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作品名:Ga-Row 〜The space they called 'Street Artists' are〜 作者:nakoso

第14回 HINA / 脳内異文化コミュニケーション

 我楼のC館のど真ん中で、ヒナはうつ伏せに寝転がっていた。
 カンッ、カンッ、カンッ。
 螺旋階段を下りてくる足音で、ヒナはごろりと仰向けになった。
「あら、独りなの?」
 ヒナの他に人影を探したらしい、きょろきょろと見回したミナの瞳が壁を伝い、その頬が笑みを形作った。
「完成したのね」



  <Fourteen : HINA / 脳内異文化コミュニケーション >



「イベントに間に合えばいいやくらいで考えてたんだけど、時間余っちまいました」
「いつできたの?」
「ついさっき。だからこうしてだれてんの〜」
 ごろごろ転がっていると、ミナが寄ってきた。ヒナの頭の手前でしゃがむ。
「秋哉くんとはどうなの?」
「トモの時と、またえらくテンション違うくない?」
 転がるのをやめて、物静かな口調のミナを見上げる。
「だって、彼はお気に入りだもの」
「取られちゃってんの」
「口説き落としたかったのになぁ」
 嘆きながら倒れ込んできたミナをヒナは押し返した。
「彼女、一澄だっけ? うらやましい〜」
 ごろん。ヒナと点対称に仰向けに転がって、ミナが言う。
「だっていい女だから」
 自分のことのように、ヒナは自慢口調。
「それから、前から聞こうと思ってたんだけど」
「何?」
「トモのこと、ほんとに狙ってたの?」
 逆さまのミナの顔と向かい合う。ミナの口元が笑んだ。
「もちろん」
「好きってこと?」
「どうだろ? 私、好きって気持ちがわからないの。たくさん人はいるのに、どうしてわざわざ1人にこだわらないといけないのかしら」
「好きになったことってない?」
「前の男はただ一緒にいるだけで気持ち良かったけど、別れたからって未練とかはナシ。好きっていう感情とは、また違うものだったんじゃない?」
「ドキドキしてみたり」
「ないない」
 冗談、とばかりに笑い飛ばすミナ。
「キスしたくなればキスするし、セックスしたくなればセックスするし。私にとっての恋愛って気分次第なのよ」
「変なの」
「そんなものよ」
「わかんない」
「価値観の違いね」
 微笑する。
 突き放すような微笑が得意で、よく似合う女だと思う。
「じゃ、さ。トモはどんくらいの位置?」
「隙あらば押し倒してみたいくらいの位置」
 ミナはさらりと言ってのけた。
「隙はあった?」
 にんまり笑いかけて聞く。
「ないのよ。無防備に見えて、なかなか強敵。何度家に乗り込もうと思ったことか」
「トモに力で向かっても勝ち目ないでしょー」
 顔をしかめたミナがおかしくて、ヒナは手を叩いて笑った。
「そこまで笑うことか」
「なんかかわいくて」
「私のことよりも」
 ぺし。思ったことをそのまま言ったら、額を指で弾かれた。
「秋哉くんとはどうなのよ? 最近2人でいるところ見ないけど」
「ミナが来てないんじゃ〜ん」
「そりゃそうだ」
 たやすく納得。
「キスはしてあげた?」
「あ〜」
「してないんだ」
「だってさ〜、秋哉はなんてゆうか、違うんだよねぇ」
「セックスしてんのに? 勢いでキスできないの?」
「本能が拒むの」
「変」
「そんなもんなの」
「わからないわ」
「価値観の違い〜」
 そこまで言って、2人は笑い合った。
「ヒナも大変ね」
 思い出したようにミナが呟く。
「いっかい、秋哉くんから離れてみたら?」
「何度か考えたんだけどねー」
 頭の下に手を組んで、ヒナは天井を見上げた。
「やっぱ好きなのよ」
「どこが気に入ったの?」
「DJやってる時と2人でいる時と、全然違うの。普段の秋哉もまた違うし。本人は気付いてないけど、そんな人間性の広さ」
「みんなそんなもんでしょ」
「秋哉はとびきり顕著なの」
「へぇ」
「気のない返事すんな。あたしの中じゃ事実なんだから」
「じゃ、キスしてあげなさいよ」
 ミナが呆れ果てた顔をした。
「それとこれは、また別」
「変なとこで頑固ねぇ」
「あたしもそう思う」
「自分で言うな」
 また額を指で弾いて、はたと思い付いたらしく、
「――もしも」
 ミナが仮定を提示した。
「秋哉くんが他の女のところに行っちゃったら、彼のことあきらめられる?」
「え」
「ヒナと別れたら、ってこと」
 秋哉がヒナと別れる――考えたことがないわけではない。しかし、実感が湧かない。
 秋哉の愛とヒナの愛。
 ヒナが信じているのはどちらだろう?
「……ヤだなぁ」
 ぽつり、本音が零れた。
 無意識の言葉にヒナ自身驚いた。
「そういう風に言えるのって、すごくうらやましいよ」
 ミナが微笑った。普段の彼女にはない優しさを、目元に浮かべて。
「キスってさ、基本的だけど大切なコミュニケーションよ。短い時間で互いを確かめられる、手軽な手段。そう考えると、秋哉くんってかわいそうじゃない? 手軽にヒナのことを感じられないんだから」
「手軽って」
 睨み付けるとミナは吹き出して、
「言い方が悪かった。けど、そういうことなのよ。男って結構ナイーヴで、細かいことで傷つく、厄介な生き物なの」
 言い張った。
「ん〜」
 返答に困る。ヒナの考えとはまた違う、脳内異文化。
「そんなこと言われても、とっさにキスできるようにはなれない」
「自他共に認める頑固だものね」
「その通り」
「時間かかったっていいじゃない。秋哉くんだってヒナのこと好きなんだろうし、だから今まで付き合ってるんじゃない。あんた、幸せ者よ」
 ミナの純粋な満面の笑顔を初めて見た。
「その幸せをつかみ損ねちゃう前に、自分から抱きしめなきゃ。幸せって自己中心的で気まぐれなんだから」
 感情のつかめない涙に胸がつまった。
 自分の中のことなのに、今のヒナが一番てこずっているのはヒナ自身のこと。
「……好きって、あちこち痛いよね」
「私にはわからないけどね」
 指先で、ミナは目尻を拭ってくれた。



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