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作品名:ヒサルキゲームの物語 作者:秋兎

第18回 6/3修正
 雪が降っていた。 

 ひらひらと舞い落ちる紅い粉雪。

 真っ赤に染まる空を、私はただ無表情に見上げていた。

 時折吹く風が、ベッタリと頬に張り付いた血を乾かしていく。

「どうしてだよ! どうして、お前が!」

 不意に聞こえてくる涙混じりの声。

 振り向くと何かを抱きしめながら泣いている男の子がいた。

 真っ赤な絵の具をぶちまけたかのような雪のシーツにたくさんの肉塊が散乱している。

「奏、なんでこんなことを……」

 かなで――?

 この人は誰のことを言ってるんだろう。
 
 だって私は、私の名前は――


 The hisaruki game

 特別サイドストーリー ―紗華夢 夜虹の場合―

***

「紗華夢 夜虹、そろそろゲームの時間だ。起きろ」
 耳をつんざくような巨大な声に驚いた私は、飛び起きると同時にベッドから転げ落ちてしまった。
「ふぇー。痛いよぅ……」
 頭をさすりながら痛みをこらえる私の耳元にまた変声機を通したような機械声が聞こえる。
「夜虹。聞こえていたら返事をしろ」
 うー。そんなにヤコウヤコウ言わなくても聞こえてるって。
 私は音量を調節するべく、右耳のイヤーカフを触った。ええっと、ここだっけ。
「はいはい、こちらシャゲム。すみませんピース。音羽の調子が悪くて通信に手間取ってしまいました。……はふぅ」
 なんてあくび混じりに適当なことを言ってると、
「まだ寝ぼけているようだな。また明日にでも連絡する。とりあえず顔でも洗って来い」
 ぶつっとそこで通信が切れてしまった。
「なんだよぅ」
 急な用じゃないんなら、あんな起こし方しなくてもいいのに。特に寝起きのピース声ほど心臓に悪いものはないよ。
 なんて、こんなことあの人の前じゃ絶対に言えないけどね。恐いし。
 とにかく、と。私は起き上がるとゆっくり深呼吸をした。
 保健室独特の包帯や消毒薬の匂い。お薬の香りってどうしてこんなに気持ちが安らかになるんだろう。こんなことを思うのって私だけなのかもしれない。
 とりあえず日付でも確認しようかな。壁に掛けられていたカレンダーを見てみる。
「さてさて。今日は何の日かな。えーと光文四十五年の……八月二十五日?」
 あれ、なんでこんな早くに起こされたんだろう。いつものゲームならあと二、三日は遅いのに。ピースに何か考えでもあるのかな。
 ま、どうせ毎回ゲーム内容変わるし。そのせいだろう。
 コキコキと首を鳴らして洗面台に向かった後、私は自分の身なりにため息をついてしまった。
「服がしわしわだ……。前回の後このまま寝ちゃったんだ私」
 黒いセーラー服に白いリボン。まんま中学生の時の制服だった。今となっては学校に通っていた日々が懐かしいけど、ゲーム内じゃずっとこの服装だもんね。それに、今更着替えたくても代わりの服もないし。
 そういえば、私ったらいつからこのゲームをやってたんだっけ。計算してみようかな……と思ったけど途方もなさそうだから結局やめてしまった。
 考えるだけで老けてしまいそう。
「ふーさっぱりさっぱり」
 顔を洗った後、私は保健室の窓を開けた。見渡す限り、山だらけ。強いて言えば、山並みの間からちらっとだけのぞく海くらい。
 しばらく涼しい夜風を浴びた後、真下を覗いてみた。小さめのグラウンドにさまざまな遊具。それに赤く錆び剥げてしまった朝礼台。向こうには背の順に並ぶ鉄棒が見える。結局、いつまでたっても逆上がり出来なかったなぁと思いつつ、私は顔を上げた。 
「つい最近のハズだったのに、なんだかすっごく懐かしい。あはは。ゲームのやりすぎだよね」
 ふと、感傷に浸ってしまいそうになり私はぶんぶんと首を振った。
「ダメダメ、忘れなきゃ」
 忘れていたハズの記憶の断片が私の頭を苛ませる。このままじゃ押しつぶされてしまいそう。そう思った私は、
「空のお散歩でもしよっと!」
 再び窓枠から顔を出した。
「うっひょー。け、結構高いかも。こりゃ落ちたらさすがに痛いかな」 
 これは呪文を間違えられない。もし万が一間違えてしまったら、と思うとぞっとしてしまった。
 あまりに久しいため自信が無い私はとりあえず保険がてら杖を呼ぶことにした。
「紗華夢 夜虹が命ずる。我の元に飛来せよ、霊冥」
 言って数秒後、山の向こう側から飛んできた黒い杖を掴むと、私は窓から身を乗り出し、
「多分、平気だよね」
 少しだけ躊躇ったあと、意を決して飛び降りた。
 目を瞑ると霊冥を通して頭の中に呪文が浮かぶ。ああそうだった、これこれ。
「クインシィが魂よ。我に飛翔の羽を宿せ!」
 途端に私の背中からバイオレット色に光り輝く巨大な蝶の羽が生まれる……っとと、上手くバランスが保てないや。
 どうやら早く目覚めたのは正解だったのかもしれない。ちょっと練習しないと、これじゃあゲームにならなそう。
 しばらく、ふらふらと右往左往した後、私は学校の屋上へ舞い降りた。
「ふえ、ふぇ……えっくしゅ!」
 ずるずると鼻水をすすると羽の呪文を解く。
 羽は相変わらず使い勝手いいけど、この鱗粉だけはどうにかならないかな。鼻がむずむずしてしょうがないよ。
「それにしてもなー、こんな早くに起こされてもやることないや。開始までどうしよう」
 呪文もうろ覚えだし、魔法の練習でもしようかな。このままじゃ、万が一にでも私が負けるというのもありえる。私は改めて握り締めている杖を見た。
 私の身の丈よりちょっと小さいか程度の黒杖、先端には翠色の宝石が嵌め込まれている。
「集中して、と。我は命ずる――」
 フッと瞑目した時、
「貴様から練習とは殊勝だな夜虹」
 イヤーカフを通してピースの声が聞こえる。いいところだったのに、何だろう。私は制服のリボンをいじりながら、適当に答えることにした。
「はい。この紗華夢。いかなるゲームにおいても負けるわけにはいきません。全てはピース様の為に」
「心にも無い事を。まぁいい……そこでだ。ゲーム開始において、少々困ったことが起きた。何故かは知らんが、この島に辿りついた部外者どもが若干名現れたようだ。多少、自らの能力に気づいている奴らもいるが、貴様ほどの魔女ならば容易いだろう。霊冥の餌代わりだ。好きに喰え」
 ふぅん。餌、ねぇ。
「ありがとうございます。若干名とは、おおよそ何人くらいでしょうか」
「おそらく十人程だ。それでは、デバックは頼んだぞ、私の可愛い夜虹」
 私は薄く笑った。ピース様ともあろうお方が、そんなにこの島に侵入を許すって?
 よく言うよ、ワザと連れて来たくせに。だけど、練習台が欲しかったのも事実。ここは素直にそいつらを駆逐しよう。
「クインシィが魂よ――」
 再び私の背中から羽根が生まれる。
「さぁて、どこにいるのかな」
 もしかしたら、既に学校に侵入しているのかもしれない。屋上から見下ろしてみる。
 うーん、暗くてよく見えないなぁ。月も翳ってるし。しょうがないなとばかりに私は再び瞑目を試みる。
 火打石と火打金を打ち付けるように、目の奥でイメージをする。バチッと音がした瞬間、私は目を開けた。
 まるで暗視鏡を覗いたかのように、辺りが薄緑色に照らし出される。
「……集束しても、あんまし見えないや。便利なんだか、不便なんだか」
 校舎から飛び降りると、私は羽根をたたんで校庭を散策することにした。
 がらんとした、お世辞にも広いとは言えない運動場に、おまけ程度に設置されている屋外プール。そして、すっかり老朽化してしまった校舎。
 その寂れた姿に少しだけくすぐったくなって笑みを浮かべてしまった。
 この世界は元居た世界にとてもよく似ていた。そんなはずはありえないことは誰よりも私が知っている。
「でも、ホントに私の学校そっくり」
 それでも私の心を満たすほどの懐かしさがそこにあった。
 もう慣れたはずなのに。ノスタルジーってこういうこと言うのかな。
「土管の中、はさすがに居ないよね」
 どのくらい見て回ったのだろう、ちょっと休憩するかなと埋められたタイヤに腰掛けたその時、
「おちびちゃん、こんなところで何してるのかなー?」
 背後からとても下卑た声が聞こえた。こりゃまたピースも変なの招き入れたもんだね。
 振り向くまでもない。私は肩をすくめ、
「貴方たちこそ、ここがどこだか解っているんですか。ここは呼ばれた人間しか踏み入ることの許されない島ですよ」
 私は私らしく冷ややかに述べた。
「あん? 俺らは、ちゃーんとご招待されてきたんだぜ。超おもしれぇゲームがあるからってよ。なぁ、おめぇら!」
「ああ、ゲーセンで遊んでたら変な女に誘われたんだよ。つーかさ、もう入っちまったもんはしょーがねぇじゃん。楽しくやろうぜ」
 一人じゃなさそう。三人くらいいるのかな。
「そうそう。まぁ固いこと言ってないで、おちびちゃんも俺らと一緒に遊ぼうよ」
 ――イライラするなぁ。集束が私を苛立たせる。これじゃ紗華夢らしく出来ないよ。
 私は立ち上がると、スカートに付着した砂を払いながら、
「ええいいですよ。でも、このゲームの遊び方、貴方達は知っていますか?」
 振り向いた。六人。予想以上に多かった。それにしても、どこからこんなに沸いて来たのかな。この数に気づかないなんて、紗華夢 夜虹失格だ。
「なんだこいつ。目ん玉、光ってねぇか?」
「お、おい。んなことよりよ、すげー上玉じゃねぇか、このガキ」
「でもよ、どうみたって中学生くらいだろ……さすがにヤバくね」
「いいじゃねぇかよ。どうせゲームなんだし。なにしても問題ねーよ」
「だ、だよな!」
 ゲラゲラと笑う。まったく、男の人ってどうしてこう。
「――で、そろそろゲームを始めたいんですけど」
 言うと同時に、一人の男の手が私の腰に回された。
「ゲームとかいいじゃん。もっと楽しいことしようぜ」
 ああもう、色々端折ろっと。餌相手に一々説明するのもバカらしい。
「うふっ、そうですね。それじゃあ、ご要望どおり楽しいことしましょうか。さぁ霊冥、ご飯の時間です!」
 私は一つ笑うと、杖に魔力と呼ばれるものを注いだ。
「シロツキが魂よ。我に漠漠の焔を宿せ――」
 杖から巻き起こる業火。それは瞬く間に私に触れるソレを焼き払う。
「ぐああああ! お、俺の、俺の手が!」
 目の前の男が、下品な顔をさらに下品に歪める。手がもげたくらいで大の大人がみっともないよ。
「あらら、貴方の言うお手々って、もしかしてこれのことですか?」
 私の腰にそのままの形となって未だにこびり付いている炭を持ち上げ、
「うわ、くっさーい」
 私は口の端を持ち上げた。
「ひ、ひいっ……」
 あれれ。さっきまでの威勢はどうしたのかな。
 そんな怯えた犬みたいな目でみないでよ、興奮しちゃうじゃん――
 集束がさらにギリギリと私の頭を締め付ける。
「さあ、このいかんともし難い魔力の差にひれ伏しなさい」
 言うが早いか、途端に散り散りに逃げようとするそいつらに、
「あは。クロエが魂よ、我に疾風の刃を宿せっ!」
 杖を一振りすると同時に巻き起こったカマイタチが次々と男達の首を飛ばす。っと、いけないいけない。一人だけ外しちゃった。
「あ、頭が……あああ」
 仲間達の首なし死体に呆けてしまったのか、生き残った男の人は腰砕けになってしまった。
 私は羽を再び広げて、へたり込んでるそいつの前に跳躍した。
「なにか、言い残したことはありますかぁ?」
 私のカマイタチを避けるなんて、余程あなたってば幸運。その幸運に免じて少しだけお話を聞いてあげるよ。
「た、助けてください! 俺達、な、なにも知らなかったんです……」
 涙でくしゃくしゃに命乞い、ね。本当、ゲームによくいるような人たちだね。でもさぁ、悪いけど私もゲームによくいるような悪者なんだよね。
「あー、もういいや。それじゃあ、バイバイ」
 霊冥の先端で男の目を抉る。ぐちゃりと小気味悪い音と感触に私は快感を覚えた。ぞくっと頭に電流が走る。これってクセになっちゃうんだよなぁ。ちょっとだけ杖が汚れてしまうのが残念だけど――
 何が起こったのか、分からずにいた男は二、三秒パクパクと口を開閉させた後、黄色い泡を吐いてくずおれた。
 吐瀉物にまみれた男が死んだことを確認して、私はやれやれとばかりに集束を解いた。
「やっぱり、ちゃんとした被験者じゃないと脆いなぁ……。こんなんじゃ餌にもならないよね、ねぇ霊冥ちゃん」
 呼応するかのように光る杖。そうでもないって? あはは。それじゃ、もうみんな死んじゃったし、ご飯の時間にしようね。
「紗華夢 夜虹が命ずる。真の姿を解き放て、霊冥」
 辺りに黒い霧が噴出し、瞬時に杖が造形を変える。やがて、巨大な蜘蛛となったその子の頭を撫でながらタイヤに腰掛ける。
「いい子いい子。六匹しかないけど、ちゃんと残さず食べるんだよ?」
 って、言ってももう食べ始めちゃってるし。
「霊冥ってばいつになったらお行儀良くなるんだろ」
 忙しそうに食べるその子に私はクスクスと笑った。
 すると私の前に、いそいそと霊冥が寄ってきた。
「あれ、ご飯もういいの?」
 頭をくいっと傾げた霊冥の口から目玉が転がる。さっきの男のだろう、まるまるとしたそれを拾うと私は霊冥の頭をもう一度撫でた。
「私にくれるんだ。全部食べてもいいのに。あはは、ありがと」
 「キュー」と鳴いた後、再び食事に勤しむその子を見ながら、私は目玉を口の中へ放り込んだ。
 ころころと転がすと甘酸っぱい味が口いっぱいに広がった。
 さて、と満天の星空を見上げる。
「あと四人かぁ。つまんなそーだけど、ピースの命令だもんね。夜明けまでに潰しとかないと怒られるや」
 そうぼやいた後、私はぐいーっと伸びをした。


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