMO / 姉

 六畳ほどの広さを持った部屋は全面フローリングで、コンポとテレビとソファベッド、それからテーブルの上にデジタル表示の目覚まし時計がある。カーテンの開いたベランダには午後の日差しが手すりに引っかかっていた。
 テーブルに頬杖を突いてケータイを耳に当てていたミナは、相手を小馬鹿にする風でもなく、ただ愛しそうに、はっきりと言った。
「さようなら」
 わずかに開けていたベランダの窓からそよ風が吹き込んで、カーテンの裾と彼女の髪をそよいだ――――――――



  <Nineteen : TOMO / 姉 >



「――はい、オッケー」
 手にしていたデジタルカメラの録画を停止して、智は笑んだ。
「こんな感じで良かった?」
 ケータイをテーブルに置いたミナが、ほっと息を抜いて智に聞く。
 彼は投げられた問いを、そのまま視線と一緒に一澄へ投げた。
「部屋提供者の意見は?」
「ミナさんって、演技が上手なんですね。普通に見入っちゃった」
 後ろで大人しくしていた彼女は手を叩いた。
「自然に振る舞えるからね。ほんとすごいよ」
 智も賛同する。ミナに目を戻すと照れ笑いを浮かべ、
「ちゃんと演じ切れたか不安だけど」
「大丈夫。俺自身、これはちょっと難しかったかなとか思ってたんだけど、見事に演じ切れてたよ」
「よかった〜。今回のって台詞がかなり少ないでしょ? 動作だけで伝えなきゃいけないから正直言うと手こずったわぁ」
「カレンダー使うなんてアイディア、私だったら出てこないなぁ」
 壁にかけられたリングカレンダーを、一澄が感心して見上げる。日にちの枠内に予定やら文句などを連ねたカレンダー。
「これの準備、楽しそうだったね」
 その光景を思い出してトモは吹き出した。
「ははは! 『上司が下ネタ連呼。サイテー』とかね! 18の頭ん中とは思えないわ!」
 弾けたようにミナが爆笑して、つられて一澄も笑った。
「何かない?って聞かれたらそれくらいしか思い付かなくって」
「それで下ネタ!?」
 ミナ、さらに爆笑。
「そんなに笑わないでくださいよ〜」
「一澄ってどんな18年を生きてんの〜」
 しまいには涙を浮かべて笑い転げる始末。
「よっぽどツボにはまったらしい」
「あはは」
 その様に智が言うと、一澄は困った笑顔を浮かべた。
「――ふぅ。にしても」
 ひとしきり笑って気が済んだらしい、ミナが涙をすくいながら言う。
「カレンダーを使って状況説明するなんて考えたわね」
「今回はほとんど台詞がないから、受け手にどう状況を伝えるかに悩んだよ。カレンダーだったら、いつ・何があったのかっていうのをぱっと見て受け取れるでしょ? だから、カレンダーによく書き込みを入れる性格が設定として必要だったんだ」
「『下ネタ』」
 途中でミナが吹き出し、一澄が苦笑する。
 話が脱線しそうになるのを自覚したか、
「ごめん」
 手を合わせてミナが謝った。
「『くそったれ男、家を出る』って書き込みがあればその男と同棲していたことがわかるし、日曜の枠に『とことん整理!』って書き込む様子を映せば、『今日』が日曜で、これからの動作が家の整理に結びつくんじゃないかなって思ったんだけど」
「は〜ぁ」
「少なくとも、一澄には伝わったみたいだ」
 感嘆に深く頷いた一澄を見て、智は安心した。
「あとは審査員にどう映るか、ね」
「審査員?」
 ミナの発言を一澄がオウム返しに尋ねた。
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「何を?」
「新人賞みたいなやつに出すってこと」
 きょとんとした顔で首を左右に振る。
「ちゃんと教えときなさいよ」
 ミナに睨まれた。
 そっか〜。
 智は指先で額を掻いて、
「演出家やら映像作家に審査してもらうのがあってね、その出品のために映像を作ってたんだ」
「イベントのためじゃなかったの?」
「イベントには映像で参加してないんだよ」
「そうだったんだ? てっきりイベント用だと思ってたよ」
「じゃ、あれだ」
 割り込んできたミナに智と一澄が振り向いた。
「トモがコンクールの常連だったっていうのも知らない?」
「初耳」
 こくん。一澄は頷いた。
「言う必要ないでしょ」
 睨んできたミナの言わんとするところは容易に察することができる。
「トモってば、半年前まで賞取り放題だったのよ」
 言い返した智を無視して彼女は一澄に向き直った。
「センスいいからね、普段の生活の一部を抜き取るのがうまくてさ。5分とか10分の間で起承転結を巧みに描き出すの。さっさとプロになっちゃえばいいのに」
 語尾の流し目を、智は苦笑で受け止めた。
「そこまでの力はないよ」
「最優秀賞を貰ったことは、まだないのよね。でも何度か声かけられてるじゃない。嫌味にしか聞こえないって、それ」
「仕事として映像創り続けられるほど要領よくないよ。イメージができなきゃ創り出せないものだし」
「仕事で映像は創りたくない?」
「楽しみながら創りたいから」
「製作環境は今よりも断然いいと思うけど?」
「ノルマとかに神経すり減らしてまで創ろうとは思わないよ」
「わがままね」
「わがままだよ」
 呆れの混じった笑顔に胸を張ってやった。
 くすっ。空気のこすれた音に目をやると、一澄がおかしそうに2人を眺めていた。
「あら。恋人を放っといちゃったわ。すねないでね」
 ミナに手と首を振る。
「すねてないすねてない。すごく楽しそうだなって」
「嫉妬したんじゃない?」
 いたずらっぽく笑うミナを一澄は笑い飛ばした。
「嫉妬するんだったら、ミナさんをキャスティングした時点でしますって。そこまで独占欲強くないですし」
「いい子ねぇ〜。悩みあったら何でも相談しなさい? いつでも聞いてあげるから」
 その頭を撫でながら、ミナの視線が智に滑った。
 なんとなく、先が読めた。
「特にトモに対する愚痴とか」
「本人がいないとこで言ってくれる?」
「こんな子、めったにいないわよぉ? 幸せ感じさせなかったら許さないから」
 頭を撫でるだけでは飽き足らず、一澄を思い切り抱きしめながら。
「いきなり妹ができたみたい」
 ミナのうきうき気分がこっちまで伝わってくる。
「大切にするよ」
 数年振りに見る姉の表情に智は笑んだ。



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