意識が戻ったとき俺は目を疑った。どうやら俺の知らぬ間に全世界が模様替えをしちまったらしい。 念のために目をこすりながら、もう一度空を見上げてみる。 「一体、何の冗談だ」 鈍重とした雲から白き結晶が降り注ぐ世界に見覚えなんてないハズだが。 はて。もう一度寝なおしてみようかと考え、一つ寝返りを打ってみる。 「つめたい――」 なんということだ。左側頭部にキンとする雪の冷たさを感じた。それは未だ睡眠を欲する頭を覚醒するのに十分だった。俺はようやく事態を飲み込む準備をすることにした。 雪のベッドから身を起こし、自分の居場所を確認してみる。 枝をしならせながら雪を抱きかかえる枯れた樹木に、ええと――それだけか? やはりというべきか、ここは俺の知るあの世界とは違うらしい。むしろ真逆もいいところだ。 もちろん俺の口はぽかんと開いたままなわけで。いやはや、変顔選手権などに赴いたあかつきには上位三位以内に確実に入っていたであろうアホ面だと自負できるね。 つまり、と白い息を吐き出し、 「どこなんだ、ここは」 そう、自問するように一人呟いたつもりだった。 だが――
「忘れたの?」
絶え間なく降り続く雪の合間から聞こえたそれは、とても頼りなかった。 耳を澄まさなければ北風のひとつにかき消されてしまうくらい――
「ここは私たちの島だよ」
振り返ると一人の小さな少女が笑顔で立っていた。
***
――夏の世界に。
――冬の世界で。
入り乱れる虚偽と欺瞞。
笑顔で苦しみに耐える彼女を前に俺は一体何が出来たのだろう。
涙を流し嗚咽をあげる彼女を背に俺は一体何を言ったのだろう。
なあ、これはただのゲームなんだろ?
紅く染まる世界に白く輝く世界を重ねながら、夢が覚めるのを待ち望んでいた。 さあ、この馬鹿馬鹿しい世界を終わらせよう。もう一度――力を込めるだけだ。
その瞬間、誰かがこう呟いた。
「奇跡なんて私は信じない」 The hisaruki game
case.1 〜相原アキラの場合〜
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