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作品名:ヒサルキゲームの物語 作者:秋兎

第3回 3
 どれだけその場に突っ伏していたのだろうか。
 波の音と、強い潮の匂いが俺の安眠をこれでもかと妨げる。
「ほら、あんたいつまで寝てんのよ」
 うーん。サナ、しばらく寝かせてくれ。お決まりだが、あと五分だけ頼む。
 そう言い寝返りをうつが、
「さっさと起きろってんのよ、ゲームの中で寝てんじゃなーい!」
 耳をつんざくような金切り声。
 は、ゲーム? ホワイ。何を言っているんだ。俺は今、憧れの先輩に振られて傷心旅行に伊豆半島へとやってきたとてもカワイソカワイソな青年であるぞ。さすがに崖から飛び降りる程度胸はないので、ホテルのカニ道楽を満喫している最中だがな。うむ、おかわり。
「ちっ」
 未だ夢心地の俺に、そいつは容赦なく刃物のようなもので俺の背中を斬りつけた。
「いててて! こ、こら、お兄ちゃんを斬り捨てる妹がどこにいるのだ」
 よたよたと立ち上がると、俺はあからさますぎる違和感に眉をひそめ、当然ながら周りを見渡してみた。
 何処かの海岸か? エメラルドに輝く海なんて民法テレビですらあまりみかけないぞ。
 もしかして未だ夢の中なのかもしれない。いや、夢だろうが何だろうが、サナの奴め。兄貴に刃物をつきつけるとは、これはとんでもない家庭内暴力だぞ。
 拳を握り、一刻も早く言ってやりたい。
 頼むからやめてくれ、もやしっ子の俺に勝ち目がないだろ。
「おい、サナ!」
 しかし、振り向いた先に凛として立っていたのはサナではなく、もちろん凶暴なトリケラトプスでもなく、一人のどこにでもいそうなブレザー姿の女子高生だったのである。
 いや、何処にでもいそうというのは語弊があるのかもしれない。なんせ、そいつは俺が今まで生きていた中でナンバーワンと言える程の容姿の持ち主だったのだ。
 もちろん、テレビの中のアイドルとか女優とかを抜きにしてな。
 そして、その女は意志の強そうなブラウンアイで俺を見上げたのだ。
「ふん、やっと目が覚めたの? ぶぁーか」
 肩まである茶髪に、後頭部の両脇でちょこんと髪をくくっている姿はとても日本人では、いや、今生きる現代っ子では極めて珍しい髪型の部類に入るであろう。
 そいつは値踏みをするかのように俺をジロジロと見ると、
「なんであんたみたいな弱そーな奴が来たのかしらね」
 溜め息混じりにそう言い捨てた。おいおい、俺だって何故こんなところに飛ばされてしまったのか理由を訊きたいね。十文字以内で簡潔に。
「これがゲームだから」
 笑顔ですっぱりと言いやがる。
 ははーん、なるほど。そういう事か。これが、あるゲームの物語というゲームってわけか。
 なんかややこしいな。ええい、詰まるところのゲームの大御所ロールプレイングゲームなどの冒険なりをリアルに擬似体験出来るってわけだろ? いや、もしかしたらこいつを落とす為のシミュレーションゲームかもしれない。
 はたまたこいつをボールか何かで捕まえ、他の美少女と戦わせるとか……。これは画期的だ! 早速行動に、
 ……いやいや、待て、早まるな俺。そんなことあるわけがないだろう。いくらゲーム脳まっしぐらな俺でもそれくらいの常識は持ち合わせているつもりだ。まずこんな時はお決まりの文句でも言っておこう。
「どうなってるんだこれ? そして、お前は何者なんだ」
 こんなところか。ついでに願わくば弱そうだからといって俺を斬らないでくれ。経験地などもってないぞ。 まだ若いからな。
 そいつはあからさまな不愉快面で、
「はいはい、順を追って説明するからちょっと黙って。ったく、説明書くらい読みなさいよね。……えー、コホン。これはあるゲームの物語という、試験的なゲームです。被験者として選ばれた三人が一組となって現実世界に近いこの物語を攻略していき、最後に塔の最上階にいる敵のボスをぶっ倒すという極めて王道のロールプレイングゲームです。そして、めでたくクリア出来たあかつきには賞金として現金一千万円と本ゲームが完成した際への特別優遇券を差し上げます。ま、大体こんなところね。あとは帰ってから説明書でも読みなさい」
 すまん、俺の情報処理能力が劣っているのか、はたまたこいつの説明が突拍子もないものなのかわからんが、まったく理解が出来ない。マジでそういうゲームなのか?
 しばらく頭の中で説明を噛み砕いた後、俺は閃いたとばかりにぽんと手を打ち、
「要は、この世界で俺以外に二人の仲間をみつけボスの本拠地に乗り込んで行き、桃太郎よろしく鬼を泣かしたらお宝をもって万々歳ってことでいいんだろ?」
 我ながら素晴らしい変換能力だ。
「単純な頭なのねぇ。……あんた、おかしいと思わないの? このゲーム」
 ああ、おかしいだろうさ。だが、降ってきた時には少なくともこんな面白そうなゲームだとは思わなかったね。
 どんな仕組みになっているのかは知らないが、あの冒険が俺のこの手で実際に出来るなんてこれほど熱いゲームがあるのだろうか。これが未来のゲームの形となりうる実験とあらば俺は喜んで手を貸そう。賞金も、まぁ、欲しくないと言ったら嘘になるが。
「で、俺はこれから何処に行けばいいんだ? 武器も何もないぞ」
 ボリボリと背中をかく。
 なんせ、自慢じゃないが着古したTシャツに短パンだけの格好で、堂々と海辺に仁王立ちする勇者など後にも先にも俺だけじゃないだろうか。
「武器はこれよ。あと、服はアジトで着替えましょ」
 手渡された武器というものだが、明らかに俺の鮮血が付着していた点を除けばそれは目を見張る程の美しい剣であった。
 クリスタルか何かで創られたものであろうか、蒼く透き通っている。そして刃の中心部分には紅い宝石が埋め込まれており、俺は感嘆の声をあげた。
「ほほお、中々忠実に出来ているものだ。すごいな、これは」
 ずっしりと重い点もそこはかとなくリアルだ。
「じゃあ、もたもたしないで付いてきなさいよ。これからあんたがこの世界で一番お世話になるアジトへ連れてってあげるから」
 そうツンと長い髪とスカートを翻し、そいつは歩き出す。
 ドスドスと音のしそうな歩き方だな。ま、確かにここに居ても仕方ない。
「ちょっと、待てってば」
 俺は慌ててそいつの後をついていった。
 沈黙。
 気まずいことこの上ない。
 やれやれ、ここで俺が気を使って話しかけたところで俺の心を締め付ける一言が返ってくるに違いない。
 そこで思ったね。出来るだけ案内人であろうこの子のイメージをこれ以上崩さないようにしなければならない。俺なりの紳士の務めというものだ。
 こんな時の行動は決まって一つ。
 暇な午後の授業に窓の向こうの飛行機雲を眺めるといった感じで、周りを何気なく観察してみることだ。
 ……うーむ。青い空、緑に茂る山々。リゾート地かここは? まさか外国じゃあるまいな。
 季節としては春から夏にかけてなのだろうか。気温はさほど高くはない。むしろ適温と言えよう。
 夏だと思わせるのは、ミンミンゼミの鳴き声が聞こえるからだけであって、季節の概念がこのゲームにあるのかさえ疑問だ。
 しかし、南の島で見かけそうな売店や、気のよさそうなおばちゃんたちの挨拶声、往来する車、列車の音まで聞こえてくるこの世界がゲームの世界だとは到底思えない。それ程創り込まれているという事なのだろうか?
 しばし入道雲を見上げながらそんな事を考えてみるものの、やはり答えなど出るわけもない。
 仕方なく視線を前に戻し、彼女のぴょんぴょんと揺れる後ろ髪を眺めるでもなく見ていると、突然そいつは立ち止まり、
「あっ」
 と言うと、満面の笑みで振り向いた。それはもう眩い笑顔だったね。出来ればそれからそいつが放つ言葉はなかったことにしておきたいがな。
「そうそう、言い忘れてたけど、私の名前はヒサキっていうの。記念すべき最初の仲間ってわけ。遅くなったけど宜しくねっアキラ」
 まぁなんだ。まだまだ愛想笑いなど人間が出来ていない俺はというと、まさしく苦笑全開に、
「はは……マジで」
 大きくため息をついておくことにした。
「嬉しそうねー」
 しかし、そのヒサキとやらは気を悪くするといった様子はなく、ニヤリとの表現が当てはまりそうな微笑を返して再び前進を開始する。
 まったく、仲間の選択肢というものがないってことなのか。大体のゲームにおいてそれは当たり前のことなのだが、よりにもよって何故、天然系魔法使い美少女ではなく、こんな暴力女が仲間なのか理解に苦しむ。これでは早くもゲームオーバーを宣告されたに等しいではないか。
 そして、同時にしみじみと思う。三人目はどうか美少女とは言わない、せめて普通の人間をお願いします、ってね。


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