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作品名:ヒサルキゲームの物語 作者:秋兎

第25回 25
 叩きつけるような雨音が耳朶を打つ。その耳障りな雨音に混じって遠雷が鳴り響いた時、
「おい、アキラ。しっかりしろ」
 揺さぶられた俺は、大きく伸びをして顔を上げた。あいてて。未だに首が痺れていやがる。
「なんだ、ここは。――教室か?」
 首をさすりながら周りを見渡してみる。古色蒼然とした木造の机と椅子たちに、目の前には小さな教壇。次いで、圧倒的な存在感を醸し出す薄汚れた黒板。その上方には校内放送用のスピーカーが設置されており、左脇には旧式テレビを乗せた鉄製の台が見える。中に何やら金庫らしきものがあるような……薄暗くてよく分からんが。灯りといえば、教壇にある金ピカの燭台だけだ。頼りない火だな。あとは時折走る稲光ぐらいか。それにしても凄まじい豪雨である。この島には、いつの間に嵐なんてオプションがついたんだ?
「どうやら、あたしら拉致されちゃったみたいね。まったく、やれやれだわ」
 右を向くと、薄ら笑いを浮かべながら行儀悪く椅子をゆらゆらと揺らすヒサキの姿があった。
「されちゃったみたいって。そんな嬉々として言うことでもないと思うけど」
 左から深いため息。頭痛がすると言わんばかりにひたいを押さえる深柳。
 とりあえず深呼吸を一つ。そして、心持ち疲れた声で俺は言った。
「すまん。状況を説明してくれないか」
 これから三人で補修授業を受けますって雰囲気ではないのは確かだ。
 だがそいつらは、
「こっちが聞きたいくらい」
 んな絶望的な一言を二人揃ってハモらないでくれよ。
「先生ってば、こんなところにあたし達を連れ出して一体何をするつもりかしらね」
「はて。楽しいこと、とはいかないだろうな。いくらポジティブに考えても怪談話くらいしか思いつかないぜ」
「陳腐な発想ねぇ。貧困とも言えるわ。他に、月並みとも言い換えられるわね。別言すればありきたりみたいな。さらに換言するとワンパターンって感じ。あとは、」
「なぜそこまで言われなきゃならんのだ」
「そんなの、なんとなくに決まってるじゃん」
 誰が決めたんだ。って、お前だろうけどさ。
 というか、なんとなくで俺をイジめてくれるなよ……。
 しかしながら。
 ――センセイ、か。その響きをきっかけに、俺は先程の記憶を呼び戻していた。
 無数の足音。今なお残る首の痛み。手荒な真似をしたくないとか言っておきながら、十分過ぎる仕打ちだぞコレって。
「さっきから先生がどうのって何の話だ? 彼女がどうかしたのか」
 金髪が不思議そうな顔をして訊ねる。
「単純なことよ。先生が私たちをここに連れてきたってだけ。目的は不明」
「先生が、何故そんなことを?」
 さあな。そればかりは本人に訊いてみないとわからん。
 俺もヒサキに倣い、イス遊びでもしようかと背もたれに体を預けた時、
「噂をすればなんとやらってね。……ご当人様の登場みたいよ」
 そう言って、ヒサキは喉奥で微かに笑った。

***

「ようこそ、ヒサルキゲームへ」
 開口一番だ。扉が開いたかと思うと先生はつかつかと教壇まで歩み寄り、いきなりこう言い放った。
 無論のこと俺たちはといえば唖然として先生を見上げるしかなかった。
 軍服姿にハーフアップにまとめた髪。いつぞやに見た別人のような姿の先生。
 険しい表情をした彼女は、しばらく俺たちを睥睨と見回した後、
「これからゲーム内容において説明をします。私が説明している間はおとなしくしていた方が身の為よ。……この意味、わかるわね?」
 その意味はすぐに理解することになった。
 何故なら、彼女の突き出した右手には拳銃が握られているからだ。
 否応無しに人間を萎縮させてくれる鉄の塊を前に俺は息を呑み、ヒサキは舌打ちをした。
 だが、深柳はいつもの無感動面のまま何やら考え事をするかのように視線を彷徨わせている。
 こいつ、肝が据わっているというか、なんというか。
 この状況を前によくも悠悠と思案に耽ることが出来るものだ。
「さて、こちらの都合で悪いけどあまり時間が残されていないの。だから簡潔にこのゲームの概要を説明するわね――あなた達、被験者には三日間以内にある事をしてもらいます」
「……ある事?」
 歯切れの悪い言い方に、深柳が訊ねる。
「まぁまぁ、焦らない焦らない。あ、その前にあなた達に渡す物があったのよね〜っと」
 急に快活な声をあげた先生は、鉄製の台の前まで歩み寄ると金庫のダイヤルを回し始めた。
 やがて開いたことを示すカチッという音と共に何かが取り出された。
 なんだろう、と首を傾げる俺たちの机上に手のひらサイズの石のようなものが並べられた――というより宝石というべきか?
「これは……」
 俺たちは銘銘に宝石らしき物を手に取り、物珍しげに眺めた。
 その石は長細い六角錐形をしており、平らな面には丸い水晶が埋め込まれていた。
 半球状に飛び出した水晶にはアルファベットで『D』と刻まれている。
 俺はしばらく眺めた後、ヒサキの方を窺った。
 そいつはつまらなそうに頬杖をつきながら指でちょいちょいと石を転がしている。
 ん? 俺の物と色が違うぞ。俺の石は透きとおるような青い色をしているが、ヒサキの石は淡い緑色だ。
 ならば深柳の石はと視線を移すと、そいつの石は琥珀色の輝きを放っていた。
「あれ。何でお前のだけ光ってんだ?」
 どっかに隠しスイッチでもあんのか。
「イヤ、ただ手に取っただけだが。しかし、なんだこの手によく馴染む妙な感触は……」
 そう困惑する深柳に、
「こうも簡単に霊鳴が人を受け入れるなんて……さすがはサードテスター、そう言うしかないわね」
 先生は依然として煌く石を深柳の手中からつまみ取ると、独白のように呟いた。
 レイメイ? サード? またよくわからん造語のお出ましか。
「あら、心配は無用よ。今からちゃんと説明するわ。この綺麗な宝石の名は、通称霊鳴」
「……通称って、まずは正式名称を教えてもらいたいんですケド」
 唇を突き出しながら不満げに訊ねたのはヒサキだった。よくもまぁ、そんなつっけんどんな訊き方を出来るものだ。先生を刺激して万一にも撃たれちまったらどうするんだよ。
 そんな俺の嘆きに、そいつは小声で「バッカじゃん。あんなの脅しに決まってるわ。刑事ドラマの見すぎよね」などと言いやがった。
 いやはや。時々ごく稀にだが、お前の図太さが羨ましくなるぜ。
 刑事ドラマにこんなシチュエーションあったのかどうか定かではないが。
 俺たちのやり取りが聞こえていたのだろう先生は苦笑を唇にたたえつつ、
「仲良きことは美しきかな。あなた達みたいな子がこの世界に選ばれたなんて正直信じがたいわ。――では、説明を続けます。霊鳴の正式名称は接近戦専用対人兵器、試作型霊鳴石。ヒサキの持つ霊鳴石はエメラルド仕様の『壱式』、次にアキラ君の持つ石はサファイア仕様の『弐式』、最後にリンの持つ石はシトリン仕様の『参式』となります。それぞれ別の宝石で造られているけれど、能力自体は他と変わらないわ。その能力についてだけど、これは実践してみせた方が早いわね」
 直後、先生は深柳の霊鳴を握りなおしたかと思うと、折りたたみナイフのクイックオープンよろしく手首のスナップを利かせて振った。
 するとどうだろう。シトリンの尖端部から橙色に輝くオーラがあふれ出てきたではないか。水飴のようにドロっとしたそれは地面にこぼれ落ちると跡形も無く消えてしまった。
「そう。アキラ君の言うとおりこれはオーラと呼ばれるモノ。生きとし生けるものすべてに潜在する生命エネルギー。霊鳴はその生命エネルギーを具現化し、視認に至るまで引き出す役割を持っています。言わば、オーラ抽出器といったところかしら。ですが、このままの垂れ流し状態ではまともに使い物になりません。なので、こうやって少し気を加えると、」
 再び霊鳴を振った次の瞬間、流れるままにあったオーラがみるみるうちに小刀状へと形成されていく。
「このようにオーラを固めることによって刃が生成されます。もちろん、見た目どおりこれには小刀程度の殺傷能力が備わっています。これら形状は持ち主の資質――つまり、簡潔に言えばセンスによっていかなる姿にも変えられることが出来ます。それこそ、使いこなし次第で何千通りにも」
 そりゃまた、たいした石だ。ここまで来るとどういった造りになっているのかなどという疑問さえも浮かばん。もはやマジックを通り越して神様の玩具レベルだぜ。
 そんな俺の冗談に、
「神様のおもちゃ、か。……そうね、あながち間違いでもないかもしれないわ」
 先生から感嘆の眼差しが向けられる。
 いやいや、んなマジに取られましても。
「さて、これから五分間だけ時間を与えます。その間に霊鳴を起動させなさい。その際、どのような形状になろうとも構いません。……石と一体化するようイメージするのがコツよ。これより霊鳴に関する一切の質問は受け付けないわ。では、始めなさい」
 それだけ言うと、話は終わったとばかりに背を向けられてしまった。
 あのー、先生? もう少し具体的に説明をして頂きたいのですが。
 心の中で呟き、俺は机上に転がった石ころを見下ろした。
 いきなりオーラだのイメージしろだのって言われてもなぁ……。
 習うより慣れろにも限度というものがあるぞ。


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