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作品名:ヒサルキゲームの物語 作者:秋兎

第10回 case.1 相原アキラの場合8
 しばらくして俺たち三人は再び焚き火の前に腰を下ろしていた。
 だが、先ほどと異なるのはだな、
「くぅくぅ……」
 やけに短いスカートからチラリと白く輝くふとももが覗いている美少女が加わったという点だ。
 しかも、すやすやと気持ちよさそうに寝息をたてながらな。
 普段ならグッと来る俺だが、さすがに凄まじい剣幕で襲いかかられたらその姿を見ても嘆息するしかあるまい。
 ヒサキは自分の上着を彼女にかけると(残念なことに腰辺りにかけてしまった!)、赤いネクタイを締めなおした。
「で。どーすんのよ、コレ」
 呆れたように頬杖をつきながらラティアと呼ばれた金髪少女を指差す。どうすると言われてもな。一応考える振りでもしておくか。
「あんたじゃないわよ」
 憮然としたヒサキは俺ではなく深柳に訊いたらしい。確かにこいつに何やら縁がありそうだからな。
 しかし、もっと気になるのは何故俺が彼女に襲われなければいけないのか、だ。
 彼女が言うには俺たち(多分三人で?)がその子の母親を殺したらしい。だが、当然ながら俺たちはついさっき初めて顔を合わせたわけで、そんなものまったく心当たりがないのだ。
 そして、殺された≠ニいう単語に疑問を覚えた。何故なら、彼女の最初の発言とかみ合ってないのだ。確か彼女はこう言ったはずだ。「外から来た奴に母親を連れていかれた」そしてその後すぐに、一転として彼女が暴れだしたわけなのだが……。
 ただ単に、母親を連れていかれたせいで錯乱状態に陥って支離滅裂なことを口走っているだけなのかもしれない。そう考えるのが一番妥当ではありそうだが。俺がブツブツつぶやいていると、
「あーもう、うるさいってーのよ!!」
 俺の目の前が爆発した。無論、言うまでもなくヒサキの炎のパンチがヒットしたのだが、能力をもらった当初より格段に威力が増しているわけで。これがもし現実世界なら俺はとても見られない状態になってしまったであろうと思われるほどの威力なのだ。
 要約すると、むっちゃ痛い。
「あっ、ほんとだ三倍よ三倍!」
 ぴょんぴょん跳ねながらまるで白い巨人を打ち倒した赤い隕石のように喜んでいるところすまないが、俺はいつからお前の威力測定器、はたまた実験モルモットへと堕ちてしまったんだ。
「最初からじゃない」
 そうか、なるほど。初めからこの位置だったな。俺の能力よ、開花するならなるべく防御主体の力にしてくれ。もしくはどこかに頑丈な盾でも入った宝箱などないかね。
 いくらゲームの世界とはいえ、毎回仲間に瀕死の状態へと追いやられるとさすがにリセットボタンに手を伸ばしたくなるぜ。そんなボタン、もしあればの話だが。
「さて」
 すっかり黙ってしまった俺を確認すると、ヒサキが腕を組みながら口をへの字に曲げ、
「この子……。ラティアとかいったわね。まぁこんな奴らうんぬんという点については今回だけ目をつぶるわ」
 よかったな。三倍の拳をうたれなくて。
「でもね。気になるのはその後の、『またこの世界に』っていう点よ!」
 ヒサキのちょこんとしばった二つの小さいおさげが、これでもかというようにぴょこんと跳ねる。
「さあどうなのよ、深柳リン容疑者!」
 お前が普段どういうドラマ見てるかわかるな。
「どうと言われても。言っただろ? 僕はそんなヤツ知らないし、ましてやこの世界なんて今日初めて来たばかりだと。そこで、説明書どおりに先生に会い、アキラとヒサキの仲間になった。あるゲームの物語という世界における記憶はこれが全てだ」
 スッと、すっかり冷えてしまったであろうコーヒーの入ったカップを口元に運んだ。
「むぅ……。そりゃ、そうよねぇ」
 子狐の姿でヒサキの周りをふわふわ浮いていたシロが、
「深柳様、お注ぎ致しましょうか?」
 と訊ねるが、
「いや、君はヒサキの下僕だ。僕に世話を焼く義理もないだろう」
 固い奴だな。ヒサキのしもべは俺たちのしもべだぞ。
 そんなどこかの自己中イズムみたいなところまではいかんが、別にコーヒーぐらいありがたく注いでもらったらどうだ。
「下僕だとかどーのとか、呼び方がそうであって、結局は仲間じゃない。そうよ仲間よ、仲間っ! これから力をあわせて敵をぶっ倒していくんだものっ。そんな固く考えないで仲良くやりましょ」
 すまん。俺はこいつのことを多少なりとも勘違いしていたようだ。そうだな、仲間だよな。少しだが目頭が熱くなってしまった。ダメだ、初めてのおつかいのテーマソングだけでジワッときてしまう純粋な俺には少々危うい領域だったようだ。
「はい、そゆことだから。ほれほれさっさとわらわにもコーヒーを注ぎたまえ。気の利かない狐じゃの。ほっほ」
 前言撤回。つーか何のキャラだ、それは。
「はは、かしこまりました」
 熱いコーヒーを一口含み、俺はブラックも中々いけるものだと思い、再度むせた。
 ちなみに、何故こんなにもはやく湯が沸いたのかというと、「まどろっこしいわねぇ」と湯の入ったヤカンを握り、即座に沸騰させたガス代いらずの女がこのパーティにいるからである。
「う〜……」
 匂いに惹かれてか、突然目を開けたラティアといった子は、寝ぼけ眼でキョロキョロした後、
「あれ、ここ、どこ?」
 と、うぐいすのような声で訊ねたのである。うぐいすの声なんぞ俺は聞いた覚えないが、イメージ的にそれほど可愛らしい声であったと言えよう。
「困った子ですねぇ。これでも飲んで目を覚ましなさい」
 ぼーっとしている彼女にコーヒーの入ったマグカップを渡した。
「ありがと……」
 それを小さな舌でちょこっとなめると、
「あ、熱ぅ……」
 うっひょおぉ! たまらねぇぜ!
 その子猫のような姿を見た瞬間、つい舞い上がって雄たけびを上げそうになってしまった。
 待て待て。お、落ち着くんだ俺。お前はまた殺されかけたいのか。いや、もはやこの子になら刺されてもいいかもしれん。これからの未来、そういうジャンルも割とアリなのかもしれんぞ。
「ちょ、ちょっとねぇあんた! かわいこぶってないで、私たちに何か言うことないの!?」
 ヒサキの人差し指がラティアといった金髪少女の鼻先に押し付けられる。
 とはおっしゃいますがねヒサキさん。実際、可愛いんだからしょうがないだろ。お前とは違って男性の柔らかい部分をくすぐる才能をお持ちのようだ。それはもう、グググイっとな。
 だが、彼女はヒサキを完全スルーすると、とてとてと走って深柳をぎゅっと抱きしめた。ぐずぐずと涙を浮かべながら胸に顔をうずめる姿は……。
「リン、会いたかった、ずっと寂しかったんだよ――リンっ」
 さらば俺の青春。
 彼女の長い髪を撫でながら、無表情でいられる深柳の野郎がにくい。ヒサキはその様子を憤然とした様子で眺めると、俺へと視線を移した。俺を睨んでどうする、俺を。
「もう一度訊く。君は、誰だ。どうして僕の名を知っている。そして、僕がこの世界に来たことがあると?」
 とても優しい声で訊ねる。時々、こいつが分からなくなるな。まだ会って間もないから当然だろうが。何か、違和感が。いや、俺の気のせいかもしれんが――。
「私、ラティだよ。リン、忘れちゃったの? ずっとずっと、一緒だったのに……」
 この子は何を言ってるんだ。ますますわからん。
 頭にクエスチョンマークを出しながら困惑している俺とヒサキを睨むと、彼女が突如として叫んだ。
「殺人鬼たち! 絶対に許さない。ゆるさないゆるさないゆるさない!」
 な、なんなんだ!?
 再び暴れようとするラティアを強く抱きしめると、深柳が辛そうに呟いた。
「やめるんだ。僕は君を知らない。本当なんだ。君が僕を知る理由が知りたい。そして、彼らは僕の大切な仲間だ。頼むから傷つけないでくれ」
 しかし、彼女は尚も深柳の胸で暴れる。何かが引き金になったのだろうか、その行動は常軌を逸していた。そいつの諭すような声なんか聞こえちゃいない。まるで何かを呪うようにただ暴れている。
「こんな奴ら、あんなことになるなら私が殺してやる!」
 更に激昂し暴れる彼女を突き飛ばすと、
「どうしてもやると言うのなら、」
 衝撃で大木に打ち付けられた彼女に、無数の草やツタが巻きついていく。
 身動きの取れなくなった彼女にハンドボウを向け、
「消さざるを得ない……」
 黒檀のような深柳リンの眼がどろりと濁っていった。


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