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作品名:ヒサルキゲームの物語 作者:秋兎

第11回 case.1 相原アキラの場合9
 …………。
 長い沈黙。
 ボウを向ける少年に、涙を浮かべながら悲しげな表情で見つめる少女。さすがにこの空気はまずいんじゃないか。
 俺は隣で腕を組みながら眉を寄せているヒサキの横顔に目をやった。ヒサキは俺の目線に気づくと、口を尖らせた。
「どうするのよ、この状況。ラティアって子も普通じゃないけど、リンもやり過ぎじゃないかしら」
「ああ、確かにな……」
 暴れるから消すとはさすがにイコールとはいかないからな。敵、いわばゲームでいうモンスターというのなら話は別だが、彼女は仲間になりうる契約すべき対象であり、ましてやこいつと何か関係がある子だぞ? 加えて絶世の美少女だしな。
 こつん。軽い衝撃を頭に受け俺は顔を上げた。
「なーに考えてんのよバーカ」
 見やるとヒサキの冷ややかな視線があった。なんだよその目は。健全な男子高校生なんだから、可愛い子に甘くなるのは至極当然だろう。
 しっかし、これはいつまで沈黙が続くんだろうな、この二人は。朝までやっているつもりだろうか。
「全部、終わったから私なんてどうでもいいの……?」
 不意に口を開いたのはラティアだった。終わったというのはどういうことだ。別れたとか?
「このゲームをクリアしたからってことでしょ」
 ヒサキがぼそっと言う。終わったってそういう意味か。
「終わっただと? 何を言っている」
 深柳の表情が曇る。やはり当の本人は知らないらしいな。
「もしかして本当に忘れちゃったの? だってリンはこの世界で――」
「そこまでです」
 途中で制したのはシロだった。微笑を浮かべたまま樹に打ち付けられたラティアの元まで歩み寄ると、
「いい加減になさい」
 そう言い、彼女の頬を叩いたのだ。
 一瞬何をされたのか理解できずにいた彼女だったが、ようやく叩かれたことに気づき、
「な、何を!」
「貴方はまだ子供だから理解出来ていないのかもしれませんが、それ以上の言動は規約に反します。まさかとは思いましたが、貴方には以前のデータが残っているようですね?」
「だって――!」
 何かを言おうとした彼女を抑え、なにやら耳元で呟く。
 次第に俯き、やがて黙り込んでしまった彼女から視線を移すと、穏やかな表情で、
「皆様、申し訳ありません。これ以上話されると少々厄介なことになりますので」
 深柳がボウを下げながら、訝しげに目を細める。
「厄介なこと?」
「ええそうです。ご存知のとおり我々はあなた方のように外の世界からテスターとして選ばれ入ってきた存在ではなく、この世界に存在するただのゲームのキャラクターであり、貴方たちの能力を強化するのが主な役割です。しかし、それ以上ではないんですよ。ある一定までしか教えられない。ましてやこの世界の仕組みなどを教えるのは言語道断です。なぜなら、もし教えるようなことがあれば、バグと見なされ即座に消滅してしまうようにプログラムされているからです」
 しばしの間考える素振りを見せ、深柳は無表情を青年に返した。
「確かに厄介だな……。解った、もう訊かないようにするよ」
「助かります」
 すまなそうに頭を下げる銀髪になんとも言えない笑みを返す深柳。
 いやはや。我々あぶれ組み二名は唖然とするばかりだ。気のせいかヒサキのアホ毛がげんなりしているようにも見える。
 つまり二人とも話についていけないわけで。
「はぁ……」
 傍らにいたヒサキが、自分の上着を着なおしながら、
「どーでもいいけど、早くモンスターでもぶっ倒したいわね」
 などと身も蓋もないことを言っている。
「すまない、待たせたな。行こう二人とも」
 いつの間にか横にいた深柳が、
「出来れば朝までには三人共契約を済ましておきたい」
 淡々と言うがな。俺は肩をすくめ、ヒサキに目で合図を送った。
 ヒサキは私に振るなとばかりに、手でT字を作るというよくわからないサインを俺によこしやがった。
 というかそれは、野球のときに使うタイムの合図だろ。
 ひとつため息をついておく。
 仕方ないが、こればかりはツッコんでおかんといけないからな。
「それはいいが深柳。あの子はどうするんだ? あのままずっとはりつけておくわけにもいかないだろ」
 悄然としている彼女を指差しつつ訊くと、俺に荷物を渡しながら、
「それなら心配はない。能力者から一定の距離を置くと解除されるみたいだからな」
 なるほどね。……ってそんなこと何故知っているんだ?
「結局、彼女とは契約を結ばないの?」
 ヒサキの問いに、深柳は伏せ目がちに答えた。
「いいんだ。もし、結んだとしても僕は以前のことを知らないんだ。きっと、お互い辛い思いをするだけに決まっている」
 さすがにそれ以上は訊けず、俺らは釈然としないまま森の奥へと進むことにした。本当にそれでいいのかだって? そりゃ俺だってそう思うさ。だがなぁ、こいつがそう言ってる以上どうしようもないだろう。
「ああもう、行くわよ!」
「は、はい」
 ヒサキの怒号に慌てて子狐へと姿を変えたシロは後ろ髪をひかれるようにラティアを振り返り、小さくため息を漏らしながらヒサキの頭の上へと着地した。
 煮え切らない様子でぷんすか歩くヒサキの後ろに、無表情のまま歩を進める深柳、そしてそれに嘆息しながらついていく俺という構図だ。
 辺りは当然のことながら暗闇に包まれており、月明かりですら森の木々に阻まれている。たまに鳴くどこぞの鳥が一層恐怖を誘う。
 頼りはヒサキの手に灯された炎だけであるが、緑に照らされるのも少々薄気味が悪い。
 そろそろ剣の重みで俺の肩は悲鳴をあげる寸前だったその時、
「おかしいわ」
 ヒサキが呟く。
「ああ。この道はどうなってるんだ」
 深柳がそれに続く。
 なにがおかしいんだ。ちゃんと俺にわかるように説明してくれ。
「見てみなさい」
 手を上げると炎が強く燃え上がり、辺りがまるで昼間のように明るく照らされた。見飽きた樹木ばかりじゃないか……ん? 焚き火の跡だと。まさかこの森に俺ら以外の人がいるというのか。
「いえ、我々しかいないと思われます。問題は……」
 子狐が首を向けた先に俺は愕然とした。
 それは樹に打ち付けられたままのラティアの姿があったからだ。
 彼女は驚いた様子で俺たちを見つめた。
 どういうことだ俺らはなんでまたここに?
「まーさか、よくある迷いの森というやつかしら?」
 何が面白いのかケラケラ笑うヒサキが怖い。
「とりあえず、別の道を探そうか」
 踵を返そうとした時、突如地震が起こった。目の前がガクガクと揺れる。揺れはますます勢いを増していく。震度いくつぐらいだ? 五以上はあるだろうか。経験したことはないが。うお、立っていられん。
 何かにつかまろうとして、夢中だった俺は手探りで布状のものをつかんだがそれは、
「きゃっ!」
 という声とともに道連れとなってしまった。
「な、なにすんのよ、このバカアキラ!」
「わりいわりい」
 俺たちが立ち上がろうとした瞬間、なにやら恐ろしいうなり声が聞こえてきた。
 それはまるで肉食動物のように低く太い声だ。
 恐怖のあまりヒサキと凍り付いていると、深柳の声が聞こえた。
「二人とも大丈夫か? 暗くてよく見えないな……。ヒサキ、炎を出してくれ」
「ちょ、ちょっと待って」
 慌てて手を振り、炎を出そうとするがうまく出せないらしい。
「落ち着けって! ひーひーふー! 力むんだ、ほれもっかい」
「わかってるわよ! てか、何の掛け声よそれぇ!」
 そうこうしている内にやっと炎が灯され、安堵しながら深柳を見上げたが、俺らは再度凍りついた。断じてそいつの顔がのっぺらぼうでしたとかそんなわけではない。
 それは、頭にクエスチョンマークを浮かべている深柳の背後に佇む黒の毛皮に包まれた巨大な虎を見たからだ。一瞬しか見えなかったが、マジで軽くヤバい。
「きゅううぅ〜」
 ヒサキがその場に卒倒してしまう。
 お、おい、倒れてる場合じゃないぞ。炎を消すなこのバカっ、怖いだろ。俺は半分パニックになりながら、
「深柳、気をつけろ! と、虎の化け物が後ろにいるぞ!」
 なんともこれ以上ないだろうというくらい情けなく叫び、そしてそのまま俺も気を失ってしまった。


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