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作品名:ヒサルキゲームの物語 作者:秋兎

第9回 case.1 相原アキラの場合7
 焚き火の爆ぜる音を聞きながら俺たちはチーズ入りカレーをスプーンでつついていた。
 チーズ入りとはいえ、カレーにただ乗せるだけなのでヒサキのものには乗っていない。
 俺も乗せる気はなかったのだが、深柳に無理やり乗せられた為、しぶしぶ食してみたところ、
「おろ。意外にイケるぞ」
 一部の人たちが期待するような火山をバックにこの美味さを実況する程とはいかないが、ちょっとした新感覚ではある。
「ヒサキもさ、騙されたと思って――」
「い、や、よ」
 即答である。金髪少年は諦めた様子で「美味しいのになぁ」とつぶやきながらチーズをふんだんに乗せたカレーを頬張った。まぁ、確かにコッテリしすぎているかもしれないが。
「違うわよ。味とかじゃなくて、カロリーの問題よ。そんなもの食べたら太っちゃうわ」
 俺のチーズ特盛りカレーを一瞥して言うが。ゲームの世界で太るわけないだろうが。夢で飯くって太るんですって言ってるようなもんだぜ。というか、待て。
「一応突っ込んでおいてやるが、三杯もおかわりした奴の言うセリフじゃないぞ」
 ギクッと漫画のようなリアクションをとると、これまた漫画のように口を尖らせ、
「そうなのよねー。普段は少食なほうなのに、何故か食べてもおなかいっぱいにならないのよ」
 まるで危ない病気にかかってしまったエゾリスのように体を丸める。
 それを聞いていた深柳は、
「もしかしたら。能力を使うとその分エネルギーが減ってしまい、それを補充しようと大食になってしまうのかもしれない」
 確かに一理あるな。そんな設定のゲームもやった気がする。
「がびーん! いやよ、そんなぁ。もりもり食べる女の子なんて絶対ありえない!」
 ガビーンて。マサルさんかお前は。仕方ない、ここは一応フォローしておこうか。
「そんなことはないぞ。食わずしてやせ細った子より多少むっちりしたほうが健康的でいいじゃないか。大体にだな、昔の女性というのは少しふくよかなほうが美人と言われていたんだ。それなのに今の女性は異常にダイエットに敏感で嘆かわしい!」
「チッ」
 舌打ち一つであっさり俺の心遣いを踏みにじると、脇で眠る子狐シロを揺り起こした。
 ちなみにこの安易な命名はヒサキによるものである。座敷犬じゃないんだからな。
「ちょっとちょっと! どういうことなのよシロ!」
 しばし、ぼんやりとヒサキの説明を聞いていたシロは大きなあくびをまじえながら、
「はぁ。そのことでしたら、お嬢様の能力とは関係ありませんよ。ただ、私が力を使ってしまうと余分にエネルギーを消費してしまうため補充が必要となることはありますねぇ。いやはや、あの数を避けるのに大分力を使ってしまったようで、」
 眠ってしまいましたよと言い掛けたところでヒサキは満身の力でシロを鷲づかみにするとシェイカーのように振りまくった。
「どーしてあんたの分まで余計に食べなきゃいけないのよ! もし太ったらどう責任とってくれるのよー!」
 おいおいそれくらいにしてやれ。顔が土気色に染まってきたぞ。
「す、すびばぜん! 私が食べればそのような心配など……!」
 ぱふっと青年の姿になってヒサキの手から逃れたそいつの肩にぽんぽんと優しく手が置かれる。
「はい、シロの分だよ。たんとお食べ」
 そこにはとても優しい微笑みでチーズカレー(極盛り)を差し出す深柳がいた。

***

 食後、俺たちはシロの淹れたコーヒーに舌鼓を打ちながら、談笑に花を咲かせることにした。
「そこのバカ、談笑じゃなくてこのゲームについてシロから話を聞くのよ!」
 やれやれ、似たようなものじゃないか。それにしても、もう夜の九時過ぎぐらいであろうか。一層霧が濃くなり冷えてきたので俺は焚き火に薪をくべようとした。
 むむ、火が弱まってきたぞ。
「おい火が消えそうだ。誰かマッチとかないか?」
「はぁ? バカねぇ。そんなの私に言いなさいよ」
 と、口から勢いよく炎を吐き出す。
 俺はお前の放射熱線を得意とする某怪獣王みたいなそんな姿を見たくなかったから訊いたんだがね。
「さてと。シロ。あんた、私を宿主と認めたとか言ったわよね。私たちは力となるものを捕まえろって言われて来たんだけど。それってあんたで間違いなしってことでいいの?」
 青年姿のままの狐は、ゆっくりいつものように目を細める仕草をとる。
「ええ、そうです。多分あなたたちの担当の方がそう言ったのでしょう。それは私ですね、間違いありません。ヒサキお嬢様は私を捕まえ、と言ったら語弊がありますか……下僕として契約した為、このコースは無事終了といえましょう」
 てことは、無事ヒサキは一抜けしたということか。
「おっけ。それで安心したわ。うーんと、それじゃあ力になるって、もちろん私たちと一緒に戦うってことよね?」
 無論そういうことになるだろうな。だが、碧眼男は笑顔のまま、少々困ったなとばかりに眉を動かすと、
「ええ、まぁそんなところです。とはいえ、私自身が直接『敵』とやらを攻撃するわけにもいかないんですよ。困ったことに」
 何故だ?
「それがこのゲームの掟なんです。主人と下僕の関係とでも言いましょうか。どんなことがあろうとも私自身が手を下すわけにはいきません。あくまでも主人を支え、補する存在なのです。もし、それを破ることがありましたら、その場で契約は強制的に解除させられてしまいます。まぁ、例外な奴らもいますが」
 まったくややこしい内容だ。
 じゃあ、契約者に従う存在。捕獲すべきもの。どちらでもいい、お前たちは一体どうやって力を貸すというのだ。まさか身の回りの世話をしますとか言い出すんじゃないだろうな。
 だとしたら、なるべく美少女的な子と契約を結びたいものだ。無論のこと将来を見越してな。
「もちろん我々は主人の言うことには出来る限り従います。しかし、それとは別に戦闘において様々な力を主人に分け与えるということが主な働きといえましょう」
 回りくどいな。俺は頭をボリボリかくと、紙コップの中のコーヒーを飲み干した。砂糖もミルクも入っていない為あまりの苦さにむせてしまう。
 その横で深柳は涼しげな顔でコーヒーをあおると、
「二人とも炎を得意としていたなら、契約したことで単純にヒサキの炎が強くなったということか?」
「これはこれは。いえ、そのとおりです。深柳様はこのゲームを良く知っておいでで」
 金髪はというと、さもつまらなそうな顔で空になった紙コップを振りながら、
「さて、どうだろう。多分そうじゃないのかなって思っただけだ」
 フッと揶揄を交えた表情で笑うと、シロツキは肩にかかった銀髪を払った。
「端的に言いますと、私に出来ることは、主人であるヒサキお嬢様の炎を数倍に高めることだけです。後は、アドバイス程度が限界です。直接手を出せない以上、私めにはそれぐらいの事しか出来ません」
 俺はヒサキの満開に咲き誇るひまわりのような笑顔を見つめながら思った。それぐらいって、あの炎が数倍になっただけでもかなりヤバイんじゃないのか?
「あんた凄いじゃなーい! それだけ出来れば十分よ! ほら、リンもアキラも早いところ契約結びに行くわよ!」
 俄然やる気になっているところすまないが、ちょっと待ってくれないか。
 確かにお前は早々に契約を結んだから元気なもので、俺は飯を食った後は牛のようにしばらく動けない性質なのである。
 それにゲーム好きなら一度は言われたことあるだろ? 一時間ゲームをやったら、五分ほど目を休めろってさ。
「ふわぁ……あ」
 何の気なしに俺が大きく伸びをしたその時、ヒュッという音と共に何かが頬を掠めた。
 なんだなんだ。恐る恐る目の前の大木に目を向けると、黄金色に輝く鳥の羽のようなものが突き刺さっていた。それもかなり深くめり込んでいやがる。
「……!?」
 パクパク口を開閉させて惚けてる場合ではない、慌てて振り向くとそこには俺たちより少し年下ぐらいであろう少女が凛として立っていた。
 驚いたのも束の間というやつさ。その姿を見た瞬間、俺のドキドキは驚きから恍惚へスライドしていた。
 なぜなら、これがまた素晴らしい美少女であったからだ。黒いセーラー服に描かれた金の刺繍はシロツキのそれと似ていた。
 背中まである金髪にそれと同じ金眼。加えて透き通るような白い肌。
 つまり、どストライク。略すとドストラだったわけだ。
 咳払いをした後、声を整えつつ立ち上がる。
「やぁやぁ、美しいお嬢さん。ピンポイントで拙者を狙ってくるとは、目が肥えていらっしゃる。ははは。いやはや、そこまでアプローチされたのでは致し方ない。お望みどおり君と戦って進ぜようじゃないか。そして拙者が勝ったあかつきには是非、お嫁さん……いや、さらに言うなれば『服従』の意味を込めてメイドさんという契約をだなッ!」
「ちょっとは下心てもんを隠しなさいよあんた……」
 はっ、どうとでも言うがいいさ。さすがは今時のゲームだ。ちゃんとしたヒロイン的存在が用意されているではないか。
 つまりはそういうわけさ。これが「あるゲームの物語」主要のところであるわけだ。不鮮明なタイトルに首を傾げていたが。結局、その手のゲームだったわけで。
 考えてもみてくれ諸君。こんな子が俺の下僕になり、これからあんなことやそんなことといった考えるに容易い展開なんざ、赤面必至だろう。
 こんな素晴らしいゲームを創った作者がそこに居たならば今すぐにでも直筆の感嘆の書を差し上げたいものだね。
 よって、結論。負けは許されない! 是が非でも勝つぜ!
「近こう寄れ。よきに計らってやるぞ、そこの捕獲すべき者め」
 剣を構えると俺は時代劇よろしく悪代官そのものにジリジリと少女に詰め寄った。無論、頬の筋肉は緩みっぱなしである。
 さて、相手はどう動く?
「こ、来ないで。私のママを返して、お願い返して! 外から来た奴らに連れていかれたの!」
 む。どこか様子がおかしい。今にも泣きそうである。剣を下げると、俺は振り返り、
「って、言っているが。どういうこった? ヒサキ」
「わ、私が知るわけないじゃないっ」
 ぼーっとしていたんだろうか、突然話を振られたヒサキが焦ったように言う。
 すると、隣の深柳が口元に手を寄せ、
「どうやら、彼女の母親は先に契約を結んで行ってしまったらしいな」
 では連れていかれたというのはおかしいんじゃないのか。それに、こいつらはそういう役回りなんだろ? そんなことを言ってたら契約なんてもの出来ないじゃないか。
「ラティアはまだ子供ですからねぇ。不幸にもこの世界の仕組みを知る前に母親が契約を結んでしまい、一人になってしまった彼女はわけもわからず困惑しているといったところでしょう」
 と、快活に説明するのはシロツキ。
 それはかわいそうだな……。
 俺はイエスキリストのような微笑を彼女に投げかけた。
「わかった。それじゃあ俺たちと一緒に――」
 言った直後いきなりだ。凶悪な強盗犯でももう少しセリフを喋らせてくれるんじゃないかと思ってしまうタイミングで、
「そうだ、お前たちがママを殺したんだ!」
 ラティアといった少女の右手が俺の鼻先を一閃する。チクッとした痛みと共に、彼女の手の中にある金のナイフに驚愕する。
 な、なんなんだこの子!?
 そしてそれを逆手に持つと再度俺へと振りかざす。きっと、その鷹のような鋭い眼光を俺は間抜け面で見上げていただろう。
「くっ!」
 刺される――ッ!
 痛いほど目を閉じるが……。
 あれ?
 顔を上げるとそこには金髪ショートカットの少年が立っていた。彼女の黄金の刃をハンドボウでガードしながら、
「動くな。森は僕のテリトリーだ。動けば数多ある植物が君を襲うだろう」
 これまでに聞いたそいつの声ではなかった。冷徹――いや、まったくの別人のような声色だった。
 その威圧感に俺も微動だに出来なかった。
 気のせいだろうか森もざわざわと騒いでいるように思える。
 だが驚くべきことに、対した彼女は気圧されるわけでもなく、きょとんとした表情と声で、
「リン、もしかしてリンなの? どうして、どうしてリンがこんな奴らとまたこの世界に!?」
「君は……誰だ?」
 しかし、返事はなかった。それは彼女がくたりと倒れこんでしまったからである。


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