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作品名:ヒサルキゲームの物語 作者:秋兎

第5回 case.1 相原アキラの場合3
 必死に自分へそう言い聞かせていると、先生はやおら足を崩した。 
「ふう」
 先生の緑茶を飲む姿を俺たちは月に一度しか買ってもらえない高級ドッグフードを待てと言われてる柴犬達のような目で見つめた。
 空になった湯飲みに慌ててヒサキが脇に置いてあった急須で再びそれを満たす。
「あら、ありがとう」
 にっこり妖艶な笑みを浮かべて、また一気に飲む。ふっと一息。
 そこでやっと俺達の眼差しに気づき、
「な、なにか私の顔についてるのかしら?」
「あ、あの、説明の途中なのでは……。私達まだその力を頂いておりませんし」
 まったくもってその通りだ。深柳と俺も同時に頷く。
「あらあ、もう貴方達に渡したわよ?」
 のんびりと事も無げに言う。一体いつ何を渡されたというのだ。
 ふむ。そうだな。試しに小さな声で「出て来いさんだぁぼるとぉ」などと言ってみるが、ヒサキに「うるさい、このバカ」と左横腹を強打され俺はあえなく断念することにした。
「あのトランプの意味、結局なんだったんですか?」
 痛みに涙をこらえながら俺が言う。
「ふふ、説明不足だったわね。あれはトランプではないわ。良く似ているけど、この世界では力を決める神聖なカードなのよ。そうねぇ、貴方達の世界で言うタロットカードみたいなものかしら。トランプには赤いクローバーも緑のダイヤもないでしょう?」
「緑のダイヤはないですけど、赤いクローバーなら普通のトランプじゃないんですか?」
 俺の当然だろうという疑問に、何を言っているんだとばかりに溜め息をついた少年が、
「アキラ、クローバーやスペードは黒なんだよ。赤はハートにダイヤ。無論シンプルなトランプということが条件だ。だが、僕たちの引いたカードは違う」
 ぐっ……。そ、そうだったっけか?
「バカはほっときゃいいのよ、リン。ったく、話の邪魔よねー」
 とすかさず追撃ダメージを与えるのはもちろんヒサキ。
 倒れているのにダウン追い討ちとは非道すぎるぜ。
 はぁ、もっと俺に優しくしてくれるハーレムのようなパーティはないものだろうか。さすがにここまで来て新たに酒場へと足を運ぶ力など残ってはいないが。
「まず、リン君が引いたカード。赤いクローバーは、『のたうち狂うことの血の植物』を意味します」
 のたうつ……なんだって? よくわからんが、それはまたバイオなカードだな。それが能力だというのか。そんな物騒なネーミングをした力なんぞ一体どう使うというのだ。
「血の、植物……?」
「そう、周りに植物や、そうね小さな草や芽でもいいわ。それらがある場合その植物たちの力を借りられるということです。例えば相手の足を引っ掛けたり、葉を鋭利な刃物にすることだって出来るわ。応用次第で何でも出来る面白い能力と言えるでしょう」
 おもむろに急須からお茶っ葉をひとつまみすると深柳の手に乗せ、
「その葉を自分の一部だと思いなさい。そして、心の中で命令するのです。刃になれと」
 神妙に頷くと、深柳は深呼吸をして目を瞑った。すると、信じがたいことに先ほどまでしっとりと濡れていた葉っぱがみるみるうちにパリパリと乾いていくではないか。
 俺とヒサキは顔を見合わせると、まだ目を瞑っているそいつの肩を揺すった。
「ねぇ、リン。そ、それ切れるの?」
「そうだそうだ何か試しに切ってみろよ」
 そいつは俺達の声が聞こえているのかいないのか、未だ目を瞑り、無言でその葉を自分の指にあてがった。
「!?」
 おいおい、何も自分の体で試す事はないだろ。俺達が止める間もなく、スッと葉を動かす。そしてやはり、刃そのものだったらしく、深柳のしなやかな指から血が滴り落ちた。
 やがてゆっくり目を開けると、痛々しい指を自分の眼前まで持っていき、先生を睨む。
「血の植物と言いましたね。『血』の意味を僕はまだ教えてもらっていません」
 痛みに顔を歪める事もなく平然と言う。どこか黒い瞳が一層ねっとりと暗くなったような気がする。
 はは、俺は今更ながらに思ったね、こいつもフツーじゃないなと。
「まぁまぁ、これから言うからそう睨まないで、ね。まずリン君、その植物を操る能力にはある致命的な欠点があります。これが何か分かりますか?」
 分からないのなら――、と話を続けた彼女に、
「葉も何もない場所ではこの能力を活かせない。そこで『血』が必要となってくる……」
 まるで無感情なワープロのように言葉を綴っていく。
「そこまで分かっているのなら、もうその力について教えることはありません。貴方、凄いわ」
 少し残念そうに言うと、先生はヒサキへと視線を移した。
 俺は気になり視界の端に映る深柳に目をやるが、そいつは「血が必要、血が必要?」と不気味に反芻していた。これではどうも危ない奴に見えて仕方がない。想像してみた。血が必要なんだとぶつぶつ言いながら街を闊歩する金髪を。五分もせずに警察官が尋問に飛んで来るだろう。もしくは、輸血のために救急車がやってくるといった所か。こりゃ、オカルトだね。
「では、ヒサキちゃんの能力について言うわね」
 いささか、ちゃん付けに違和感を感じたが、ともかくも次はヒサキか。こいつには能力なんていらないと思うがね。ほっといても勝手に敵をなぎ倒して行きそうだ。
 ふと思い、少し疑問に感じていたことをヒサキに訊いてみる。
「気になっていたんだが、俺は剣、深柳はハンドボウといった武器があるが、お前は一体何を武器にするんだ? 能力うんぬんの前にまずそれを訊いておきたいんだが」
 そう問うた時のこいつの顔といったら。皆に見せてやりたいくらいだったね。
 何故、そこまでお笑い芸人みたいな顔芸で見られなきゃならんのだ。
「素手に決まってるじゃない。剣とか銃なんて重い物、この、かっ弱い私が持てるわけないでしょっ」
 まぁ素手だろうとは思っていたがね。ちなみにセリフの冒頭部分「ちっ、良い所でうるさいわねー。んっとにこのヴァカは!」と毒づいていたのは俺の独断でカットしておくぞ。
 おっほん。
 咳払いの音がして俺達が振り返ると、
「彼女が引いた緑のダイヤ、それは『焼き歪めることの翠の焔』という意味が込められています。これは比較的単純な能力ですね」
 また、なんたらことの、か。長ったらしいねどうも。
「えー! 単純って、そんなぁ。複雑な乙女なのにぃ……」
 悲愴な声を出し、肩を落とすヒサキについ笑いがこみ上げて来た。
 ぷぷーっ、単発ゴリ押し能力なんざこいつらしいや! と俺は心の中でひとしきり笑うと、表情を平静に努めるのに必死だった。俺の頬筋よ、なんとか耐えてくれ。
 それにしても、乙女ときたか。今時乙女もないだろう。
「せんせー。もしかしてこれって、炎よ出ろー出ろーって思うと出るんですか?」
 本当の生徒みたいに挙手をして、すっとんきょうな声で訊く。ふっ、可愛いもんだね、やはりこいつはただの女の子にすぎないな。これだから困るんだ。女にRPGとか冒険ファンタジー物は難しいだろうな。まぁ、現実なんてこんなもんさ。うんうん。
「え、ええ、そうですけど。でも出すのにはちょっとコツが――」
 ヒサキは「そうなんですかー」とにっこり八重歯を見せつつ笑うと、こちらを向いて大きく息を吸い、拳をかまえて、
「笑ってんのバレてんのよこのバカアキラ!」
 一瞬何か解らなかったね。強風が吹いたかと思うと、それは無防備な俺の左頬を抉った。そして更に第二波と言うべき緑の炎が猛然と迫ってきた。
「痛ってぇえ! つーか、熱っちぃい! お、俺で試すなよバカ!」
「あ、ほんとに出た。凄い凄いっ!」
 なぁにが凄い凄い、だ。こいつ聞いちゃいねぇ。どこのゲームに新しく習得した魔法なり技を仲間に試すバカがいるというのだ。というか、単純に強すぎるぞお前。バランスを考えろ、バランスを。今すぐにでもこいつのステータス値を確認したいくらいだ。
 俺の無垢な美人さんへのイメージをことごとく壊し続けるこいつは、そんな俺の主張をあっさりまるっと無視すると、
「で、最後あんたなんだけど」
 などと妙にすっきりとした表情で聞きやがる。そりゃ俺だって気になっていたけどよ……。
 なんせ、ジョーカーなどという想像も出来ないカードを引いてしまったんだからな――。


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