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作品名:ヒサルキゲームの物語 作者:秋兎

第19回 6/3修正
「うーん、まいったなぁ」
 次にどこを探そうか。迷った私は、とりあえず空を飛び、島全体を見て回っているのだけれど。
 見渡せど見渡せど、普通の島人たちばっかり。
「それっぽい侵入者なんて見つかんないなぁ。本当にいるのかしら。もしかしたら、ピースの数え間違いだったりなんかして……」
 なんて一人ごちていると、杖状態のまま霊冥が甲高い鳴き声をあげた。
「うん? 霊冥ちゃん、どーしたの」
 訊くと、頭の中に電光板が浮かんだ。それは霊冥と言葉を交わせる唯一の手段だった。直接話せたら手っ取り早くていいのにね。しばらく目を閉じて待っていると、やがて闇の中に光輝する文字が浮かび上がった。
『姫様。海岸にて残りの侵入者達を発見しました』
「あっ」
 そういえば街中だけしか見てなかったっけ。ぽんっと手を打った私は、さっそくとばかりに、南側に一箇所だけ存在する海岸に降り立った。
「ほんじゃま、片付けちゃいますか」
 集束。瞬く間にナイトビジョンの世界が広がっていく。
「見つけたらどうやって殺そうかなぁ」
 確か、残り四人くらいだったよね。何の魔法で始末しよう。風はさっき使ったし、雷の魔法で感電死なーんて見飽きた。炎もダメダメ。ただコゲ臭いだけだし、あれ。それなら水の魔法がいいかなぁ。うーむ。溺死ってのもなんだかパッとしないかも――
「わっぷ!」
 ぽーっと、そんなことを考えていると、何かに蹴躓いて顔面から砂に突っ込んでしまった。
「いったたたぁ……ぺっ、ぺっ」
 トホホ。今日はずっこけてばっかりだ。よっこいせと起き上がり、口の中の砂を取り除こうとした瞬間、私はギョッとして集束を解いてしまった。
 そこに転がっていたのは年端も行かない子ども達の惨死体だった。およそ三人程か。そう、それは『およそ』だった。何故ならみんなバラバラに切り刻まれているから。この私が驚くくらいだもん、かなり悲惨な状態。
 ひき潰されたソーセージのような腸が散らばり、他にも赤黒い内臓の類がいっぱいばら撒かれてある。どれが誰の部位だか見当もつかないや。唯一、彼らの頭部だけはそのままの状態だからまだマシなのだろうけど。男の子一人に、女の子二人かな。ま、多分だけどね。
 それにしても、どうしてこんなヒドい殺され方を。それに、一体誰が侵入者を始末したのか。私以外にこんなことをするのは、いや、こんな殺し方を出来るのはピースくらいしかこの島には存在しないハズだけど。
 でも、わざわざ私を出向かせておいて自分が殺すなんて、そんなのおかしいような……。
 とりあえず音羽で訊いてみるしかない。
「ピース様。応答願います。ピース様? もしもーしっ」
 あれ。イヤーカフはうんともすんとも言わない。
 まさか故障しちゃったのかな。あれやこれやと音羽をいじっていると、突如激しい地響きが起こった。
「わったった。こ、今度は何!?」
 ともかく、震源を確認する為に羽を広げ、飛び上がったワケなんだけど、
「あれは、まさか霊獣――クロエ?」
 ここから然程遠くない森林の中に、見覚えのある巨躯の虎が佇んでいた。周りには土煙が舞っている。
 何故、こんなにも早く彼女が放たれているんだろう。
 唖然とする私に気づいたのか、クロエは長い舌を出し、巨大な前足でちょいちょいと何かを指した。あそこに行けってことなのかな。
 もしかしたらそこに最後の侵入者がいるのかもしれない。
 誘われるがままに、そこへ向かい、そして私は驚愕を味わうことになった。
「これはこれは。やや、お久しぶりですねぇ、姫。相変わらずお美しい限りで」
 透き通るような長く美しい銀髪に、爽やかな微笑。だけど、切れ長の碧眼は一つも笑っていない。
「……どうして君がもう動いてるの? まだゲームの時間まで大分あるのに」
 その如才の無い立ち振る舞い、いつもの張り付いたような笑顔。間違いない。霊獣シロツキだった。彼まで既に放たれているなんて、今回のゲームはどうなってるんだろう。
「おやおや。始まってないとでも? そうですね、確かに『あちらのゲーム』は始まっていませんが、」
 ふと、傍らに一瞥を送るシロツキ。
 そこには一人の女性が横たわっていた。緑のブレザー姿に、短いツーテールの女の子。こちらからでは顔は見えないけど、多分、私より年上。だってお胸大きいし。
「その人が最後の侵入者さん?」
 含み笑いをしつつ、首を横に振られる。島人には見えないし。ということは、
「お察しの通りです。ねぇ……お嬢?」
 彼が愉快そうに声を掛けると、
「まったく。寝たフリも楽じゃないわね」
 やれやれと立ち上がり、首を鳴らしながらゆっくりと振り向く。
「久しぶりねぇ、奏。いえ、こちらでは紗華夢 夜虹サンだったかしら」
 腕を組み、傲然と睥睨する彼女。白磁の肌に桃色の唇。女の私から見ても溜息が出ちゃうほどの美人。
「どうしたのよ。マヌケな顔して。あんた、『シャゲムヤコウ』なんでしょう。そんなんで、ちゃんとやれるのかしらね。フフッ」
 ぞっとする笑みを浮かべる。
「え? どうして、私の――」
 急にそれは起こった。今まで感じたことのない寒気と吐き気が私を襲う。
 サブリミナルのように何かが連続して網膜に映り込む。私は無意識の中、それを拒絶するかのように集束を開始していた。
「ケルヴ」
 不意に口を突いて出た言葉を理解する間もなく、霊冥に全魔力を注ぐ。集束が加速し、そして目の前が一瞬のうちに紅く染まっていく。
「ケルヴ、ケルヴ! 殺してやる、殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる!!」
 視界が赤く歪み、断続する頭痛が私を襲った。
『ERROR。ERROR。姫様。D型集束は投薬無しの為、制御不可能。即座に解除を要請します』
 霊冥からの警告だった。そんなの解ってる。でも、それでも、集束を断つワケにはいかない。何故か、この女が憎くて憎くてたまらない。身を割かれる程に。
 だから、こいつを殺すまでの数分、その間だけでも。
「バグってんじゃないわよバカ猿。……来なさい、霊鳴」
 瞬きと同時に、目の前の女も集束をしていく。蒼の煌きを放つ瞳に、空から飛来する霊冥のレプリカ――『霊鳴』
 手のひらサイズのエメラルドグリーン。まるでフォールディングナイフを開刃するかのように、彼女はそれを振った。
 霊鳴から翠炎が生まれ、やがて太刀状に姿をとどめる。慣れた手付きで石を起動したケルヴは流れるような動きでそれを腰の位置に構えると、静かに口を結んだ。
 そう、そうこなくっちゃ。それでこそ殺り甲斐があるってもの。
「贄となりなさい、バカなメス犬。……おねがい、霊冥」
 私も彼女に続き、霊冥の造形を変えた。漆黒の稲妻を添えて、太刀状に変化した霊冥を後ろ手に構える。
 この時私の脳裏には、ある疑問が浮かび上がっていた。何故、『あるゲームの物語』の時点で霊鳴及び集束を被験者が使えるのか?
 でも、その疑問も一瞬のこと。どうしても彼女を目の前にして冷静ではいられなかった。
 温い風が私たちの髪を弄ぶ。この風が止む、その一瞬に――
『そこまでだ、夜虹。それ以上、シナリオに背いた行動をするな』
 不快な機械声がした。コイツ、今頃になって。
「しかし、ピース様。今回のシナリオはまるで以前とは、」
 私の質問を聞く前に、
『貴様に答える必要はない。ゲーム開始まで、おとなしく校舎で待機していろ』
 にべもなく一蹴されてしまった。この紗華夢にも教えられない?
 なによそれ。言い返してやりたい。でも、我が御主であられるピース様に向かって反論など、断じて許されない。
 バカバカしい? 私だって最初の頃はそう思ってたよ。
 でも、ダメなんだ。ピースの言うことは絶対。そうゼッタイ。
 私は唇を噛み、集束を解除した。深紅の世界から淡緑の世界、そしてやっと普段の世界を取り戻す。
「了解しました。ピース様」
 羽を広げ飛び立つ瞬前、彼女と目が合った。とっくに集束を解いた様子のケルヴ。
 ケルヴ? 当たり前のようにこの女をそう呼んでいたけど、それってなんなんだろう。
 それにどうして、私はこんなにも彼女が憎いんだろう。
 数秒後、彼女は限界だとばかり、
「ふふっ。なによ、そんなに見つめちゃって。ははーン、さては美人すぎるこの私に惚れたわね」
 指でくるくると後ろ毛をもてあそびながら笑う。
「は、はぁ? 何を言ってるんですか」
 意味不明な一言に私は思わず聞き返した。
「ごめんだけど、私にそんな趣味ないのよね。ちょっとだけキョーミないでもないけど。ま、お姉様〜って呼ぶくらいなら許したげてもいいわ」
 な、な、なんて馴れ馴れしい人なの!?
 傍らのシロツキも何が楽しいのかくつくつと笑ってるし。なんだか凄くバカにされている気分。
「ふざけないで。誰があなたなんか! 次に、会ったら必ず霊冥のエサにしてあげます。覚悟しておくことですね」
「あっくやくぅ。無様な定型句もいいところね」
「くぬぬっ……」
 ああもう、こんなバカ犬なんかに構ってられない。さっさと学校へ戻ろっと。
 霊冥を杖状態に戻し、空へと舞い上がる。
 彼女が(名前は知らないが)既にこの世界にテスターとして参加しているというのならば、他に二人居るはず。
 ヒサルキゲームのルール上、被験者は三人組でなければ成立しないから。気になった私は、ケルヴに悟られないよう高度を上げて集束した。
『姫様。今日はもう集束をお止め下さい。それ以上はお体に障ります』
 霊冥ってば、心配性というか、真面目さんというか。
「だいじょーぶだって、私を誰だと思ってるの」
 なんて、実はちょっとだけキツかったり。いや、ちょっとじゃないかも。
 不可抗力とはいえ、D型を使った後だからね。
 しばらく森の中を透視していると、一人の男性を見つけた。乱れたブレザー姿の彼は、ぐーすかと気持ち良さそうに寝息を立ててる。
「……なんであの人みたいな弱そーなのが選ばれたのかな」
 あ、くしゃみした。
 この被験者は、さっきの男達より手ごたえがなさそう。ありゃ魔法使うまでもないや。
「もう一人は、クロエとお話してる人かしら」
 金髪の学生服。性別は、うーん。見分けつかない。二人とも何やら話し込んでいるみたいだけど。仮のゲーム設定とはいえ、使い魔と契約って戦闘シーンなのに。なんだかあの二人ってば緊張感ないなぁ。
『夜虹。応答しろ』
 び、びっくりしたぁ。今度はなんだよぅ。
「はい、ピース様。どうなされましたか」
『最後の侵入者を発見した。即座に校舎へ戻り、彼女に会え』
 校舎へ戻り、彼女を殺せ。ではなく、彼女に会え?
 この時、微かにだけど嫌な予感がした。
「……仰せのままに」
 私は返事をした後、もう一度ケルヴを探した。
 樹に寄り掛かり、狸寝入りを決め込んでいる彼女に、何故か私は後ろ髪を引かれる思いでその場を立ち去った。

***
 
 いくら紗華夢 夜虹であろうとも、暗闇は怖い。それも夜の学校だと尚更に。ひたひたと廊下を歩く自分の足音に、
「ひぇっ、ひゃああ。だ、だだだ誰っ!? って、私か」
 と逐一びくびくしてしまう自分が情けない。霊冥を抱きしめながら歩を進めて行く。いつもなら、暗闇なんて集束のおかげで全然気にしていなかったのに。
 先の戦闘で無駄に多用した為、それにD型の副作用からか一階職員室前辺りでそれは切れてしまっていた。やはり集束が無いと不便だ。はやく保健室に戻りたいところだけど。
「その前に侵入者を探さなきゃ、だよね」
 色んなところを見て回っても人っ子一人居ない。(いたらいたで怖い)
 ピースとはあれからまた、ぷっつりと連絡が取れなくなったし。
「あーあ。もう歩き疲れたよ。お腹だって空いちゃったし」
 ちょっとだけ休憩して宿直室からチキンラーメンでも調達してこようかな。
「……ひっくひっく」
「きゃっ!?」
 お、女の子のすすり泣く声が聞こえてきた。そっと聞き耳を立ててみる。その声は近くの女子トイレから聞こえてきた。それも闇にかき消されそうなか細い泣き声。
「そこに誰かいるの?」
 極力怖がらせないように尋ねると、奥から小さな声が返ってきた。
「ひっく。た、助けに来てくれたの?」
「うん。あー、う、うん。そうだよ、そんな感じ!」
 侵入者でも、ピースから殺せって命令ないし。会えってことは、一応、助けに行けってことなんだろう。お腹ペコペコだし、どうせなら殺しちゃいたいけど。
「うえーん、良かったよぅ! あたし、あたしっ」
 ぺたぺたと走ってくる音が聞こえる。おトイレで裸足なんて汚いなー。とか考えていると、ぽふっとその子に抱きつかれた。
「よ、よしよーし。もう大丈夫だからねー」
 柄にも無いことを言う自分に若干の鳥肌を立たせつつ、頭を撫でて……あれ、私と同じくらいの背?
 目を凝らしてみるけど、暗すぎて見えない。ダメ元で集束を試みるけど、オイルの切れたジッポよろしくまったくもって点灯する気配がない。
 うーん、会えって言われて会ったはいいけど姿が見えないとね。
 すると、
『姫様。何も辺りを照らすだけならば、集束より炎の方が燃費が宜しいかと』
 かーっと顔が瞬く間に熱くなっていく。集束がなければ炎を出せばいいのよ。そんなアントワネット的な発想があるなんて!
「だ、だったらもっと早く言ってよっ」
『申し訳ありません。暗闇をとても楽しんでいたご様子だったので』
 こ、この子ってば。焼却炉にくべてやろうかしら。
「ぐすっ。誰と喋ってるの……?」
「あはは、なんでもないの。えーっと、ちょっと待って。今、明かり点けるから。シロツキが魂。我に漠漠の焔を宿せ、っと」
 徐々に辺りが薄闇色に照らされていく。って、私の炎ってば黒いからあんまり意味ないんだ。最初はかっこいいかと思ったんだけど、ちょっと使い辛いんだよねコレ。だからと言ってケルヴのような翠色の炎も気味悪いし。なんだかんだで普通が一番かも。
 肩を落としていると、再び電光板が浮かび上がった。
『姫様。炎より羽の光の方が最適かと』
「あ、そう……」
 もう怒る気力も魔力もないよ。ため息を吐きつつ羽を生み出し、

 そして目の前の女の子を――

「も、もしかして……奏ちゃん? カナちゃんだよね? ううん、絶対にそうだよあの時から全然変わってないもん」

 嘘。どうして、どうして。どうしてあなたがこのゲームに。

「ほら、あたし。ずっと、ずーっと一緒に遊んでた、あたしだよ?」

 あなたなんて知らない。知らない、知らない。私はあなたを知ってちゃいけないの!

「急にいなくなっちゃって心配してたんだ。良かったぁ、奏ちゃんにもう二度と会えないのかと思ってた」

 やめて。お願いだから、その名前で呼ばないで。

「ねぇ、どしたの? もしかして本当に忘れちゃったのかな。あたしの名前はね――」
 
 やめて。お願いだから、それ以上は言わないで。

「サナ。相原サナだよっ!」

 やめて。お願いだから、もう思い出させないで。

「ほへ? カナちゃん?」

 泣いていた。彼女をあやす方だったのに私が泣いてしまっていた。
 集束の使えない今、奔流となって溢れ出していく記憶を止める術を私は知らなかった。
 嗚咽を上げて座り込む私に彼女は、優しく囁いた。
「……もしかして、まだ『あの事』気にしてるのかな。もう、いいんだよ。みんな、カナちゃんのこと赦してくれるよきっと。だから、一緒に帰ろーよ」
「赦される資格なんてない。私はここにいるの。ここだけが私の居場所なの! だから、だから私に優しくしないで!!」
「カ、カナちゃん……わわっ!」
 その時、鈍い音と共に学校の時計台――『刻刻』が産声をあげた。
 心地良い子守唄のような鐘の音が私を優しく包んでいく。
 鳴り響く刻刻の鐘に込み上げてくる笑い。唐突に目の前が赤く明滅し始める。
 ああ――楽しい楽しいヒサルキゲームが始まる。
 やっと啼いてくれた。これで私はこのおぞましい恐怖から救われる。
「な、なにその真っ赤な目。それに、さっきの変な音って……。ねぇ、ここって一体どこなの?」

「……ここはね、ぜーんぶ、ゲームなんですよ」

 そうここはゲームの世界。現世とはかけ離れた仮想世界。

 あちらには存在するはずもない『魔法』

 あちらには存在するはずもない『霊獣』

 そして――――。

 あちらには存在するはずもない『親友』

「あなた、だぁれ?」

 紅く染まる瞳の向こうには、見知らぬ彼女が立っていた。小うさぎのように震えながら、困惑の表情で私を見つめている。
 やだなぁ、そんな目で見ないで下さいよ。残念ですけど、奏なんて子はとっくの昔にこの私が殺しちゃったんです。
「嘘だっ、カナちゃんだよ! 一番の仲良しだったカナちゃんのことだもん。ゼッタイ忘れるはずないっ!」
 なら、この紅い瞳はどう説明するんですか。暗闇の炎だって、呻きの杖だって、煌く羽だって。あなたのお友達はこんなにも醜い化け物だったんですか?
「どうしたんだよぅカナちゃん……。こんなのおかしいよ、なんかの間違いだもん。ぐすっ……ひっぐ」
 あなたもすぐに気付きますよ。顔は似ていても別人。奏って子の皮をかぶっているだけ。そう、もう私は別人なんです。だって、
 
 私は、私の名前は――

 
 The hisaruki game

 特別サイドストーリー ―紗華夢 夜虹の場合― 完


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