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作品名:ヒサルキゲームの物語 作者:秋兎

第4回 4
 五分後、長く続く街路樹を抜けた俺達の前に大きな屋敷が現れた。
 屋敷といっても城のようなものではなく、伝統的な日本家屋といった形だ。
 こんな金持ちが好きそうな屋敷に誰が住んでいるというのだろうね。
 ヒサキは門の前で立ち止まると、
「着いたわ。ここで三人目が来るまで私達は待機。いいわね?」
 そして歩き出す。マジかよ、こんな大そうなお屋敷がアジトだって?
 俺が思い描いていたのは、もっとジメジメした洞窟などにテントを張って、雨やら雪やらが降ってしまった際には体を冷やさないように、とお互い体を寄せ合うそんなイヤーンなアジトを期待していたのだが。
「ばーか。なにアホ面してんのよ!」
 うろたえる俺に容赦なく怒声を浴びせる。
 呼び鈴などないのだろうか、それとも押す必要がないのだろうかそいつはガラッと戸を開けると俺を居間へと招待した。
 そこは無駄に広々としていて、目に付くのは中央の年代を感じる木目の大きなテーブルに、それを囲むように敷かれている座布団程度である。他には年季の入った小物などが置かれているが、そんなものに詳しい高校生など滅多にいるもんではない。つまりはよくわからんし、興味も沸かないので触れないことにしておこう。壊すととんでもない額でしたとか本気でありそうだしな。
「さーてっと」
 ヒサキは、さて案内は終わったとばかりにスリッパを履き、
「お茶煎れるから座ってて」
 と、奥へ引っ込んで行った。
「あんま気を使わなくていいぞー」
 言いつつ俺は適当な座布団にあぐらをかいた。しかし、あいつが茶を煎れるとは意外だ。俺の勝手な偏見かもしれんが、ああいう男勝りな性格の奴は料理が苦手というイメージがある。ま、茶と料理は別モンだけどな。
「もうすぐ先生が降りて来るからよ。あんたはついでよ、ついで」
 こいつめ、俺がせっかく自称最初の仲間A子さんの認識を改めようと試みているところに……。
 まあいいさ。俺は大人だからな。
「ついででも何でも美人の煎れたお茶を頂けるなら光栄だね」
「ふふん、有り難がって飲みなさい」
 やれやれ、まったくいい性格してやがる。
 それにしても気になるのは、先生? 誰かこの屋敷に住んでいるのか。
 いや、普通に考えたらこの屋敷の主だろうな。しかしながら『先生』とのフレーズに、俺のクラスの担任がイヤでも頭をよぎる。そいつはどんな奴かって? タコ社長を地で行ってるような人さ。嫌いではないのだが、いかんせん女子には不人気らしい。
そりゃ、たまに酒臭かったり、朝のホームルームに親父ギャグ連発などされたら引きもするか。きっと似たり寄ったりな奴が来るのだろう。こんな屋敷の主といったら相場は決まっている。

 しかし驚いたね。
 程なくして、その先生とやらは俺の前に現れたのだ。
「あらぁ。あなたがアキラ君?」
 俺がちょっとトイレを借りようかと、立ち上がりかけた所にその人は入ってきた。
 スレンダーな美人で、銀縁眼鏡と泣きボクロがとても色っぽい。
 髪の色が緑という点を除けばどこかの秘書でも十分通用しそうな容姿だ。むしろそのコスチューム姿を是非とも拝みたいね。
 当然俺はタコ親父だろうと油断していたが為に、
「は、はい。どどどうぞよろしく!」
 などと無様な回答を強いられることになったわけだ。
 彼女はクスっと笑うと、
「立ち話もなんだから座ってお話しましょう。三人目の子を待ちながら、ね」
 出るものも引っ込んでしまうとはこのことだろう。しぶしぶ座ると彼女も向かい合うようにスッと座った。
 う、うーむ……。
 妙に着物をだらしなく着ているもので、どうしても胸元に目が行ってしまう。これはF……いや、Gか? って、そうじゃない!
 この多感なる時期の俺にこれはあまりに毒過ぎる。これではまずい。やらしい子ね変態スケベと放り出される前にどうにか会話を始めて気を紛らわせないといかん。
「あの、先生。ヒサキもそうでしたけど、なんで俺の名前わかるんですか?」
「ええと、私がヒサキちゃんに貴方の名前を教えたの。何故知っているかは企業秘密。もちろん三人目の子の名前も知っているわよ」
 三人目? やはり仲間は決められているのか。
「そうねぇ。なら、アキラ君はどうして私のことを先生と呼ぶのかしらねぇ」
 おっとりと微笑む。美しすぎて目眩というものは本当にあるのだろうか。こちらまでボーっとしてしまうような笑顔だ。
「え、ヒサキがもうすぐ先生が来るって……。ひょっとして人違いでしたか?」
 面白そうにゆっくりと首をふる。何故か、からかわれてる気分になる。三人目について少し訊いてみようかと考えた時、呼び鈴が鳴った。
「はーい」
 奥からヒサキの声がして、次いでパタパタとスリッパの音がする。郵便物でも届いたのか? ってそんなもんあるわけないか。ゲームの世界に贈り物を出す奴などいるはずもないしな。
 はて、だとすると……。
「そう。もう着いたみたいよ」
 先生が俺の顔を見つめながら、お見通しよとばかりに目を細める。
 しばらくして、ひょいっとヒサキが現れた。
 左手に湯飲みを乗せたお盆を持ち、右手には三人目であろう学生服姿の少年の腕をガッチリと握っていた。
 器用な奴だ、ウェイトレスのバイトでもやっていたのか?
 いやいや、それよりも肝心の三人目なのだが、俺の願いはきっちりと天に届いていたらしく、極めてフツーの少年が涼やかな笑顔でそこに立っていた。
「初めまして。僕の名前は深柳リンといいます。宜しく皆さん。それにしてもこの世界がゲームだなんて未だに信じられないな」
 そうだろうそうだろう。とても模範的な感想を述べてるこの少年は肩ほどまでいかないくらいの金髪ショートカットに黒い瞳。他に特徴と言えるものといったら、手に持っている古めかしいハンドボウぐらいだ。これはきっと俺の剣と同じく、ヒサキから受け取ったものだろうな。
 にしても、『ミヤナギ』とはあまり聞かない苗字だな。
「ちっす、宜しく。俺は相原アキラだ。もちろん呼び捨てで構わんぞ」
「ああ、僕も好きに呼んでもらって構わない」
 深柳が手を差し出す。俺も反射的に手を差し出し、握手。そいつは白く長い指をしており、まるで女みたいだった。
「うふふ。三人集まったことだし、こちらに座って」
 先生が深柳を俺の隣に促した。やがてヒサキも緑茶の入った湯飲みを配り終えるとやはり俺の隣に座った。
 しばしの無言。なんとなく居心地が悪い。
 一斉に皆お茶をすする。そして少しだけ困ったような顔をして初めに口を開いたのは先生だった。
「あらぁ。そんなに固くならないでいいのよ。この世界では私たちは家族のようなものなんだし。もちろん私はお母さん役ね。なんてね、うふふ」
 もしこれがさっき俺が描いてたであろうタコ親父のセリフだったのならば、俺はあからさまに顔をしかめて緩やかにうな垂れていたことだろう。
 だが、こんなド美人に言われたら……皆までは言うまい。
「はい、お母様っ」
 そう敬礼しながら発する俺の心にためらいなどない。
「せんせー。このバカアキラうざけてるんですけどー」
 さてさて、なんだそのトンチキな造語はとか、ドキドキな幼馴染でもないのに馴れ馴れしくバカを付けるななど色々と突っ込むべきセリフが尽きないが、このおなごを触発することは俺に百害あって一利なしに間違いないと第六感がそう告げているわけで。ま、所詮わが身が可愛いのさ。
「別にふざけてるつもりはないけどな。たださ、このお方の名前を知らない以上、なんて呼べばいいのかわからないだけで、」
「ふふっ」
 笑ったのは深柳だった。彼は口元を押さえて、
「いや、すまない。まさか何も知らない人がこの世界にやってきたとは思わなくて」
 そんなもん説明書を付けてよこさなかった神様にでも言ってくれ。
「……あらあら。そうねぇ、自己紹介なんていらないかと思ったけど、説明書を読んでない子がいるみたいだから軽く挨拶しておくわね」
 彼女は思い出すように上を見上げ、そして微笑を崩さず、
「私の名前はお竜。貴方達の保護者役であり、このゲームの進み方を教える先生役でもあります。困ったことがあったら何でも聞いてね。ふふ、今後とも宜しく」
 なるほど、だから先生と呼ばれていたのか。流石にお竜さんとは呼べないから、俺も便乗しておこう。
「改めまして俺はアキラっていいます。いやぁ、説明書ついてなかったんで困ってたんですよ。でもこんな優しくて美人な先生に直に挨拶されちゃうなんて光栄です! ははははっ」
 と、気づかない素振りを極力滲み出したつもりだったのだが、いかんせん、ヒサキの凍るような冷たい視線がこれでもかと俺を貫く。い、痛い。
「こちらこそ宜しくお願いします先生。で、早速ですが僕たちはまずどこに行けばいいんですか?」
 と、金髪少年。その通り。いつまでも仲良くお茶をしている場合ではない。これはゲームなんだしな。早く街の周りのスライムでも狩りに行かねば。その前に王様の頼みごとでも聞きに赴くか?
「そうね……。まず貴方達にはこの世界で自分達の力となる者を捕まえてきてもらいます。でも、その前にちょっとした実験をするわね」
 真剣な表情でトランプのようなカードをテーブルの下から取り出すと、軽やかに切り、やがて五枚のカードが裏向きに並べられた。
 おいおいまさか、この期に及んでみんなでポーカーでもしましょうってオチじゃないよな。
「それも楽しそうね、なんて冗談よ。じゃあ、まずリン君から一枚めくってもらえるかしら」
 順番にめくっていくのか。これはどういった実験なんだろう?
 隣からゴクっと喉を鳴らす音が聞こえる。
 何を緊張しているのか。
 それから、三分くらいはジーッと穴が開きそうになるまで見つめていただろう。
「いーから、ぱぱっとめくっちゃいなさいよ」
 ヒサキが頬杖をつきながら煽る。その意見激しく賛成だ。そしてまた三分経過。
「……なんなら俺がめくってやろうか?」
 俺が痺れを切らして訊くと、深柳はとんでもないと手を振り、
「きっと、この一枚で力の一部が決まるんだ。安易に選ぶわけにはいかない」
 などとまたカード選びに戻った。力、ねぇ。
 慎重になるのもいいが、裏向きなんだからどちらにしろ適当に選ぶしかないんじゃないか。
「じゃあこれにします」
 散々迷った挙句、一番右端のカードを指差した。そいつは一度先生の顔を伺い、そしてゆっくりとめくった。
 赤のクローバー。数字は三。
 どうやら普通のトランプだったらしい。
「そうか、これが僕の力に……」
 一人盛り上がってるところ悪いが、そのただの赤いクローバーにそれほど悩ましげな視線を送る奴は全世界中を探しても、そうはいないだろうな。俺はうなだれている深柳の肩に手を乗せ、ドドンマイと自分でも良くわからない励ましを送った。
 続いてヒサキの番。早いもので、どこかのクイズ番組みたいな妙なためをせずにさっと直感で引く。
 緑のダイヤ。数字は一。
 ほらな、やはり普通、ではなかった。緑だと? 最近のトランプはそんなカラフルなのも置いてあるのか。
「あんれぇ。緑色なんだけどこれ。変色でもしたのかしら?」
 そう言い、太陽に透かす真似をする。それで変色かどうか解るわけでもあるまい。恥ずかしい奴だ。もっと俺みたいに、柔軟な頭をもたなくてはな。どんな色が出ようが、ましてやどんなマークが出ようとも俺は決して動じないぜ。
 そして、最後に俺が引くことになったのだが。
 結果。ジョーカー。まぁ、これくらいは予想済み……。
「って、ジョーカー!?」
 いやいや、待て。もしこれが深柳の言う通り何かを見る儀式だったとでもしよう。だとしたら、この場合どんな結果になってしまうか分からんジョーカーは抜いておくのが常なのではないのか。お、俺はもう一度引くことを徹底的に要求するぞ。納得がいかん。ありえん。これは何かの陰謀だ。リセット、リセットボタンはどこにある!?
「はいっ、いいでしょう。リン君は中々鋭いですね。そう、これはまず君達の軸となる能力を与える為の儀式です。この基本となる力がなければ次のコースに進むのも困難と言えるでしょう」
 割とあっさりスルーしますね。もうちょっとジョーカーに対するリアクションというものをですね……。
 にしてもだ、俺は何故こんな大事な儀式に縁起でもないカードを引いてしまったのだ。つくづく運のない。
 いや、待てよ――。落ち着け。発想を逆転して考えてみるんだ。もしかしたらこれはとてつもない力を示唆するカードなのかもしれないぞ。
 なんせ、トランプの束に二枚入ってるか否かの代物だしな。そうさ、それを見越して入れていた可能性だってあるじゃないか。つまりはレアカード。
 さすがは凄腕ゲーマー、相原アキラだぜ。


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