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作品名:ヒサルキゲームの物語 作者:秋兎

第26回 case.1 相原アキラの場合22
 とにもかくにもと、その霊鳴とやらを握ってみる。
 ヒンヤリと冷たいそれは、俺に初めましてと挨拶をするかのように一瞬だが青い光を放った。
 そいつはご丁寧にどうもと頭を下げた後、先ほど先生が言っていたセリフを思い出す。
 石と一体化するようイメージし、気を加えてどのような形状でもいいから武器らしくしろ、だったか。
「イメージ、ねぇ」
 どうしたものだろう。
 この場合、一体なにを想像すればいいのだ。
 やはり王道と言うべき剣か――いや、それではどうも在り来りでつまらない。
 ここは影の薄い槍辺りにでもスポットを当ててやるべきかな。
 遠くからチマチマやるだけでも強そうだしさ。どこからか臆病者めとの声が聞こえてきたが、それは違う。俺は慎重派なんだ。
 なになに、それならばブーメランや弓でも使ったらいいだろうって?
 確かに遠距離武器としては中々に便利ではあるが、俺のコントロール力の低さを見くびってもらっては困る。
 もし敵に突貫していくヒサキの後頭部にでもそいつを誤ってクリーンヒットさせようものなら、その場で俺の冒険は終了してしまうこと間違いなしだ。わざわざ、そんなリスクを背負う必要もないだろう。
 まあ、そういったワケで俺のイメージする武器は槍に決定だ。少々投げやりなまとめ方かもしれんが、ってこれはギャグのつもりではないぞ。まだそんな年ではない。
 さて。どうせやるなら、少し大げさにいくべきか。おっほんと咳払い一つ、
「太陽が昇りて、闇夜を照らし出す神の光となれ! 出でよ暗黒魔槍グングニール! でりゃあっ」
「うわ……」
 といった、あまり肯定的とは受け取れない金髪の小さな呟きに続いて、横からヒサキによる鋭いローキックが飛んでくる。
「うるさいってーの! せっかく武器が出来たってのに気が散って解けちゃったじゃん。……大体それさぁ、前半は神の光〜とか言っちゃって聖なる武器っぽかったクセに、どうして出てくるのが暗黒なんたらになっちゃうのよ。ちょっとは考えて物言いなさいって」
 んなもん、適当にそれらしいものを叫んでおけば雰囲気で察してくれるだろ。どうせ誰も召喚時のセリフなんざまともに聞いちゃいないさ。それと、仲間をそう易々と蹴らないでくれ。
「だって仲間が混乱したときって、そいつを殴って正気にさせるのがフツーじゃん」
 どうやらこいつのプレイするゲームでは混乱した相手に超特大級の必殺技をぶちかますらしい。混乱しているのはどっちだと問いたくなるな。
「あのですね。お前さまの蹴りには炎がもれなくついてくるんだぜ、知っていましたか?」
「それはほら、お灸をすえるってよく言うじゃん。だから焔付きなの」
 なの、じゃねぇ。もういい。お前とは付き合ってられん。不毛すぎる。
 俺はタバコの焦げ跡のように黒くなってしまったふくらはぎ部分の煤を払いながら、
「しっかし、冗談にここまでリアルなダメ出しをされるとは思わなかったな。さっそく足を負傷。まったく先が思いやられるぜ」
「なんだ冗談か……。アキラならありえるかもと一瞬思ったよ」
 そう安堵の息を吐く深柳。
 おい、お前なぁ。本気で言うほどあっちの世界に染まってねぇっつーの。
「どうだか」
 ヒサキが意地悪そうに鼻で笑い、
「ああ、どうだか」と深柳も続く。
 まったくこいつらときたら。俺をからかうときだけ良い連携プレイを見せやがる。

***

 そんなやり取りから数分後。
 二十四振り。二十五振り。二十六振り――振れども振れども、案の定なにも起きないわけだが。
 はてさて、どうしたものやら。
「あんたまだ出来ないの?」
 とっくに霊鳴の武器化を果たしたのだろうヒサキと深柳が身を乗り出して俺の手元を覗いてくる。
 そこには当然、数分前と変わらずの石があるわけで。
「ダメそうか……」と心配そうな深柳。
「うーむ、俺のイメージ力が足りないのか。はたまた、俺の生命エネルギーとやらが壊滅的に少ないというのか。……って、言っておいてなんだが、それはかなり恐ろしい事実だな」
 腕を組み、とりあえず困りましたとばかりに唸っていると、
「そろそろいいかしら」
 言って、先生がこちらへと振り向いた。どうやら自習時間は終了らしい。もう五分も経ったのか。
「さっそく、ヒサキから順に起動をやってみせてもらうわ。いいわね?」
 一番手に指名されたそいつは立ち上がると、ツーサイドアップを指でクルクルと弄びながら、本当に――邪悪な笑みを浮かべた。
「ええ、いつでもどーぞ。センセ」
 そんな挑発的な口調をさらっと流し、
「そう。では、どうぞ」
 眼鏡の縁に手をあて、一歩下がる先生。それに続いて深柳も静かに席を立ち、その場から離れる。
 なんだなんだ。仰々しい。わからんが、一応俺も離れていたほうが良さそうだ。
「行くわよ」
 接近なんちゃら兵器と呼ばれるエメラルド宝石を掴んだヒサキは、ふと瞑目し、そしてそれは始まった。
「――うっ」
 一瞬呻いた後、ブクブクという湯が沸いた時のような音が聞こえてきた。よく見ると、石の内部に液体のようなものが入っている。どうやら音の正体はこいつらしい。
「この音、気泡か?」
 俺の隣に佇む小柄な仲間はそう訝しげに言い、自分の霊鳴を一瞥した。
 その行動に倣い、俺も手の中にある石ころへと視線を向ける――って、あれ。
 水の一滴も入ってないぞ。こりゃどういうこった。疑問符を浮かべた俺は即座に深柳の霊鳴を盗み見るが、そいつのには満々と液体が入っていやがる。
 まさかとは思うが、この液体が入っていないが為に俺の霊鳴は反応しなかったってオチではあるまいな。
 だとしたらさっきの俺の努力は一体なんだったのだ……。などと胸中で嘆いていると、不意に顔が熱くなった。
 いや、恥ずかしいからといった理由ではなくだ。顔を上げると、そこにはヒサキが立っていた。何を当たり前のことをと思うかもしれないが、問題は掌中にある霊鳴の姿である。
 剣……違うな、この造形はどちらかと言えば日本刀に近い。柄にあたる霊鳴石からはおびただしい量の蒸気と共に先ほどより激しい気泡音が発生している。そしてその刀身部分は豪快かつ大胆に燃えていやがる。そう。あいつの能力、翠の焔ってヤツでだ。
 なるほど鬼に金棒もとい、ヒサキに霊鳴だね。などと感心するよりも前に、それにしては、と俺は思う。
 何故かな。何故こうもあっさりとこいつは霊鳴石を操れるんだ。ついさっき渡されたのにも関わらずこの姿、いくらなんでも普通とは言えないだろ。――これも彼女のセンスによるもの。そう言うのなら、そうなのか?
 煙いな。俺はやや後退し、口を手で覆った。
「合格、と言いたいところだけど。ヒサキ、あなたにはいささか焦りが見えるわ」
 見下ろしながら冷ややかに言ったのは先生だった。対するヒサキは先生をキッと睨みあげると、
「……どの口が。焦っているのは、どっちだってのよ」
 吐き捨てるように言い返した。
「意地っ張りな子。あなたは、いつだってそう」
「悪かったわね。あたしの性格は親ゆずりなの」
 今にも鍔迫り合いの音が聞こえてきそうな睨めっこが始まってしまった。
 一触即発とはこのことだろう。
 何が引き鉄になったのかは知らんが、二人とも手には禍々しい武器が握られているわけで。
 仲裁に入るにも命がけである。狼狽した俺は、隣で立ち尽くしたまま微動だにしないショートボブの白い外套を引っ張った。
「……なに?」
 また考え事でもしていたのだろうか、一瞬ビクっとした深柳がこちらを驚いた眼で見る。
 何じゃなくてですね、この状況どうするべきか一緒に考えてくれませんか。
「ああ。わかった。ここは任せて」
 深柳は軽やかに頷き、
「そ、そろそろ僕の起動テストもいいです……か?」
 しかしぎこちなく言った。
 ふと、我に返ったのだろう先生は眼鏡をかけ直して咳払いをし、ヒサキはといえば霊鳴を邪魔くさそうに一振りし、再びただの石ころへと戻すとむくれ面で椅子に腰掛ける。
 やれやれ。何はともあれ嵐は過ぎ去ったようだ。
「ごめんなさいね。ではリン、やってみせて」
 先ほどよりもいくらか穏やかな表情で言う先生に、
「はい」
 先ほどよりも感情を無くした声色で深柳が答えた。
 ヒサキの時とは別の緊張感が伝わってくる。どうやら、こいつは真剣なときほど無表情になるクセを持っているらしい。
 霊鳴を握り直した金髪がチラッと不安そうにヒサキを見る。
 不機嫌そうなヒサキだったが、深柳の視線に気付くとフッと表情をやわらげ、
「さっき出来てたじゃん。大丈夫、あんたの思うようにすればさ。懼れることはないわ、それはただのオモチャだもの」
「……うん」
 首肯した深柳は、俺へと視線を移した。
 じっと見続けられる俺。なんだよ。だんだんと変な気分になっていくではないか。ええと、これはもしかして次は俺の番だったりするのか?
「あー。まぁ、頑張り過ぎない程度に頑張れ深柳」
 やっとのことで言葉を発した俺に、
「うん」
 もう一度ゆるりと首を縦に振り、目を閉じる。
 静寂に包まれた教室内に、幾分か落ち着いた雨音が響く。
 何度目かの稲光が教室内を照らしたとき、ようやく深柳の石に変化が生じた。
「くぅっ――!」
 能面ヅラから一転、苦痛に顔を歪める深柳。
 霊鳴からゴボゴボと耳障りな沸騰音が発生し、その先端から流れるドロっとした液体が徐々に見覚えのある固形物へと変化を遂げてゆく。
「へぇ、いい武器じゃん。上出来上出来っ」
 ヒサキが感嘆の声をあげる。
 薄めの琥珀色をした石の先に、これまた同じ色のだらりと垂れ下がるモノ。なるほど、そういえばムチなんてのもあったなと俺は妙に感心した。マイナーな部類だろうに、何故これを選んだのか。興味あるね。
 俺の質問に肩で息をしていた深柳がポツリと、
「わからない。僕は違うものを想像しているのに、造ろうとしているのに。どうして、どうしてよりにもよって……」
 答えに焦燥感が伺える。何の気なしに尋ねたつもりだったのだが。もしや、気に障るようなことでも言ってしまったのではないだろうか。
 気まずい空気を感じとったのだろう金髪が、
「いや、すまない。なんでも――」
 顔をあげ、驚いたように目を見開いた。
 その視線は俺ではなく、俺の後ろに立っている先生へと注がれている。
 先生がどうかしたのだろうか、と振り向こうとした瞬間のことだ。
「やっぱり、ダメね。残念だけどあなたは不合格」
 やけに透き通った声と共に、
「……さようなら」
 耳をつんざくような破裂音――銃声が鳴り響いた。


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