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作品名:ヒサルキゲームの物語 作者:秋兎

第15回 case.1 相原アキラの場合13
 容赦ないカマイタチに耐えていたハンドボウもついに粉砕したその瞬間、深柳の前に黄金の翼をはためかせ、ラティアが舞い降りた。
「もう、やらせない――っ」
 呟く声に、確かな怒りの色が見える。尚もカマイタチは繰り出されるが、彼女に当たる寸前、金色の波紋と共にかき消されて行く。もしかして、あの子には特別な防御壁でも備わっているのだろうか。いくら放っても波紋に吸い込まれていく様を見た虎はどうやら諦めた様子で低く唸った。
「ラティ、なのか?」
 手探りのように手を彷徨わせる深柳を抱きしめるとラティアは無言で首肯した。
「君がどうして……」
 答えない彼女に、自嘲を含めた笑いで、
「そうだよな、僕の能力程度で君を拘束するなんてとても出来ない。バカだったな僕は……。血の力とやらも使えずに、こんな無様な――」
「ううん。違う、リンは、強い。でも、まだ力の使い方がよく解っていないだけ……」
 俯き黙する深柳に、
「お願い、私と契約して。私を忘れててもいいの。思い出さなくてもいいの。ただ、貴方の力になりたいだけ」
「でも僕は……」
「けっ、そうはいかねぇぞ。ラテ子てめぇ、それはルール違反だろ。そいつは今、このオレに試されているんだぜぇ?」
 背後に覆いかぶさる黒い影に振り向くラティア。
「クーちゃん、どうしてこんなことを!」
 金髪が夜風になびき、今にもケンカを売りそうな強い眼差しを巨大な獣に向ける。その話しぶりから察するに、この二人(いや、二匹と言うべきか?)は知り合いらしい。そりゃ二人ともこの森に住んでいるわけだからして、なにも驚くべきことではないとは思うが、いやはやどうして。なんとも違和感が拭えないのは俺だけなのかね。
 そのクーと体躯に似合わない名で呼ばれた虎は、まるで近所の悪ガキのような悪態で、
「どうしてって、んなこと決まってんじゃねぇか。この森に来た奴らを試す、んでこいつになら仕えてやってもいいって納得すりゃあ契約。ま、そんな面されても規則じゃ使い魔同士は戦っちゃヤバイらしいから、ここは素直に順番ってものを守っといたほうが懸命だと思うぜ」
 どうやら、こいつらの総称は『使い魔』らしい。ということは、ラティアは当然のこととしてやはりこの巨大な化け物もシロと同様、捕獲すべきものに間違いないのだろう。
 だとしたら、シロやラティアには悪いがまるで格が違うと言わざるを得ない。言うなれば、仲間にしなくてはいけない奴がラスボス並の強さでしたみたいなもんだ。理不尽も甚だしい。
 探してもすぐさま逃げるように町を移動していく仲間に匹敵するほどの厄介さだね。
「そんなの関係ない!」
 叫ぶと、彼女の爪先に金色の光が纏われていく。そして長く伸びた光の爪を振り上げると、凄まじい跳躍で虎の喉元を切り裂く。だが――
「お前、何ムキになってんだよ。そんなにそいつがお気に入りなのか?」
 少しも効いていない様子でカラカラと少女を揶揄する。しかし、頭に血が昇ってしまっているのだろうか。ラティアは耳を貸すことなく、ただただ跳躍しては一閃を繰り返す。
 しばらく首を鳴らしながらその様子を可笑しそうに見ていた黒虎だったが、突如として巨大な足を振り上げた。そして、再度首を狙おうとした彼女を地面へ叩きつけると、呆れたようにため息をついた。
「わーったよ。この姿じゃ不公平だ。勝負してやるからちょっと寝てろ」
 使い魔同士で戦うなんてどうかしてる。そう言いたいところだが、深柳は重傷、ヒサキは熟睡なんて割と絶望的なこの状況では、どうにかラティアに時間を稼いでもらうしか術はない。もちろん俺のことは戦闘員の数に含まれていないぞ。
 虎の興味も削がれたこの隙にと深柳の元へ向かい、肩を貸す。出血のせいか、やけに軽いな。
「深柳、大丈夫か?」
 金髪は俯いたまま「すまない」と言い、更にポツリと漏らすように続けた。
「ラティと契約するのが怖かった。だからあいつと契約を結ぼうとしたのに。でも、勝てなかった。やっぱり僕は、無力だ」
 初めて耳にする深柳の弱音だ。こんな時、なんて返せばいいのだろう。俺は迷った挙句、
「そうか」
 としか答えられなかった。傷ついた仲間に気の利いた台詞の一つも言えないなんて、俺は自分が恨めしくなる。そんな自己嫌悪に陥っていると、生ぬるい風が草木を揺らした。
 ふと、使い魔たちの方へ目を向けると、虎の巨体が黒い光に包まれていく最中だった。
 やがて黒い光が霧散していくと、その中央に一人の女性が立っていた。
 黒髪のショートに凛とした眼。それはやはりというべきか、獣の姿のときのような鈍い血の色をしていた。
 そして、やや乱雑に着こなされてはいるが、シロツキと同じ黒のスーツを身に纏っている。彼女もそれを着ているということは、つまり、それは使い魔特有の制服みたいなものなのだろう。そもそもラティアのセーラー服もどきの方が異端なのかもしれない。もし次のゲームがあるのならば、是非ともそちらで統一してもらいたいものだが。
「んじゃあ、やろうぜラテ子。言っとくが、オレはシロ助のように甘くないぜ。馴染みだからって手加減するほど器用に創られてねーからな」
 倒れ伏しているラティアにそう言い捨てると、彼女は不敵な笑みを浮かべながら髪を掻き上げた。


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