小説&まんが投稿
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:ヒサルキゲームの物語 作者:秋兎

第7回 case.1 相原アキラの場合5
 先生から渡されたブレザーに着替えた俺は、ヒサキと深柳の三人でカガミの森へと向かった。
 いや、正確に言えば向かっている最中である。むしろそれすらも怪しい。なんせ周りに見えるのは青々とした木々や山並などではなく、夕飯の材料でも買いに来たのであろう買い物客や、それを威勢のいいダミ声で引きとめようとするおっさん達ばかりなのである。
「なぁ、ヒサキ。なんで俺達はデパートで買い物なんかしてんだ?」
 ジャガイモの袋(金百五十円也)をカートに入れながら訊くと、
「あんたそんなのもわかんないのぉ? だってほら、もう夕方の五時じゃない。着いた頃にはきっとお腹ぺこぺこよ。森についてから何か獲って食べるわけにもいかないしって、ちょっとっ! そのジャガイモ芽が生えてるじゃない!」
 俺がなるべくでかいものをと探し出したジャガイモをポイっと元の場所に戻すと、ヒサキはすぐさま新しいジャガイモをカートに入れた。
 まったく、どこの専業主婦だお前は。芽なんぞ取って食えば問題ないだろ。
「何もキャンプしに行くわけじゃないんだから飯は帰ってからでいいだろ。大体、それなら家で食ってから行けば良かったじゃないか」
 そうごねる俺に、ヒサキはピクピクと眉を吊り上げた。
「あーのーねー。あんたがすぐさま行こう、俺は今、モーレツに熱血している! とか訳分かんない事言って飛び出すからいけないんでしょーが」
 甘いぜヒサキ君。男というものはだな、夢中なものになると少年の心が全てを凌駕してしまうものなんだよ。
「なにそれバッカみたい」
「こんな所で漫才はやめてくれないか。僕まで恥ずかしいよ」
 振り向くと、手に中辛のカレールーと特売シールの貼られた鶏肉を持った深柳が笑いながら立っていた。
 なんだ。どうりで見当たらないと思っていたら、ヒサキにパシられていたのか。それらをカートに入れると、
「まぁいいじゃないかアキラ。腹が減っては何とやらと言うし、外で食べるカレーも格別だと思うよ」
 愉快げに言う。
 ま、かくいう俺も実は楽しみなのだが。ゲーム世界とは言え、やはり腹は減るものである。試食コーナーから漂ってくる肉の香ばしい匂いなど涎が止まらない。
「なによこれぇ! カゴにこっそりチーズ入れたのどっちよ! 余計な物入れないでよねー」
 金髪少年は舌をペロッと出すと、
「カレーにチーズはつきものだよ。まろやかになるんだ」
 それを聞いたヒサキは腰に手をあて、人差し指をぐぐぐいぃっと突き出した。
「それって邪道よ、邪道! カレーにはネバネバのひきわり納豆に決まってるじゃないっ」
 な、納豆だと。それこそ邪道ではないのか。
 つーか、チーズにしろ納豆にしろ、んな粘っこいカレーなど想像もつかないがな。こいつが納豆を混ぜようなどという素振りでも見せようものなら、即座に阻止しなければいけないようだ。
 まぁ、チーズぐらいなら、まだなんとか平気そうだが……。
 ヒサキは俺らの唖然とした顔を見ると、クスクスと笑った。
「あははっ、冗談よ。今日のところは普通のカレーで許したげるわ」
 という事は、いずれにしろいつかは納豆カレーを食わされる羽目になってしまうのかね。
 会計を済まし、他に見るものもないだろうとデパートを出た直後、ヒサキは買い物袋を俺にほいっと渡した。
 なんだこれは。俺はお前の荷物持ちか何かなのか? との嘆きに、唇を突き出しながらそうよ何を今更といわんばかりの表情をする。けったくそ悪い顔しやがって。もういい、こっちみんな。
 やがて右手に剣、左手にカレーセット一式を装備した俺は深々とため息をついた。憧れの勇者像とはもはや真逆を行ってしまっている。
「これ、忘れ物」
 小さなステンレス製の鍋が袋に追加された。顔を上げると、深柳のヤロウだった。俺の恨みがましい視線にシニカルな笑みを返しやがる。
「よーしっ。準備万端ね。さぁ私についてきなさいヤロウ共! 目指すはカガミの森ぃっ!」
 などと髪をかきあげ、元気よくズンズン歩を進めていく。言っておくが諸君、俺達は遠足に出向くのではないぞ。あくまで「冒険」である。
 とはいえ、そろそろ俺もどちらか見当がつかなくなってきたんだがな。

 俺達がそのカガミの森とやらに着いた頃には、すっかり日も暮れていた。カガミといっても何らそこらの森と変わりはしない。少し霧が出ているくらいだろうか。言ったモン勝ちとはこのことだな。
 しかし、変だな。買い物から約二十分ぐらいしか経っていないというのに、何故日暮れがこんなにも早いのだ。いまいち季節設定が分からん。
 なんて、そんな事はこの際どうでもいい。砂利も敷かれていない山道を登ったり降りたりしたもんだから疲れはピークに達していた。
 俺がぜぇぜぇと息を切らしていると、
「だっらしないわねー。さっきの調子はどこいったのよ。そんなんであいつらを捕まえられるのかしら」
 振り返ったヒサキが両腰に手を当てたポーズで言い切った。そして、追い討ちのように後ろから、
「僕らはもう森へ入っているんだ。いつ誰に襲われるかも分からない。そんな所でへばっていると危ないぞ」
 涼しい声をして言うがな、俺はお前らみたいに軽装ではなく地味に重い剣やあまつさえ買い物袋をさげているんだぞ。もっと労わってくれてもいいだろ。
「だぁああ!」
 俺はもうダメだとばかりに大の字に寝転がると、ヒサキに飯の要請をすることにした。
「わかったわかった。もうここはカガミの森なんだろ。だったらさっさと飯にしようぜ。つーわけで、出来上がったら呼んでくれ。ちなみに俺の分は人参抜きで頼むぜ」
「ああ、なら僕は肉を少なめにしてもらえるかな」
「はぁ? あんた達、なに言ってんのよ。カレーってのはね、みんなで作るから美味しく出来るのよっ。ほらほら、リンは皮むき、アキラは水汲みよ!」
 否定は許されないだろうことはそいつのギラギラした瞳から伺えた。
 もし、料理は女の仕事だとばかりに逆らって炎のパンチでも喰らってしまったら、ここで残りヒットポイントの少ない俺の冒険は終了してしまうこと間違いなしだ。
 ま、こいつの言うようにみんなで作ったほうが美味いだろうな。勝手に納豆入れられてもたまんねぇし。しゃあないとばかりに、立ち上がろうとしたその時、
「どうやら、悠長に食事の時間とはいかせてくれないらしい。『捕まえるべきもの』とやらが現れたみたいだ。――二人とも気をつけろ」
 深柳の表情が一転して真顔になり、森の奥底を見据えた。
 そりゃないだろ。普通、敵キャラなどは待ってくれるんじゃないのか。
 いくらなんでも急すぎだ。
 そう疑いながら深柳の視線を追ったわけだが。案の定、深い霧にそれと思わせるぼやけた影が映し出されていた。
「ふんっ。捕獲するものってどんな化け物なのかしらね」
 そう言って指をポキポキ鳴らしていたヒサキだったが、即座に動揺の色が浮かぶ。何故なら――
「おい。あれって……人、じゃないのか?」
 霧の中から微笑を浮かべながら現れたのは、一人の青年だったからだ。
 所々に金の刺繍が入った黒いスーツに、赤いネクタイ。とまぁ、ここまではどこぞのホストばりの姿だが。腰まである長い銀髪に切れ長の碧眼といった妖麗な顔立ちは、やはりどこか異質な空気を纏っている。
 似てはいるが、人間じゃないことは確かだな。
 そいつは戸惑っているヒサキの前まで歩み寄ると、恭しく頭を下げた。
「私はシロツキといいます。早速ですがお手合わせを願いたい。なに、簡単ですよ。私が宿主に相応しいお方だと判断するまで戦って頂きます。それに適わなければ死ぬまで戦うって事にも言い換えられますけどねぇ」
 微笑そのままに言う。
 慇懃無礼とはこのことだろう。だが、柔和なその表情とは裏腹に、なんなんだこの威圧感は。
 俺はその「敵」に慄然としていた。
 情けない話だが、腰が抜けてしまって立ち上がることが出来ない。
 おいおい、こんなやばそうなヤツを捕まえてこいだって?
「へぇ、言ってくれるじゃない。いいわっ、運動したほうがご飯美味しいもんね。この私が直々に捕まえてやるわ。……あんたたち二人は後ろで見ていなさい」
 対抗するかのように軽い口調で言うが、表情までは笑っていない。
 そして、どちらともなく立ち位置を変え、やや広いところで対峙する。
「これはこれは。話が早くて助かります。私としても是非あなたとやりたかったもので」
 おいヒサキ。武器もないのに、やれるのか? 相手は何をしてくるのかわからないんだぞ。
「そんなの言われなくったって。この私にはねぇ――」
 ヒサキの左腕から翠に燃ゆる炎が勢い良く噴出す。そしてそれはみるみるうちに腕全体を覆い、
「捕らえるべき焔の力があるのよっ!」
 言うが早いか、ヒサキは腕を振りかざすと腹の減ったイノシシの如く突進して行った。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 小説&まんが投稿屋 トップページ
アクセス: 50595