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作品名:ヒサルキゲームの物語 作者:秋兎

第1回 プロローグ
 あー、君達。

 突然だが、ここに大いなる宣言をしよう。俺はゲームが大好きだ!
 あの非現実的な魔法、美しい街並み、喋る動物など魅力あふれる世界がそこにある。
とはいえ、俺にだって常識というものはある。
 つもりだ。
 もし、あんな魔法などがあったとすれば世界は混乱してしまうだろう。犯罪などもすぐに溢れかえってしまう。透明になってしまう魔法なんて出来上がった日には目も当てられない。別にやましいことを考えているわけではないぞ。
 そして美しい街並みだ。いや、これは現実にもあるだろう。
 だがそれは、新宿超高層ビルから眺める夜景や外国の公園(パークだぞ、パーク!)もしくは蒼穹の下、軽やかに流れる風を全身に受けながら体を揺らすチューリップ畑など、到底田舎者のましてや高校生如きである俺には手が届かない風景であるのは確かだ。
 そして喋る動物によると、これはもう悲惨としか言いようがない。現実世界でそんな動物が生まれたとしよう。
 あらかじめ言っておくがこれはあくまでも仮定の話だ。
 クラスのとても可愛く清楚で可憐なそしてめんこい女子が、たわわな胸を揺らしながら女の子走りではぁはぁと息を切らし、俺の席の前までやってきたかと思うとキュートな唇でこう言うんだ。
「ねぇねぇ、アキラくん! 飼育していたうさぴょんが子供生んだんだよ! あの、みたい……?」
 当然、別に仲良くもない女子に興味も沸かない話を突然振られた俺は唖然としながらくだらないと思いつつ、
「マジで! みたいみたい!!」
 こう言ってしまうだろう。これは男の性だ。認めろ、君たち。
 だが、ここまでは良くある妄想話だ。
「えっとぉ、ちょっと珍しい子なんだけどぉ。んっとぉ……。ほらっ!」
 もじもじと、今時の子にはない恥じらいを惜しげもなく俺にぶつけていた彼女が差し出した手には、確かに生まれたばかりであろう小さく可愛らしい子うさぎがうずくまって眠っているではないか。
 俺は別段、動物などに興味をもったことはないが(ペットなど飼った覚えがない)なんと魅力的なのであろう。 生命の素晴らしさがそこにある。
 やはり、子供というのはどんな生命体のそれであろうとも美しいものなのだ、ルールールー。
 起こさないようにしようと目を細めて眺めていた俺の優しさオーラに気づいてしまったのか子うさぎは赤い瞳をパチクリとし、俺を見上げると、
「やあやあ、そこのお兄さん。ちょっとお尋ねしたいのだがここはどこかな? 私の母親はどこだろう。ん? もしや私を抱いているこの麗しき女性が母親なのであろうか。これはまいった、傑作だよ傑作。ならこの長い耳はどう説明してくれるのかね。いや、嘘だよ分っている理解してるさ。いやだな、ただ君達をからかってみようと思ったまでだよ。それで話は変わるが井村屋と木村屋の違いとは……etc,etc」
 そう、きっとこのような事態に陥ってしまうだろう。ちょっとサンプルに問題があったかもしれないが、無きにしも非ずなのだ。 もちろん例え話なのだから無い話なのだが。
 つまり何が言いたいのかというと、こんな世界ありえないのだ。
 俺だってもう高校二年生にもなる。そろそろ進路でも考えようかななどと思いつつ、いつものように高校に行き、帰ってポテトチップでもつまみながら一休みした後、電車に揺られ塾に行く。そして帰りの電車の中、三十分だけ頭を休める為に楽しみの携帯ゲームにスイッチを入れる。
 ごくごく普通の日課だ。そうだろ?
 ああ、なんて素晴らしいのだろう。ビバ普遍的な日常生活。平和な学園生活を送れる日本社会に感謝だ。

***

「これでよし、と」
 俺は夏休みの作文を書き終えるとベッドに突っ伏した。我ながらゲームを題材にした作文とは思い切ったことをしたものだ。ついつい書き始めたら熱が入ってしまった。だが、今更書き直すには時間が足りないし、後悔なんぞしてないけどな。
 そう、明日は悲しくも突然おとずれる登校日なのだ。忘れようなどと考えようものなら宿題という闇の勢力がそれはもう果てしない程に強大さを増していく。まぁ、こうやって無事に最後の宿題を終わらせることが出来ただけよしとするか。内容など二の次だ。少々、最後は強引な気も否めないが。
 ようやく悪しき呪縛から解き放たれた俺は、窓を開けると心地良い夜風を頬に受けた。夏というものはどうしても好きになれないが、夜は幾分か気持ちが良いものだ。窓の外に目を向けるが、いつもと変わらぬ田んぼの世界がそこに広がる。田植えばかりでいいのかお爺さんお婆さんそして県知事よ。
 それにしても、もうすでに真っ暗闇なんてどこまでここは田舎なのだ。まだ夜九時半だぞ。
「おっと、蚊が入ってしまうからそろそろ閉めるか」
 断じて独り言ではない。遠くでリンと鈴虫の声が鳴ったろ?
 さてさて、一仕事終えたあとは軽くゲームでもするか。寝るにはまだ早いしな。
愛用の携帯ゲーム機に今日は何を差そうかとゴソゴソとしていたわけだが――
 ない。ないのだ。この俺を燃えさせてくれる熱いゲームがない! ほとんどやり終えたゲームばかりで、新作は財布の都合で買っていなかった。
 こうなったら是が非でも欲しい。たとえ旧作であろうとも。これではまるで禁煙をしていた重度の喫煙中毒者が陥る禁断症状と変わりがないな。
 我ながら頭が痛い思いだが、いやいや思い立ったが吉日、Myバイシクルにまたがり、
「待ってろよ、熱い情熱!」
 もちろん小声で言ったぞ。いそいそとペダルをこぐが行けども行けども変わらぬ風景。隣町のゲームショップまで自転車を走らせても二十分はかかる。なぜ俺の親はこんなド田舎に腰を据えているのだ。遊ぶ場所などすべて隣町任せではないか。それでお前は悔しくないのか。 
 とまぁ、行きはよいよい帰りはなんとやらとはよく言ったもので、めぼしいゲームソフトを見つけることが出来ずあえなく断念した俺はチャリの鍵を探すべくポケットに手を突っ込んだ。
「……どこ入れたっけか」
 そして、再び通るこの無音に続く畦道を進むにつれ俺の先ほどの燃え上がるようなテンションはやはりというべきかその手の遊園地などで絶大な人気を誇る垂直落下アトラクションのように駄々下がりの一方を迎えていた。
 こんな心持ちの時は決まっていつもの妄想に耽るのが常だった。何を妄想するのかって?
 なんてことはない、さっきとは逆の話さ。
 ああ、こんな退屈な日々はもう飽き飽きだ。なんで俺はこんなつまらない世界に立たされているのだろうか。
 目を閉じる度思うね、剣や魔法、おまけに美少女といったものが飛び交うゲームの世界に通じる時空の穴でも落ちてないものかってね。そりゃそうだろう? 
 何が面白くてせこせこ勉強しているのかって、急かされるように塾へ通う足も笑ってるさ。そんなことより経験地稼ぎにでも勤しんだほうが足も幸せってもんだろう。
 なんつってな。そんなことを頭のどっかしらで考えてりゃ鬱な気分はたちまち霧散し、そして気付いた頃には家の前のはずさ。
 だが、今日ばかりはそれが違っていた。今思えばこの時点で俺の普遍的な日常生活、はたまた平和な学園生活が一変したのかもしれないな。
「どわ、あぶねぇっ」
 あるものがのそっと道をよぎり、俺はたちまち錆付いたブレーキを叩き起こした。
 鳴き疲れた蛙でも出てきたか? 田舎ならよくあることだ。踏んでしまったら飯の量減るぞ。そりゃもう気持ち悪くてな。
 自転車から降りると俺は鈍重な動きの蛙が別の田んぼへと引っ越す様をぼーっと眺めていた。そして、そいつがようやく渡りきったところで、
 ガンッ!
 ん、何の音だ? 衝撃が伝わってきたって事は、と……。自転車のカゴを覗くと案の定その物とやらを発見した。
 空を見上げるが、変わった様子はない。改めてカゴの中のものをつかみ出すと、
「なんだこれ、ゲームソフト?」

 このゲームにはこう書かれていた。
 これはあるゲームの物語です。もしイヤな事があったり気分を転換したい場合。このカセットを入れてみてください。
 それはとても非現実的であり、あなたの心の渇きを潤してくれることでしょう。しかし、くれぐれもご利用は計画的に。
 っておいおい、こんなうたい文句、今時小学生でもひっかからないぞ。


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