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作品名:ヒサルキゲームの物語 作者:秋兎

第14回 case.1 相原アキラの場合12
「――きて下さい。起きて下さい!」
 何やら、ふわふわと暖かい物が鼻をくすぐる。
「ふ、ふえっくしょい!」
 不精不精、俺は起き上がると目の前に浮かんでいた毛の塊をひったくるように掴んだ。こいつか。俺の眠りを妨げた毛玉野郎は。引っこ抜いてやる。ぐいぐい引っ張ったところで、その毛だまりが声を張り上げた。
「ま、待ってください。私ですってば、シロツキです」
 うお、なんだこいつ。可愛いぬいぐるみだな……ってシロか。ああそうだった、ゲームの世界だったよな。俺は目をこすりながら漫然と暗闇を見回した。
「……俺はなんでこんなところで寝ていたんだ?」
 チクチクと背中に雑草が突き刺さる。こんな状況で寝ていられるなんざ、俺も鍛えられたもんだね。困ったことに。そういや、あの子供はどこいった。
「子供? ラティのことですか?」 
 違う、彼女じゃなく、もっとちびっこい……。
「名前聞いた気がするんだが、たしか」
 言いかけて、言葉に詰まる。……えーと、なんだ? 俺は一体何を言いたいのだ。瞬間、頭がキンと痛む。その痛みは俺になにやら警告しているかのように加速していく。
「――ッ痛!」
「大丈夫ですか、アキラ様」
 ああ、すまん。ちょっと寝ぼけてしまったのかもしれない。悪夢でも見ていたのかな。こりゃまいったねといったポーズで取り繕いを兼ねて笑うと、突然シロツキが俺の制服の襟を咥えた。
「笑ってる場合じゃないんです! ボケっとしていると巻き添えを喰らいますよ」
 ちょっと待て。巻き添えってなんのことだ。というか、染みになるから離してくれ。
 だが、シロツキは問答無用とばかりにぐいぐいと俺を引っ張る。頭を整理する暇もないじゃないか。ついでにまだズキズキ痛むぞ。
「あれを見てください、見たらそんなノンキなこと言ってられないと思いますよ」
 何を見ろってんだ。やれやれと俺はシロツキの見据える方向に面を向け、
「……はは。まったくだ」
 即座に右向け右。むんずとシロの尻尾を掴むと、一目散に近場の木の下へと避難した。そりゃ慌てもするって。あんな巨大なバケモンのダンスを目の当たりにしたらな。
 息を整えていると、俺は重大なことに気づいた。そうだ、ヒサキはどこだ? あいつも確か俺と同じくして、ぶっ倒れていた気がするんだが。まさか、さっきの場所に置いてきちまったのか。これはチャーンス、ではなくてすぐさま回収に向かわなくては。「なんであんただけ逃げてんのよ、燃やすわよ」なんて殴られるのは勘弁だからな。
「いえ、まことに言いにくいのですが、そこで熟睡しておられるのがお嬢様です」
 シロの尻尾から赤い炎が灯されると、俺の足元辺りが照らされた。
「くかー」
 そこには樹に寄っ掛り、なんとも気持ちよさそうな寝息を立てているヒサキの姿があった。ついでにヨダレまで垂らしていやがる。
「おい! ヒサキ、何ノンキに寝てるんだ! バケモンがこっちに来たらペッタンコパスタにされちまうぞ」
 わりと例えがマンガチックだが、今は緊急事態だ。語彙など選んでられん。そいつの肩をガシガシ揺さぶるが、「あたしはナポリタンがいいー」などという寝言が返ってくるだけで、起きる気配など微塵も感じられない。つーか、ナポリタンて。お子様ランチかお前は。
 そういえば、なんでこいつだけ少し離れたここに居るんだろう。まさかあれから起きて、また寝なおしましたなんて夢遊病的な動きはしていないだろうしな。
「お嬢様なら、私が姿を変えて運びましたよ」
 軽やかに飛びながらさらっと言ってくれたが、待ってくれと言いたい。それなら俺もついでに運んでくれても良かったんじゃないか。もし俺がヒサキのように熟睡を決め込んでいたら、万が一だが虎に踏み潰される可能性もあったかもしれんぞ。位置的にな。そんな俺の不満に対して、
「男を抱きかかえる趣味なんてありませんから」
 またしてもサラリと言いのける。なるほどそう来たか。先ほどまで生殺与奪の権をこの狐に託していたかと思うと、胃がキリキリ痛み出してきたわけだが。ん? 待てよ。
「そういや、深柳は?」
 不意にあることに気づいた。あの虎は俺たちに目もくれず、さっきから何を遊んでやがる。そのとき、俺は気絶する瞬前のことを思い出した。金髪の後ろに迫る、あの黒虎――
「ああ! そうでした、こんなことをしている場合じゃないんです。アキラ様、深柳様が――!」
 シロが言いかけた頃には既に走り出していた。クソ。なに悠長なことをしていたんだ。虎が踊っているだと? そんなわけあるハズもない。深柳だ。あいつが食い止めていたんだ。もしかしたらあいつ、今頃……。
 焦る気持ちを抑え、月明かりに照らされた巨大な虎の体躯を目印に進むと、ようやく開けた場所に出た。そして、そこには睨み合うような形で、深柳と虎が立っていた。

***

 ぽっかり存在しているこの空間には木々が少ないため、月の光が遮断されることなく大地を幻想的にライトアップしている。だが、それと同時に虎の全貌も不気味に演出していた。
 ゴクッ。
 あまりに驚いて唾を飲み込むなんてこと本当にあるんだな。
 巨体も過ぎる。優に深柳の三倍もありそうな身の丈に、長く艶やかな黒い体毛を生やしている。ギョロリとした目は赤く、呼吸をするかのように明滅を繰り返していた。
 序盤に出てくるような敵じゃないのは確かだ。バランスもなにもあったもんじゃないな、このゲームは。
 虎は俺に気づいたように一瞥を送るとすぐさま深柳に視線を戻し、長い牙を見せて笑った。そして、やおら片足を上げると、地響きを鳴らしながら深柳の周りをぐるぐる回りはじめる。
 その動きは、まるで深柳を値踏みしているかのように見えなくもない。
 相手の様子を伺いながらボウを構えていた深柳はしびれを切らした様子で激昂した。
「さっきから逃げ回るばかりじゃないか。一体何のつもりだ! 何故、戦わない!」
 その言葉に舌なめずりをして、
「活きがいいヤツは好きだぜ。このオレの姿を見てビビらない奴なんざ珍しくてな。つい、遊んじまったぜ」
 低く、さも嬉しそうに言葉をはく。
「何を!」
「んじゃあ望みどおりに――」
 言うと同時に前足が振り下ろされる。
 予想だにしなかった攻撃に深柳は避ける暇もなく直撃を受けてしまう。
「ぐはっ……!」
 倒れこむ深柳を見下ろし、赤い目を細めると、
「やあってやるぜぇ!」
「くっ!」
 再び振り下ろされた爪をすんでで避けると、相手の足をめがけボウを撃つ。
 しかし、虎はその巨体のどこにそんな俊敏さが備わっているんだ? と問いたくなるような素早さでそれをかわすと、両前足を高く掲げ、そして凄まじい勢いで振り下ろした。
 地響きと共に見えない衝撃が走る。
「何!?」
 一瞬、間を置いた後、勢いよく深柳の肩から鮮血が噴出す。それはまるでマンガに出てくるカマイタチみたいだった。あまりのひどい墳血に目を覆いたくなる。
「割れてんだぜ、てめぇの能力は。さあ、血の力ってヤツをオレに見せてみろ!」
「血の……?」
 膝をつき、虚ろな目つきの深柳へ更にカマイタチのようなものを飛ばす。や、やめてくれ。さすがにそれ以上は、
「やめろぉぉぉおお!!」
 待ってくれと叫ぼうとしたその時、後ろから絶叫のような声が聞こえた。驚き、振り返ると、そこには黄金に光輝くオーラを纏ったラティアの姿があった。
「おまえぇ、よくも、よくもリンを!!」
 凄まじい形相で再び咆哮をあげる。彼女をつないでいたツタが無数に飛び回る金色の羽のようなもので引き裂かれていく。
 そして即座に解かれ、自由の身となるとバク宙をして姿を変えた。
 その正体はと言うとやはり鳥類で、金色の鷲がこの子の本来の姿だったようだ。いやはや、ちょっと可愛いなって思った子が鳥になったりすると、ささやかながらヘコむのは何故だろうね?
 なんて考えている状況じゃないよな。
 耳にはっきりと聞こえるような風切り音をさせながら深柳の元へと飛び立っていく彼女を見やり、俺は何をしたかというと、頼むあいつを護ってやってくれと祈るほかなかった。


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