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作品名:ヒサルキゲームの物語 作者:秋兎

第13回 case.1 相原アキラの場合11-追憶世界-
 さてはて。一体この状況は何なのだろうね。ついさっきまで、巨大なモンスターに襲われていたかと思えば、いきなり見知らぬ世界に飛ばされたときたもんだ。
 RPGにおける、こういったワケのわからないワープの場合には、すぐ近くに説明好きのキャラ、もしくはNPCなどが配置されているものだが。
「どうも、そう都合よくはいかないみたいだな」
「あ、あれっ。私見えてないのかな?」
 辺りを見回し、鼻を一つすする。誰も居ないようだ。
 なになに。困った時は深柳に訊けばいいだろうって? いやはや、あいつも一緒に飛ばされて来たのならば俺だってすぐさま尋ねるさ。しかし、どうも飛ばされたのは俺一人だけだったようで、然るが故に頬筋肉はアホ面から焦燥感溢れる面へと徐々に変化しつつあるというわけだ。
 まぁ。救いといえば、やかましいヒサキと一緒に飛ばされなかったことぐらいか。あいつと二人でこの雪世界を歩けば、たちまち春の大地へとショートカット間違いなしさ。どうせ、「はんっ、こんなチンケな雪なんざ私の炎でちょちょいのちょいよ。もーえーろよ、燃えろっ。あはは! ヒサキ様の炎は無敵なりぃ!」とでも言いながら蹂躙闊歩間違いなしだろうね。それに慨嘆しながら続く俺の構図――なんてバカな妄想をしている場合でもないか。
 そろそろ本気で体が震えてきたしな。この粉雪、地味に俺の体温を奪っていきやがる。
「ねぇねぇ。明くんってばぁ」
 さて。これからどこへ向かおうか。とりあえず屋根のある場所に行きたいものだ。
 伸びをしながら立ち上がると、制服がじっとりと濡れて肌に張り付いていた。まったく不愉快極まりない。
「ふえぇぇ。無視しないでよぉ」
 なにやら摩訶不思議な鳴き声を発したところで俺は少女のほうへ振り返った。
「悪い。軽い冗談だ」
 しくしく泣き始めたその子の頭に手を乗せ俺は笑った。誰だか知らんが、一目見た瞬間、ついイジメたくなったのさ。そういうのってあるだろう? チョップしてくださいオーラっていうのがさ。
「そんなの出してないよぉ」
 ぐすぐすと言いながら、首を振るその子に、
「でえぃ!」
 ごすっと頭上めがけチョップ。
「ふえ!? ふえぇええん」
 はははっ。こいつは愉快だ。こんなおもちゃ東急ハンズ辺りに置いてありそうだな。ますます泣き出す彼女に俺は腹を抱えた。
 さて。遊ぶのはこれくらいにして、とっとと訊いとくもん訊いておくことにするか。
「ところで、ちびすけ。お前は誰だ?」
 至極シンプルに訊いたつもりだったのだが、少女は一瞬びっくりしたような顔で俺を見上げた後、少し視線を逸らしつつ、
「明くん。どうしてそんなひどいこと言うの?」
 先ほどのチョップのほうがひどいのではなかろうか。というか、名前を尋ねただけだぞ。何故そんなリアクションを――む?
 その瞬間だった。俺の脳裏にふと文字が浮かび上がった。そしてそれを咀嚼する間もなく、
「……奏」
 気づいたときには呟いていた。カナデって一体どこから出てきたんだ。はて? 首を傾げる俺とは対象的にその少女はとてもニコニコしている。さっきの泣き面が嘘のようだ。つまり、それは適当に言った名前が当たっていたことを示唆するわけで。
「ううん。適当なんかじゃないよ」
 俯き、ぼそっと呟く。じゃあ偶然当たったってことか。なんでもいいが、そろそろパンツまで雪が滲み込んできたのでどこか暖かい場所へ連れていってくれませんかね。
「うん。どんとこーいだよっ」
 彼女はどんっと胸をたたくと、手を俺に差し伸べた。
 なんだ。案内料を取るのか。若いくせにちゃっかりしている。きっと良い姑になるだろうさ。領収書にはなんて書いてもらおうか。上様で切れるよな。
 やれやれと制服の内側のポケットをまさぐっていると、
「わわ。違う違う。一緒についてきてって意味だよっ」
 顔を真っ赤にして手を振るリアクションに満足し、(というか、マジで案内料など請求されたら、無一文な俺はここで野垂れ死に確定だ)
「冗談だって」
 そいつの手を取った。やけに冷たい。
「さっき、雪だるま作ってたから。だからだよ」
 子供特有の無邪気な笑顔が眩しい。
「ふーん」
 雪国の子供っつうのは、やはり逞しいものだ。こんなクソ寒い中で遊ぶなんざ考えられん。いくら俺が田舎育ちとはいえ、冬はコタツに入り浸っていた記憶しかないぞ。サナとのミカン争奪戦は中々に体力を使ったがな。
 ……言っておいてなんだが、我ながら嘆息を覚えてしまった。
 とりあえず、彼女に手を引かれながらその後姿に質問をしてみる。
「なぁ、ちびすけ。じゃなくて、えーと、奏」
「うん?」
「お前も俺の名前を知っていたってことは、少なからず『あるゲーム』のキャラクターなんだよな。一体、なんで俺だけこんな知らんところに飛ばされてきたんだ?」
 少女はポニーテールを一つ揺らし、こちらを振り返ることなく快活に答えた。
「あはっ。明くんってばゲーム大好きだからね。またなんかの真似っこしてるんでしょ」
 真似? いやいや待て。何を言っている。この世界こそがゲームの世界なんだろ?
「うーん。そうだったらいいね」
 彼女はそれだけ言うとそれ以上何も答えなかった。こいつはもしかして、この世界がゲームの世界――造りものの世界だとは知らないんじゃないのか。先生や、シロツキはあくまでこれはゲームだということを認識していたが、全ての登場人物、ましてやこんな小さい子(小学生の高学年くらいだろうか?)は理解出来ないのかもしれない。ラティアのときもそうだったしな。
 そうと決まれば、作戦変更。何もわざわざ「お前はただのデータに過ぎない」など至言しなくてもいいだろう。俺はただ暖かい場所に連れていってもらえさえすればそれでいいのだ。それに質問するにも、こんなに寒いと頭が回らんしな。
 しばらくすると不意に、
「ねぇねぇ。今日のご飯、明くんの大好きなカレーなんだよ。ママが良いお野菜もらったから期待しててねだって」
 カレーとのフレーズにぎゅるぎゅると胃袋が収縮運動を通して俺に抗議する。
「ま、またカレーか。そりゃ毎日食っても飽きないけどさ」
「ふぇ。ママは一週間に一度しかカレー作らないよ。もしかして、どこかでごちそうになってきたの?」
 立ち止まり、きょとんとした顔を向ける。そんな無垢な瞳で見ないでくれ。おなかぽんぽんなんです、なんて言えないじゃないか。
「そ、そんなことないぞ。のたうち回るほどに嬉しいぜっ。どっこいしょー!」
 胃袋よ、すまん。
「あはは。なんか今日の明くんおかしいね」
 そりゃこんなゲームだ、おかしくもなるさ。
「ううん。やっぱりいつもの明くんって感じで安心したよ」
「そうかぁ?」
 いつもって俺としては初対面極まりないんだが。俺が眉をひそめていると、
「そうだよ。うんうん。ほらっ、冷めちゃうよ? 早く行こっ」
 一人で納得し、再び小柄な手が差し出される。
「……あ、ああ」
 ――ただのデータに過ぎないなんてちょっとひどかったかもな。
 暖かさを取り戻した彼女の手をぎゅっと握ると、俺はそんなことをぼんやりと考えていた。

***

 とまあ、そんなわけで彼女に引っ張られるまま来たワケなんだが。
 そりゃあ途中で、ひょっとしてなんて場面はチラホラあったさ。だがなぁ、
「これがデジャヴってヤツか……」
 俺が呆けていると、奏が「ふぇえ」とお決まりの鳴き声で重そうな門を開け放ち、トテトテと小走りで引き戸を開ける。そして俺を手招きしながら、
「ほらほら、明くん。お家に着いたよ」
 と、これまた無邪気そうな笑顔で微笑む。なるほどね。
「舞台は変わらず。結局は同じ島だったってわけか」
 俺は夏の世界で見た『アジト』の門を複雑な思いでくぐる事にした。


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