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作品名:ヒサルキゲームの物語 作者:秋兎

第29回 case.? 特別編 あるクリスマスの物語 弐

 二十分後、適当なカラオケ店を見繕って入店した俺たち。
 店内は明るく、やはりこちらも周囲に負けずとクリスマスムード満載の装飾を施している。

「おや、店員さんが見当たらんぞ」

 カウンター越しにキッチンをのぞいてみるが、カーテンに遮られている。
 入店した際、カランコロンとドア鈴が鳴ったハズなのだが、待てども店員の姿が現れない。
 燈咲が、「おっかしいわねぇ」ともう一度ドアを開いてドア鈴を鳴らす。
 が、音沙汰なし。

「……もしかして、忙しい?」

 こういう店に慣れていないのか、キョロキョロと見回しながら居心地悪そうに言う金髪。

「まーさか。そんなハズないじゃん。まだ三時前なんだし。
 混むのは夜の七時くらいからでしょ」

 俺は脇に配置されたソファにどかっと座り、

「まぁ、大方ちょうどのタイミングでドリンクやら料理を部屋に運びに行ったところだろうさ。
 時間はまだまだあるんだ、別に急ぐこともないだろ。少し待ってみようぜ」

 待つ間に何か暇つぶし的なモノはないかねと、横にある小さなクリスマスツリーの飾りに視線を向ける。
 お……なんだ、コレは。
 青い紙切れ――短冊、なのか?
 それには拙い字で『ごにんずっとみんななかよしでいられますように』と書かれていた。

「なにそれ、クリスマスツリーなのにお願いごとの短冊ぅ?
 バッカバカねぇ。七夕と間違えてるんじゃないのかしら、このお嬢ちゃん」

 覗きこみながら呆れ口調で言う燈咲に、

「でも、とても可愛いおねがい」

 そう静かに呟く深柳。
 そんな二人を見上げて俺は思ったね。

「……なんつーか。お前らってさぁ、つくづく対照的だよなぁ。
 見ていて飽きないコンビだぜ」

 笑いながら言ってやると、二人はきょとんと顔を見合わせて、

「そう?」

 と同時に言い放った。
 ヘンな所は気が合うんだよな、こいつら。

 そんなこんなで時間を潰していると、二階から鉄製の階段を軽快に鳴らしながら店員さんがやってきた。
 しかし、まぁなんだ。これがまた凄まじく美人な店員さんだったのだよ、諸君。

「あら、やっと来たみたいね」

 即座に燈咲がカウンター前に移動する。
 その後ろにスッと深柳が続くが、俺はというとソファから身を乗り出して店員さんを眺める作業に徹していた。

 ほほぅ、これはまた……長い黒髪が大和撫子のようで実に素晴らしい。
 後ろで軽くしばっている点も奥ゆかしくてポイントが高い。

 そして格好なのだが、セーラー服の上にフリフリのエプロン、片手にはお盆、もう片方の手にはお玉といった男のロマン要素が見事にブレンドされており、まさしくそれは匠の技術と言ってしまっても過言では――って、ちょい待て。
 セーラー服だと?

 ならば、俺たちと歳があまり変わらないということか。中学生にはみえないし、高校生バイトなのだろうか。

 ふーむ。その割には幼い顔つきをしているようだが、と目を細めて眺めていると、その少女はハッと俺たちに気付いた様子で、

「な、なんということなのでしょう……っ!」

 バックに衝撃の青い稲妻を携え、ガッシャンと抱えていたお盆とお玉を同時に落とす。

「わたくしとしたことが、お客様を待たせてしまうなんて……っ!
 ああ、睨まれております。怒り心頭なのですっ! 暗雲低迷ですっ!」
 
 暗雲――ええと、なんだって?

「あのー……別に睨んでませんケド」

 と、眉をひそめながら言う燈咲。

「はわー! なんという、なんという……っ!」

 そいつの醸し出すあからさまな不機嫌オーラにビビったのか、うっすら目に涙を浮かべて足をガクガクと震わせる店員さん。

 コイツを恐がる気持ちはわからんでもないが、そこまで大げさなリアクションを取らなくても。

「何? この人」と、能面ヅラに疑問符を浮かばせる深柳。

「なんだろうね」

 まったくもって。

 しっかし……こりゃまた凄まじい娘がいたもんだな。一体どういった環境で育ってきたのだろうか。

 俺たちが理解に苦しんでいるという様をポカン口で表現していると、

「こうなったら鮮血の土下座でなんとかお客様にご慈悲をば……! あ、ご慈悲をば……っ!」

 いやいやいや。土下座って。しかも鮮血というオプションつきかよ。それとなんで二回言ったんだ。
 そう頭の中でツッコミ妄想をしつつ、ノンキに苦笑していたのだが。

 スカートをたくしあげ、髪をかきあげ、「いざ!」と言って土下座の姿勢に入ったところで、
 あ、この娘はマジもんだなと確信し、俺は慌てて立ち上がった。
 
「待ってくださいって、俺たちさっき来たばかりですから、そんな土下座なんてされても困ります!
 気にしてませんから顔をあげてくださいよ。ほら、燈咲も」

 そう仁王立ちのそいつに振ったのがどうやら間違いだったらしく、

「甘い! 甘すぎるわね、あんた。時間はお金と同義なのよ。
 あんたはあたし達の時間を奪った、すなわちお金を奪ったドロボウと一緒ってこと。
 この不手際、土下座程度で許してもらおうなんて本気で思ってるワケぇ?」

「は、はわわ。すみません……っ!」

 おい、こら。
 何を言い出すんだこの女は。別にドロボウなんて物騒なワードを持ち出すほどの話じゃないだろ。

 あの深柳でさえ、驚きの表情を燈咲に向けて、

「燈咲……いくらなんでも、それ言い過ぎ」

「そうだぞ、そんなに怒るコトじゃないだろうよ」

 だが、そいつは両手をバッと広げて俺たちを制止した。

「うるさい。あんた達は黙ってなさい」
 
 ヒイッと、抱き合いながら退く俺と深柳。
 今、一瞬目が赤く光ったように見えたぞ。こええ。

「いい、あんた。そこで大人しく待ってなさいよ」

「は、はひっ!」

 燈咲が獲物を狙うヘビクイワシのようにひたひたと無言のまま近づいていく。
 対するは、恐怖で体を震わせながら目をつむり、腰を抜かしたように床にへたり込む店員さん。

「……どうしよう」

 腕の中で金髪少年に意見を求められるが、

「さて……どうしたもんかね」

 と、答えるのが精一杯だった。どうするもなにも、見届けるしかあるまいて。
 やがて少女のもとに辿りついた燈咲は、にやぁと悪魔のような笑みを浮かべると、

「さぁ、覚悟することね」
 
 ぺロリと舌なめずりをした。

 そして――俺たちが見守る中、ソレは始まった。

「どっせーいっ!」

 ぽにょん。

「はにゃああぁっ!」
 
 叫ぶ少女。

「……やっぱり。思った以上に大きいわね、でも垂れてないでちゃんと張りがあるわ。ムカつく」

 おい。

「何をしてやがるんですか、燈咲さん」

 俺のツッコミに、

「なにって、見てわかんないの? 胸を揉んでるのよ。
 ねぇねぇ、すごい大きいわよこの子。だと思ったのよねー、予想的中って感じ!」

 って感じ! じゃないだろ。
「何を食べたらこんなになるのかしら。肉? 肉なのね」などと首を傾げながら揉み続けるセクハラ娘を、

「いつまでやっとるんだお前は」
 
 とりあえずひっぺがしておく。

「……はぁ、はぁ」

 なすがままにされていた店員さんはグッタリとしていた。
 息を荒げてはいるが、まぁなんとかご無事なようだ。……多分。

「すみません、こいつナニがアレなもんでして。察してやってください」

 代わりに謝ってるというのに、そいつときたらあっけらかんと、

「別にいーじゃん。女同士なんだしさぁ、スキンシップよスキンシップ。男にはわからないわよね、こーいうの。
 はい、今のでチャラにしてあげるわ店員さんっ。それじゃあそろそろ歌いたいんだけど部屋とってもらえるかしら」

 バチンとウィンクをかますと、店員さんは乱れたエプロンを着なおして、

「は、はい。お許し頂き光栄です……。
 お部屋なら二階の一番奥の部屋を、ど、どうぞ」

 と、ポッと頬を赤く染める。
 いやはや、なんだろうねこの反応は。まさかと思いたいところだが。

「あはははっ。あんたノリ良いわねー。好きよ、そういうの。
 明も凛も、ちったぁこのノリを見習うべきだわっ」
 
 ビシッと指差すそいつの腕を、サタデーナイトフィーバーよろしく無言で上へと持ちあげてやる。

 ったく。こいつも、またそうやって誤解されそうなことを言ってると、

「はう……」

 ほらな。

 案の定、『好き』とのフレーズに店員さんの顔がまた茹でダコのように変化する。
 あまつさえ顔を両手で覆って、イヤンイヤンと首を振りはじめたぞ。もはや、重症の域だな。

 仕方ない。ここは一つ空気を読んでやるとするか。

「あー。俺ら先に歌ってるから、お前はゆっくりでいいぞ燈咲」

「え、なによ。イキナリどーしたのよ。あたしも一緒に行くってばっ」

 そう階段をあがろうとした俺達のもとへダッシュを試みた燈咲のスカートを、ガシッと捉えるバイト少女の手。

「……なっ!?」

「わたくし、あのような大胆なことをされたのは初めてなもので、その……続きは優しくお願いします」

 ようやく事態が飲み込めたのか、引きつった顔をする燈咲。

「ちょ、ちょっとあんたウソでしょ……。
 違うわよ! か、勘違いしないでよねっ、あたしにそんなシュミないから!」

「――わたくしの愛用する辞書に書いてありました。
 その発言もまた、屈折した愛情表現の一つだと、そう存じ上げてる次第でございます……っ」

「ひぃいい! ぞ、存じ上げてるんじゃないわよっ、このおバカ!」

 こいつの困ってる姿を見ているのも中々に気分の良いものだが、そろそろ頃合いだろう。

「んじゃ、お邪魔なようだし、今度こそ俺たちはお先に」

 そう言って、無表情に二人のやり取りを眺める深柳の背中を押す。

「……待って」

「ん?」

 なんだ、お前。ああいう組み合わせが好きなのか。
 俺が冗談テイストに言うと、

「違う」

 ぴしゃりとマジメに一蹴された。
 はて。じゃあ、どうしたんだと訊ねようとしたとき、深柳は不思議そうに俺を見上げて、

「この感じ、どこか懐かしい。あの人も、この場所も、この光景もみんな見たことがあるような気がする。
 ……明は、どう思う?」

 長いまつ毛を揺らして一つ瞬きをする。そんなに見つめられてもよ。
 どう思うもなにも、俺はお前の求める答えを持ち合わせていないぜ。
 だから、本心のままこう答える。

「なんじゃ、そりゃ?」

 ってな。

 お前は何か思い当たるふしがあるのかもしれないが、俺はこのカラオケ店も巨乳なヘンテコ店員さんも全てが初見だ。ご期待に添えず誠に申し訳ねぇ話だけれども。
 金髪は意外にも(もう少しこの話題を引っ張るのかと思っていたのだが)あっさりとした様子で、

「きっと気のせい……行こう」
 
 そう切り上げ、静かに歩き出した。


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