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作品名:ヒサルキゲームの物語 作者:秋兎

第17回 17
 目の前で幾度となく交差する触手とナイフ。まるで映画のスクリーンに映し出されているのではないのかと疑いたくなるような激闘だ。
 状況は……。耐えてはいるが、劣勢はやはり深柳だ。
 あいつの辛そうな顔を見ていると手を貸してやりたくなるが(俺が行ってどうなるってワケでもないが)、ラティアのあの眼を見ただけですくみ上がった俺たちはただの観客に徹するしかなかった。
 にしても、こんなド迫力な戦いが見られるなんざSチケットクラスだよな。その手のマニアにとっちゃこの試合は垂涎物に間違いない。売ったらいくらくらいするんだろうね。
 などと諦観の域に達した俺に、
「なーにノンキなこと言ってんのよ。リンがやられたら、次あんたがアレを食い止めなきゃいけないのよ」
 まさか。深柳が負けるって?
 隣で腕を組んでいたヒサキが口をへの字にひん曲げて俺を睨んだ。
「そんなの見りゃ一目瞭然じゃない。あんな調子で勝てたら奇跡だわ」
 もしかしたら、起こるかもしれないだろ。その奇跡ってやつが。
「……なんかさー。あんた見てると自分には関係ないって顔してるのよね」
「そんな顔、してるか?」
 俺の曖昧な返答に、ヒサキが苛立ちを露にした。
「してるわよ。もし、私とリンが斃れたらあんたどうすんの? おとなしく殺されるわけ?」
 仮にそうだとしても、ゲームなんだから蘇生術とかあるんじゃないのか。もしくは三人死んだらアジトから復活とかさ。
「あんた――本当にバカね。そんなのあるわけないじゃん。死んだらハイそこでお終い。ゲームオーバー、さよならバイバイってね」
 ややオーバーアクション気味に言い捨てる。だが、んなこと言われても俺はお前たちみたいな怪奇能力を持ち合わせていないんだよ。そうさ、運動神経もなけりゃ、戦闘センスだってない。ないない尽くしだ。だから、
「だから?」
 ヒサキの突き刺さるような言葉に、俺はつい顔を伏せてしまった。
「どうしようもないだろ……」
 そいつの責めるような眼を直視できなかった。
「そんなんで、どうするのよ! あんたのそのバカでっかい剣はお飾りなワケ!?」
 突然ヒサキの語気が強まった。
「……」
 返す言葉が見つからない。
「足、震えてるわよ」 
 言われてから気づく。
 ガクガクと震える足を抑えるが、一向に止む気配がない。むしろ激しくなっていく一方だ。
「――ちくしょう」
 正直なところ傷つくのが恐ろしかった。現実にとても良く似たこの世界。頭ではゲームだと理解していても体は割り切ることが出来ないらしい。
 ……斬られれば当然痛覚はあるのだろうし、相手を傷つける感触も生々しいのだろう。テレビの前でコントローラーのボタンを押すのとは訳が違う。
 よく覚えてはいないが、初めのヒサキとシロの戦いで俺は完全に腰砕けになっていたのかもしれない。
 今、行われてる戦いだって冗談でも交えなきゃまともに見てられない。
 そう、実際に繰り広げられてきた戦闘シーンはあまりに俺の稚拙な想像を越えていた。
 ゲームの世界でただ暴れられる。あの剣や魔法を体験できる!
 ゲーマーにとってそれは甘美を過ぎる程の素晴らしい響きだったが、いざ実際にやってみるとなるとこのザマだ。
 浮かれていた自分の単純な頭の構造には呆れかえるしかない。 
「ごめん。ちょっと言い過ぎたかも。慣れてないもんね、アキラはこういうの」
 ヒサキはバツの悪そうな顔をして俺を見上げていた。
「謝ってくれるなって。お前の言うとおりさ。ビビってたんだと思う。このままお前達にすがって逃げてもなんとかなるのかもしれないって心のどこかで思っていた。情けない話だよな」
「別にいいわよ。あんた、能力使えないんだしさ……」
「ごめんな、ヒサキ」
 目が合うと、そいつは拗ねた子供のように視線を逸らした。
「仲間、俺じゃなきゃよかったよな。こんな役立たずが来たんだ、そりゃヒサキだって怒――」
「だから、別にいいって言ってるじゃないっ!」
「……すまん」
 それだけ言い、黙する俺にそっぽを向くヒサキ。
 俺達の気詰まりな沈黙に木々のざわめきが重なる。
「もうやめよ。こういう話、なんか好きじゃない」
「そう、だな」
「ねぇ、さっきから気になってたんだけど、あれって何?」
 一つ鼻をすすり、ついっと視線を動かしたヒサキは何かを発見したらしい。
「ああ、あいつはクロエって言ってな。って、やべぇ!」
 あの虎ムスメのことすっかり忘れていた。
「ちょ、ちょっと! もしかして、そいつってば、あのでっかい化け物だったヤツ?」
「そうだ、さっきラティアにやられた。俺の目の前で首をグサっとな」
 俺たちはぶっ倒れているクロエの元に駆け寄った。首元からは、未だにドクドクと血が流れている。
「うげぇ。それ、もう死んでんじゃないの」
「なにもここまでしなくてもいいのにな……」
 そんな顔面蒼白な俺たちに、
「いえ、私達使い魔はこの程度では死にません。案外丈夫に造られているんですよ」
 涼しげに呟いたのはシロだった。寝ているクロエの周りをふわふわと浮遊したあげく、すとんと胸に着地する。
「まったく。あなたほどの戦闘狂がその程度で気絶するはずないでしょう? 寝ているフリをしても眼球の動きでバレバレです」
 言った直後、だ。突然、クロエはぱちっと目を覚まし、起き上がったかと思うとむんずとシロを掴む。
「うっせー。シロ助。てめぇのその嫌味ったらしい性格、クソ懐かしいぜ。ったく、ずけずけと人の胸に乗ってんじゃねーよ変態が」
「おやおや。これは驚きました。あなたに恥じらい、ですか。フッ、冗談も甚だしいですねぇ」
 気のせいか、シロツキの表情がとても活き活きしているように見えるぞ。
「あ、あんだとーっ!?」
「栄養をそのバカデカい胸ばかりではなく少しは頭の方に回したらどうです? あなたは虎でしょうに。牛じゃあないんですから」
 一瞬、胸を抱くポーズを取り羞恥の色を頬に宿したクロエは、
「む、胸のことは言うな! コノヤロー、今度こそ決着つけてやる!!」
 シロを放り投げると、腕を眼前にもっていく。それはかまいたちを飛ばす構えだった。
 対して、着地と同時に人間の姿に化けたシロは嘆息気味に、
「相も変わらず短気ですねぇ。……いつでも受けてたちますが、少しは状況というものを考えなさい」
 くいっと深柳たちを指差す。
 ここでやっとクロエが冷静さを取り戻したらしい。
「いっててて。そーだ、ラテ子のやろう」
 首を抑え、呻き声を上げるクロエに、
「あんた、これは一体どうなってんの。なんであの子が集束してんのよ! 状況を教えなさい、今すぐ、簡潔に、いち早く!」
 怒涛の勢いでヒサキが掴み掛かった、その時だった。
 矢庭に鐘の音が森全体に鳴り響く。それもただの鐘の音ではない、頭が割れてしまうんじゃないかと思うほどの轟音だ。ぐおんぐおんと頭が揺さぶられる。
 うお。シャレにならん、耳がどうにかなってしまう。
 ふと、ヒサキに目をやると何やら呆然といった様子で立ち尽くしていた。
「おい、ヒサキ。耳を塞げって! 鼓膜がイカれるぞ!」
 そいつは俺の声が聞こえていないのか、
「嘘、でしょ。どうして刻刻が――ありえない、さっきからどうなってんのよ」
 コッコク? また新しい単語が出てきやがったな。
 こいつは何故、集束やら刻刻といった妙な造語をまるで当たり前かのように既知しているんだ。取扱説明書にでも載ってんのか。
 だとしたら、なんだか置き去りにされている気分だぜ。俺のゲームに取説がついてなかったのは、まさか中古でしたってオチじゃないだろうな。
 ますます警鐘音が激しくなる。この鐘、どこで鳴ってやがるんだ。
「――ちくしょう、あいつ。これは何の真似よ」
 不意にヒサキの押しつぶすような恨み言が聞こえた。顔を向けると、そいつは月を睨め付けていた。
「おい、シロ助。こりゃあマズいぜ。ちんたら契約ごっこをしている場合じゃなさそうだ」
「ええ。おそらく原因はラティアの集束だと思われますが……」
「要因はなんにしろ、だ。どう考えても刻刻のタイミングが早すぎる。あの野郎、予定を繰り上げるつもりだ」
 こいつらはこいつらで勝手に進めてやがるし。やっと鳴り終わりやがったが、刻刻と言ったか、このバカデカい鐘の音の正体もわからん。一体俺の知らないところで何が起きてるっていうのだ。
「お嬢、ラティア達を止めるのです。今、まともに戦えるのは――」
 言いかけて、空気が止まった。どうした。
 俺はシロツキとクロエがぽかんとしているのを見て、ヒサキの動揺面を見た。三人の視線の先にはラティアと深柳が戦っている、ハズだった。
「み、深柳……?」
 人は驚くと、誰しも似たようなリアクションを取るもんなんだな。
「アキラ、ヒサキ。契約は完了したよ」
 そう言いながら、こちらに近づいて来る深柳の手の中には、気絶したラティアが抱かれていた。お姫様抱っこって奴だ。
 俺はどう切り出していいものか迷った挙句、ヒサキに目配せを試みた。
 俺の視線に気づいたヒサキはごくりと唾を飲み込んだ後に、
「あんた、それどうしたのよ……」
 そう問うヒサキの手には俺の制服の袖が握られている。
「さっきの鐘の音を聞いていきなり苦しみだしたんだ。だから、なんとか倒すことが出来た。幸運だったよ。もしかしたらカミサマが見ているのかもしれないな」
 淡々と言うが、問題はそこじゃない。集束状態のラティアを何故倒せたか、ではなく。
「アキラもその猫と契約を済ませたはずだ。さあ、みんな。先生のところへ帰ろう」
 俺達の横を緩慢とした動きで深柳が通り過ぎる。そして、そいつは背を向けたまま、
「刻刻が鳴り響いた……。この意味が解るよな、神塚ヒサキ」
 神塚――ヒサキの苗字か。いや、それよりも。
「……うん」
 それだけ返事すると、口を閉ざす。ぐいっと袖を引っ張られる。
 ああ、わかっている。
「深柳、一つだけ訊いていいか」
 さすがに俺だって、こんなあからさまな異常には気づくさ。そして、誰もそれをそれと言わない。なんとなくヤバそうだってのは解っている。
「……なに?」
 未だ、こちらに背を向けた状態のそいつに、
「どうしたんだよ、その紅い眼は。それ、『集束』ってヤツだろ? どうして、お前が!?」
 ぐるりと首だけを回転させる。見開かれ、焦点の定まらない紅眼。それはラティアのそれよりも不気味だった。
 以前の黒檀のような瞳からは想像も出来ない。
「刻刻が啼いた日、その夜明けと共に『本当のゲーム』が始まる。――何も心配はいらない。センセイが全て語ってくれるさ」
「ほ、本当のゲームってなんのことだよ!」
 最後に深柳はこう告げて、歩を進めた。
「ヒサルキゲーム。それがあるゲームの物語の正体だ……」


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