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作品名:ヒサルキゲームの物語 作者:秋兎

第27回 27
 俺はとっさに目をつむり、そして数秒後にハッとして顔をあげた。
 一体、今のは――
 思考が停止しかけたとき、舞った火薬の匂いがツンと鼻をついて俺の頭を揺り起こした。
 撃った……先生が、深柳を?
 血の気が失せるよりも先に、俺は金髪へ叫んだ。
「み、深柳、大丈夫か!?」
 しかし。
 心配をよそに、そこに立つ深柳は平然としていた――無表情のまま左手を突き出して。
「……こんなこと」
 ヒサキの動揺を含んだ声色を聞き、俺もゴクリと喉を鳴らして後ずさった。
 なぜなら、そいつの突き出した手の平から蜘蛛の網のような模様をした金色のシールドが張られているからだ。
 それがどうしてシールドだと言い切れるのかについてだが、深柳の左手の平数センチのところで時が止まっちまったかのように動かない銃弾を見れば誰だってそう思うさ。
「な、なんだよソレ。いつの間にそんなもん使えるようになったんだ……お前」
 能力や霊鳴なんてものがあるんだ、今更シールド如きで驚いたりなどしないが。
 それでもしかし、発砲に臆することもなく、それを事も無げに止めたそいつに俺は不気味さを感じずにはいられなかった。冗談ではなく、俺だったらそういった能力があったとしてもとっさに防ぐことは不可能だ。俺に限らずとも、一般人ならそうであるハズだ。前にも思ったがぶっ飛んでいるのは何もヒサキだけはない、こいつだってそうだ――。
「わからない」
 機械的に呟いて、ゆらりと手を下げると俺の方へ首を曲げる。その瞳は暗く淀み、俺ではない遠くの誰かを見ているようだった。
「わからないって、」
 俺はそれ以上言葉を紡ぐことをやめ、視線を逸らした。どうしてか、これ以上訊いてもムダのような気がしてならなかったからだ。
「いや、やっぱいいや」
 少々おどけ口調で言った俺に、
「そう」
 ポツリと感情を削ぎ落としたかのような声一つが虚しく返って来る。あまりにも冷えきった一言に驚いて、再度深柳へと視線を投げかけるがそいつはもう俺を見ていなかった。
「ふぅ。……合格よ、リン」
 先生はホッとしたように拳銃を仕舞うと、古びた教壇の上へ腰掛ける。
 まぁなんというべきか、こんな状況だが目のやり場に困ってしまうね。すまないが、俺はどうあがいても健全たるただの高校生のようだ。
「……」
 合格との響きに感動することもなく席へ着く深柳。近場へ落ちたであろう、巨大な雷鳴に瞬きもしない。凍りついた表情は真っ直ぐ先生へと向けられている。
 ――やはり、おかしい。
 普段の金髪だって感情豊かな部類には入らないが、さすがにここまで露骨に無を纏ってはいない。
 ヒサキはどう思っているのだろうと目配せを試みると、そいつは緩やかに首を振って何がなんだかといったジェスチャーを返した。
「立っていないであなた達も座りなさい」
 まるで学校の先生のような発言と(確かに先生といえばそうなのだが)、続いてタイミング良く鳴り響いたチャイムに俺達は慌てて席へと舞い戻った。
 やれやれ、なんともまぁ。長年の学校生活で培われたとは言え、条件反射とは悲しいものだ。パブロフの犬とやらにも負ける気はしないね。
 先生は大人しく席に着いた俺達たちを満足そうに見渡した後、
「いい子ね」
 足を組みなおして優しく言った。わずかにだが垣間見えた以前の『お竜先生』らしき面影に、俺は小さくため息をつく。なんとも言えん寂しさに襲われる。きっと全部演技だったのだろう。今思えば名前も含め、わざとらしい振る舞いが多々見受けられた気もする。まったく――今更の話だが。
 そういえば。先生の本名は、
「私の本当の名前はお竜ではなくミヤコよ。でも前のように先生と呼んでもらっても構わないわ。好きにして頂戴。さて、これで疑問は解決かしら? アキラ君」
 まさか――。
 人の心を読むって、あなたはエスパーか何かですか。
「いいえ。私にはあなた達のような能力も、ましてや人の心を読むなんて特別な力もないわ」 
「だったらどうして俺の言いたいことがわかったんです?」
 と訝しげに訊ねてみるが、
「読まなくともわかるのよ。……いつも通りだから、ね」
 いつも通りって、なんら答えになっていない気がするのですが。
「悪いけど、時間がなーいの。ごちゃごちゃ言ってるとぶっ放しちゃうわよ〜」
 額に怒筋が浮かび上がったところで、俺は即座に表情筋を叩き起こすと、ものの数ミリ秒で笑顔を形成した。
「すみません、なんでもないです。どうぞ続けてください」
 右隣から「ビビってやんの。ダッサー」との侮蔑の声が聞こえてくるが、無駄にカッコつけて死ぬよりはマシだってーの。
「では、さっきの金色の壁について説明をしなくてはね。……よくききなさい、リン。今、あなたが私の銃弾を防いだものはアキラ君の言うとおりシールドと呼べるもの。そう、正しく言うのならば『GSシールド』これはあなたのリビドーそのものが形而下したモノ。この盾を持ってすれば、どのようなものだって弾くことが出来るわ」
「……はい」
 と、わかっているのかわかっていないのか短く返す深柳。
 しかしながら、リビドーって……。そう顔を赤らめる俺にヒサキがあきれながら、
「バーカ。単純な男ね。そういう意味じゃないわよ」
 なんだよ、そんな棘を含んだ言い方しなくてもいいだろ。だったらどういう意味だ。お前だってどうせ知ったかぶりのクセに。
「残念でした。あんたよりは知ってるわよ」
「じゃあ説明してもらおうじゃないか」
「いやよ、めんどくさい」
「ほら見たことか」
「何よ」
「何だよ」
「やんの?」
「やってやろうじゃねぇか」
「やらないわよ」
「やらないのかよ」
 俺とヒサキがそんなジャブの応酬をしていると、
「ああ、もう。いい加減になさいってば、あなた達は。本当にいつまで経ってもあの頃みたいに――」
 先生はそう言いかけると、しまったとばかりに口を噤んだ。
 はて。あの頃っていつのことを指して言っているんだ?
「……なんでもないわ、とにかくあなた達にはリンのGSシールドが必要なのよ。生き残る為にね」
「ふーん。生き残る為に、ねぇ。それ以前にあの銃弾をリンが防がなかったらどうするつもりだったのかしら。あたしには偶然にシールドが発生してラッキーって感じに見えたんだけど。アキラ風に言えば、甚だ疑問ってヤツね」
 だが、それを返したのは深柳自身だった。
「GS発生は偶然ではない」
 そいつは前を向きながら未だ不可解モードのまま淡々に、
「これは必然に基づいてのこと。僕のGSは遅かれ早かれ発生するよう仕組まれている――今回はそれを強制的に早めただけ。そうしなければ、もう間に合わないから。神塚ヒサキ、君にならこの意味が解るハズ」
 対してヒサキは、
「……」
 無言。
 何それワケわかんないとでも返すのかと思ったら、そいつは眉を顰めて何かを考えている素振りを見せた。
 やがて、まとまったのだろうか俺のほうを向き、
「間に合わない、ね」
 それだけ言うと腕組みをして椅子へと座りなおす……って、ちょっと待て待て。
 意味がわからん、何が間に合わないんだよ。お前達のやり取りの間に何も見出せないわけなんだが。
「ゲームが始まればきっとすぐでもわかる事だわ、アキラ君」
 だから、ゲームって一体なにをするんだよ。いい加減に勿体を付けないで教えてくれ。
 不明瞭なことばかりが積もって、頭がどうにかなりそうだ。
「そうね。そろそろ頃合いかしら。では、教えましょう。あなた達三人にこれからやってもらうゲームは、『ヒサルキゲーム』――今日を含め、三日間以内にこの学校内に潜むヒサルキと呼ばれるバケモノを探し出して殺しなさい」
 また出たか、ヒサルキ。深柳の頭ん中にだけ現れる空想上の生き物だとばかり思っていたが。
 殺せとはなんとも物騒な物言いだが、要するによくある時間内にモンスター退治しろみたいなヤツだろ?
 そういうゲームなら別段珍しくもないさ。
「ヒサルキ、ですか。で、それってどんなバケモノなんですか?」
 俺の問いには答えず、先生はリモコンを取り出してスイッチを押した。
 反応したのは鉄製の台に置かれたテレビだった。
 旧式過ぎる為か、ぼんやりと鈍重に表示されていく画面。
 やがてその画面内がハッキリと映し出されたところで、俺は小さく悲鳴をあげた。
 何故なら、そこに映し出された世界があまりにも現実と乖離していたからだ。

 斜め上から見下ろす角度で撮影されている赤い部屋。
 その部屋がきっと赤いペンキ塗装によるものでないことは、お世辞にもアートとは言いがたい乱雑な血飛沫の痕から容易に察することが出来る。
 それだけならまだ悲鳴はあげないさ……血塗られた天井から数人の子どもの死体が吊るされてさえいなければな。
 死体は原型を留めていなく、もはやそれが人間なのかどうかさえ――もし、かろうじて残っている頭部がなかったら、俺はきっと動物か何かの死体だと決め付けていたことだろう。
 その凄惨な死体達は、押し並べて臓物が無造作に抉り出されており、空っぽになった腹の中には血染めのぬいぐるみが押し込められている。耳らしきものまでは判別出来るが、何の動物を模したぬいぐるみなのかはよく判らない。
 腹に異物を詰め込んだそいつらは、まるで成金野郎が好む趣味の悪いオブジェのようだった。
 そして俺は、死体どもが皆一様にしてある一点を見つめていることに気が付いた。
 その一点とは、中央のくたびれたソファに座る――え?
「こ、これがバケモノ……。これがあのヒサルキだっていうのか?」
 こんな。だって、どうみてもコレは、
「冗談もいい加減にしてくださいよ……。バケモノって――ただの女の子、じゃないですか」
 そう。そこに座っていたのは紛れもない人間だった。
 黒いセーラー服に身を包んだ長い黒髪の少女。俯くように座るその子は、大事そうにサルの人形を抱きしめている。
「……いい? あなた達。三日間以内に出来るだけ迅速に、そして確実に彼女を殺害しなさい」
 先生の発言と同時に、画面内の彼女がゆっくりと顔を上げる。目が合い、逸らすことが出来ずにいると、
 そいつはニヤっと口角をあげて、繰り返すように何かを呟きはじめる。
 なんだ、なにを言っているんだ?
 俺が首を傾げていると、彼女は不意に笑い出した。
 ただひたすらに。狂ったかのように。ケタケタケタケタと――。
 一瞬にして紅く染まった彼女の瞳を覗き込んだとき、ようやく何を呟いているのか理解することとなった。
 彼女は……こう繰り返し呟いていた。
『アキラクンアキラクンアキラクンアキラクンアキラクンアキラクンアキラクンアキラクン……』
 と。 
 ずっと、今でも。笑いながら焦点の定まらない瞳で俺の名を呼び続けている。
 それはそれは無邪気な子どものように。


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