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作品名:ヒサルキゲームの物語 作者:秋兎

第28回 case.? 特別編 あるクリスマスの物語
「へっくし!」
 ……寒いな。
 俺は空を仰ぎ、またかと盛大に溜息をついた。
 いつぞやに見た雪景色。先ほどまでの世界とは真逆の世界。
 簡単に言ってしまえばあるゲームの物語冬バージョンといったところだ。
 どうして俺はまた冬のゲーム世界を夢見ているのだろう。
 もしかするのならば、この夢は俺に何かを示唆しているのではなかろうか?
 なーんてな。夢は往々にして支離滅裂なものに決まってる。繋がりや意味なんざあるはずもない。夢にそんなもんを求めるなんて乙女チックな妄想は妹にでも譲るとするさ。
 大方、セミのうるさい金切り声に飽き飽きした大脳皮質が無意識のうちに冬っぽいもんを求めてこんな夢を映しているんだろう。
 それがたまたま、かぶっちまっただけさ。
 そう貧困な夢のボキャブラリーに苦笑しながら、頭上の雪塊をせっせと払いのけていると、
「――ん?」
 なんだ、この感覚は。
 前にも俺はこんな独白をしていたような――。
「明ってば。何こんなところで寝てんのよ、バーカ」
 気の強そうな声が聞こえた。いや。強そうな、ではなく、実際に強い奴の声だ。
 なんせ、イヤでも耳に残るこの声の主は。
「燈咲、か?」
 ベンチから身を起こし、寝ぼけ眼でそいつを見上げる。
 予想通りに、そこには神塚燈咲が立っていた。
 緑のブレザー衣装に身を包んだ健康的な女子高生。と、ここまでならば聞こえはいいが、いかんせんその性格が――。
「ひさきちゃんくあぁ? じゃ、ないわよっ! 凛を連れて来るまでそこでおとなしく待ってなさいとは言ったケド、昼寝なんてするとは思ってもみなかったわ。大体よくそんな堅いベンチでグースカピースカ寝られるわね、信じらんないっ」
 えっへんポーズのまま俺を見下ろし、口を挟む余地もなく啖呵を切られる。
 ほらな。ご覧の有様だぜ。
 どうでもいいが、冒頭のそれは俺の真似をしているつもりなのか。んな、アホ丸出しの言い方はしていないぞ。
「あら。あんたそっくりの言い方じゃん。情けない子どもみたいに甘えたカンジでさぁー」
 ……いっそ、そこまで言われると清清しい気分だぜ。
「燈咲、少し言い過ぎ。明もそんなところで寝てたら風邪ひくよ」
 そう苦笑混じりにつんけん娘の後ろから現れたのは、金髪ショートカットの深柳凛。赤い釣り目が特徴的の――って、アレ?
「お前、目ん玉赤く光ってなかったか」
 言うと、二人は顔を見合わせて、
「まだ寝ぼけてるの?」
 声を揃えて呆れられる。
 はて。
「ほら、三人揃ったしそろそろ行くわよ」
 燈咲が笑顔で俺に手を差し出す。それを掴んで立ち上がりながら、
「行くって。えーっと、何処へでしょうか」
 少々疑問だらけで、申し訳なくなってきた俺は自然に丁寧口調へと移行する。
「ったく、凛。思い出し草でも生やしてこのバカに飲ませてやんなさいよ」
「え。そんな種あったかな」
 探さんでいい探さんでいい。なんだそのもれなく副作用がありそうな危ういネーミングの草は。
「やべぇ、マジで頭がスリープモードかましているのかもしれん」
 こめかみを押さえる俺に、
「あんたはいつだってスリープモードでしょ」
 おさげをいじりながら、イタズラっぽく笑う燈咲。
 どうでもいいが、お前って俺をからかうときはホント生き生きしているよな。
 俺たちのやり取りを見ていたのか、金髪がクスクスと笑い声をもらす。
「なんだよ、深柳まで」
「ごめん、ちょっと二人が面白くって」
 言いつつ、何故か俺も笑ってしまった。冷たい風の舞う寒空の下、ベンチの前でデコボコ三人組が笑っているのだ。端から見れば変な集団に見えること必至だろう。
 さて、それじゃあそろそろ人目も厳しくなってきたところだし。これから何をするのか、我らがリーダー様に問うとしようかね。
「うーんとね。じゃあ、ヒント。今日は何の日かしら?」
 やれやれ。
「ヒントではなく、即座として簡潔な答えを要求する。これだから女はまどろっこしくて敵わなん」
 言った直後、凄まじい速度のフレイムブロウが俺の腹を抉る。
「ぐふぅ……な、なーんてな。えっと、深柳。すまないが助け舟を頼む」 
 膝をついて腹を押さえる俺に、無感動な少年が(仲間が仲間に殴られているんだ、もう少しリアクションを取ってくれてもバチは当たらんと思うが)、これまた無感動に空を指差す。
「うえ」
 示す方向へと顔を上げる。鈍重な灰色雲が、体躯には見合わんスピードで空を駆けている。これから雨でも降りそうな雰囲気ではあるが。
 んで。それが、どうした。
「あっち」
 また別の方向――商店街へと指差す。その指の向くままに視線を傾けると、俺はやたらに納得した。
「なるほど、ね」
 はなっからそれを指してくれたら早かったのに、とは思うが。いやいや、ここまで大々的にやっていたんだ。気付かない俺もどうかしていたな。
 そう、街はクリスマスムード一色。豪勢に装飾されたモミの木に、クリスマスイルミネーションとやらでライトアップされた店たち。どれも様々な自己主張をしており、客を呼び込もうというよりも、ただ単に雰囲気を楽しんでいるように見える。
 そして耳を済ませば微かにだが定番のクリスマスソングが聴こえてくる。こういった曲が流れると、あぁそう言えば今年ももうクリスマスか、といった気分になるね。
 それにつけても、クリスマスソングってもんは昔から代わり映えがしないよな。新しい曲が入ってきたとしても往々にして一過性で、残る曲は結局いつものヤツだ。単純に俺が流行に疎いだけなのかもしれないが。
 まぁ、いいさ。とりあえず、俺たちもあの行き交う人の流れに身をゆだねようではないか。
 チビっこい金髪の頭にポムっと左手を置き、仁王立ちする燈咲の肩に右手を回して、
「よーし、おめぇら俺に続けぇ!」
 俺たちは勢いよく商店街へと繰り出して行った。

***
 
「…………」
 場所は寂れた喫茶店。
 俺は燈咲のフィヨルドランドペンギンも凍っちまいそうな視線をかわしながら、アイスカフェオレを一気にストローで飲み干して、
「だから、悪かったって。そう睨んでくれるなよ」
 搾り出すように言う。ちなみにあれから五分も経っていない。
「あんたねぇ。何をするかも決めてないのに、勝手に飛び出されても困るわよ。計画も無くぶらぶら歩いてもつまんないじゃん」
 とは仰いますがね。とっくにお二人さんで決めてくれていたものとばかり思っていたワケで。
「決まってないってーの。当日三人で決めようって、昨日言ったじゃない」
 言ったじゃない、と言われましても。そんな約束した覚えないぞ。
 ちょっと待て。本当に昨日それ自体を失念してしまったようなのだが。
 先ほどは寝ぼけていたからとまだ言い訳が出来るが……おかしい。
 俺が頭上に疑問符を形成し始めたところで、
「確か、四つくらい候補があがっていたハズ。その中から決めよう」
 メロンクリームソーダのアイス部分をスプーンで突付きながら、隣に座る金髪が提案する。
 ええと、それでその四つって何があるんだ。
「明もノリノリで候補出してたじゃん。あんた、もしかしてボケてきたんじゃない?」
 そんな歳でもねーよ、と一笑に付せればいいんだけどな。記憶から昨日がごっそりと削げ落とされちまったかのような感覚でね。わりと本気で憂慮してしまうレベルだ。お前達と会ってあの鐘の音を聴いたところまでは覚えているのだが。
「それ、おとといの話」
 深柳ですら心配の表情を浮かべる。
 ……まいったね、どうも。いくら海馬のヤロウに訊ねても、んな記憶持ち合わせてませんってさ。
「ま、いいわ。それはそれとして。その四つの候補の話なんだケド」
 おい。また雑に切り上げてくれたな。仲間の深刻な悩みだぜ。もう少し親身になってだな、
「そうね。じゃあ、親身にもう一度ボディブロウをかましてあげようかしら」
「という、ただの独り言だ。構わん、続けてくれ」
 っつーか。
 今思えば、お前のそれで昨日がぶっ飛んだのかもしれねぇぞ。なんだっけ燈咲の能力。記憶ぶっ飛ばすことの翠の焔とやらだったか。
「大体合ってる」
「ちょっとぉ! 凛まで変なこと言わないでよねー。それに、明もしつこいわよ。昨日の記憶なんてどーでもいいじゃん。それよりも、今日をどう素晴らしく生きるかが大事なのよっ!」
 紅茶に付属されていた子犬さん模様のティースプーンを俺に突き出しながら、あたし決まったわねといったオーラを醸し出しているところすまないが。別にそんなに決まってないぞ。
「う、うるさいわね。そんなことより、いい加減候補の話をしましょ。えっと、カラオケにゲームセンター、ウィンドウショッピングに遊園地といった案が出ているわ」
 今日び遊園地って。子どもじゃあるまいし。
「お約束だけど、あんたがその遊園地を提案したのよ。別の味のチュロスを三人で買って食べようぜってさ」
 ええと、確かそれはノリノリで?
「そ。ノリノリで」
 これはまた、すまなんだ。
「で、あたしから言わせると遊園地は無理ね。このド田舎世界にそんなもんないし、あったとしてもそんな大金持ち合わせてないわ。妥当な線は他三つね」
 うーむ。
 ゲームの世界に来てまでゲームセンターで遊ぶというのもなぁ。どうせ、この案は燈咲だろう。なんとなくだが、そんな予感がするぞ。
「……いーじゃん、別にィ」
 意外にも恥ずかしそうにそっぽを向いて紅茶をすする燈咲。
 面白いもので。
 こいつが晴れやかな顔をすれば俺の表情は曇り、こいつが曇った表情を浮かべると、俺の表情はたちまちに晴天へと変化していく。いわゆる一つのシーソーゲームみたいなものだ。別に競ってはいないけどな。
 いくらか気分を良くした俺は、未だにアイスと格闘している深柳に尋ねることにした。
「お前は何がいい?」
「ん。僕は、最後に色々なお店を見て回れたらそれでいいかな」
 するってーと、ウィンドウショッピングは深柳の提案か。らしいと言えばらしいかもな。
「じゃあ、それまではカラオケに決定ねっ。夕ご飯も面倒だしその中で食べちゃいましょ」
 俺は別に何でもいいけどさ。お前はいいのかよ。せっかくのクリスマスなのにそんな簡単な計画で。
「結構な計画じゃん。たかだか、学生の身分なんだし。こんだけ遊べれば十分よ。そうよね、凛」
「うん」
 締めにとって置いたのであろうさくらんぼを、もぐもぐと口の中で転がしながらコクリと頷く深柳はともかくとして、燈咲みたいな美人さんがこういった庶民派だと高感度もウナギ登りってなもんだな。イメージではもっと高級そうな場所でしか遊ばないように伺えるが。
「そうでしょー。強いし可憐だし天才なのに、贅沢を言わない謙虚な心をちゃーんと持ち合わせる。そんじょそこらの一般人とはそもそも人間としての格が違うのよね」
 いやはや。それさえなければな。せっかく高感度が上がったというのにその一言でだだ下がりだぞ。
 そう嘆息する俺に、燈咲がクスッと笑った。
「ほーらね。これでプラスマイナスゼロ。人の印象なんて簡単に決まるものよね。まっ、今度あたしに変なおべっか使ったら毎回こうやって返すから。それじゃあ、いい時間だし早速歌いに行きましょ」
 と言って、颯爽と立ち上がり会計伝票をマスターへ渡しに行く。 
 何を話しているのだろうか、談笑しているその後ろ姿に一つ思う。
 もしかして、俺は少しだけ燈咲の事を誤解しているのかもしれないと。そりゃあ会ってまだ三日も経っていないし、分からないのは当然のことかもしれないが、それでも少しは分かった気でいた。しかし、それはきっとこういうジャンルのヤツなのだろうという曖昧で小さな枠に押し込んでいただけに過ぎない。
 こいつと言葉を交わすにつれ小さな枠がことごとくぶち壊されていき、その都度に俺は――。
「もう、ブツブツとうっさいわねぇ! あんたのそれ長いんだもん。ほら、凛も片方の手を持って。引きずって行くわよ」
 おいコラ、人がせっかく良い具合で物思いにふけっていたというのに。
「心得た」
 唯々諾々として俺の手を引っ張る深柳。お前もそんな簡単に心得てくれるなよ。
「……ハァ」
 なんだろうね、これは。捕らえられた宇宙人か、はたまた徘徊行動に終止符を打たれたご老人か。出来ればまだ前者の方がありがたいね。
 なすがままの状態でそんなことをぼんやりと考えつつ、店を出る直前に俺は壁に掛かった古時計へと視線を飛ばす。
 時計の針は午後二時ちょうどを指していた。


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